島根県の「絹乃峰(きぬのみね)」というお酒をご存知でしょうか?
首都圏の方には、あまり聞きなれない銘柄だと思います。私も「しまねの地酒フェア」で初めて知った銘柄です。
たくさんの美味しいお酒が揃う「しまねの地酒フェア」の中でも直感的に惹かれたお酒が、この「絹乃峰」。その魅力の理由を探るべく、島根県の赤名酒造を訪問しました。
地元産酒米にこだわる赤名酒造の酒造り
赤名酒造の創業は1929年。蔵がある島根県飯南町が、酒米の生産が盛んな土地であったため、以前から地元産の米を使った酒造りをしてきました。
代表銘柄の「絹乃峰」は、蔵の近くの衣掛山にかかる霧が絹のようだったことに由来しています。スッキリとした上立香と、やや酸のあるシャープな飲み口ながら旨さ甘さを感じることのできる、しっかりとした味わいのお酒です。
蔵の経営破たんと、町主導の再生プロジェクト
地元で愛されてきた赤名酒造でしたが、地元消費の落ち込みが響き、2004年に経営破たんしてしまいます。その後、蔵の存続を願う町民の要望もあり、飯南町が蔵を買い取ります。しかし、蔵人の高齢化による引退や、設備の老朽化といった問題もあり、再建は思うように進みませんでした。
それでも県内有数の酒米生産地に酒蔵を残したいという想いは強く、2013年に町は現在の三島社長 兼 杜氏に白羽の矢を立て、多額の設備投資を決めました。
三島社長は、4年前まで東京で会社員として働いており、Uターンで地元飯南町に戻り、役場職員として赤名酒造のPR活動などの業務に関わっていましたが、その時から赤名酒造と三島社長は、蔵の存続だけではなく、町の未来の期待を背負う存在となりました。
三島社長にその当時のお話を聞きました。
「醸造学科を出ていたこともあり、酒造りに関わることになりましたが、まさか社長になるとは思いませんでした。3年前は、生産量は少量のタンク数本、販売先も少なく、設備も老朽化し、壁を触ればボロボロと崩れるといった状況でした。
正直、蔵の存続は不可能だと思いましたが、やる前から諦めるのは嫌でしたので、何とか再建できる方法はないかと考えました。結果、町とは2点について相談し、話がまとまらなければお断りするつもりでした。
1点目は、酒類総合研究所に酒造りの勉強に行かせてもらうこと、2点目は老朽化した蔵の全面改修です。町は2点とも実施を決め、1憶2千万円にも及ぶ酒蔵の改修をしました。それが完了した2014年10月から、蔵の経営と酒造りを引き継ぐことになりました」
蔵は「酒造り交流館」という飯南町所有の施設になっていて、赤名酒造は町から設備を借り酒造りを行っています。
最新設備と愛情で造りあげる「絹乃峰」
絹乃峰の酒米は、地元飯南町の「五百万石、佐香錦、神の舞」を使用し、水も同じく飯南町の水を使用します。2014年からは純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒だけを仕込む純米蔵になりました。
造りは、酒によって手順・工程を変えるのではなく、全てのお酒で同じ仕込みをします。洗米~貯蔵までのすべての工程を冷蔵設備の中で行い、可能な限りお酒にストレスを与えず、大切に大切に愛情を持って育てることで、狙った酒質のお酒を造っているのだそうです。
最衛生区、衛生区、中間区、汚染区と、4段階に分けられ、徹底された衛星管理。
全ての米を限定吸水で浸漬。
浸漬した米を甑(こしき)で蒸米。
米麹は突破精型(つきはぜがた)で、噛むとだんだんと甘味が感じられます。
全てのお酒が槽(ふね)を使って搾られます。
搾ったお酒はそのまま瓶燗火入(びんかんひいれ)を行い、生酒は-7℃の冷蔵庫で貯蔵します。
造りの様子は、蔵のプロモーション動画でも閲覧できます。
絹乃峰は、地元の酒販店をはじめ、ネットの「絹乃峰ショップ赤名酒造公式」店でも購入が可能。
また、島根県飯南町のふるさと納税のお礼品にもなっています。
販路を求めて海外へ
2014年の再出発の時から、地元消費だけでは十分な売上を見込めないと考え、海外での販路を検討していました。もともと商社に勤めていた三島社長のご活躍の元、現在はタイの料飲店を中心に純米酒・純米大吟醸酒を輸出しています。また、国内製品をそのまま海外に輸出するのではなく、現地で喜ばれる容量、味わいを狙った商品を開発しました。
海外輸出向けの絹の峰 300mlは、甘味とコクが強く、熟した果実のような味わいもあり、タイ料理との相性も良さそうです。
赤名酒造の今後
今後の目標について、三島社長は「町の期待、責任に答え、地元を活性化することが目標。そのためには、今以上に酒質を向上させ、製造、販売数も増やしていきたい」と話してくれました。
町の未来を背負って、島根県から海外へ。今後も赤名酒造の活躍に期待しています。
Facebookの赤名酒造オフィシャルサイトはこちら。
赤名酒造のホームページはこちら。
(文/小林 健太)