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灘五郷で大人の散歩! 学んで良し、呑んで良しの酒造資料館めぐり

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兵庫県の灘地域は、江戸時代にもっとも栄えた、日本を代表する銘醸地。現在でも、およそ30の酒蔵が美酒を醸しています。石数の多い酒蔵の中には、酒造資料館などの観光施設を設けている蔵も少なくありません。

700年の歴史をもつと言われる「灘酒」

灘における酒造りの歴史は、1624年に西宮で行われた醸造が最初とされていますが、伝承ではさらに古く、元弘・建武の時代(1330年頃)からすでに始まっていたのだそう。その後、明暦から享保(1655~1736年)の間に灘で創業し今日に至る酒蔵は多く、その時代が灘酒の勃興期と言えるでしょう。

正徳6(1716)年に初めて"灘"の名前が用いられ、明和年間(1764年~)に、"灘目(なだめ)"と称されるようになります。灘酒の隆盛に伴って、江戸時代から灘五郷がその形を整えていきました。灘五郷は、西から「西郷(にしごう)」「御影郷(みかげごう)」「魚崎郷(うおざきごう)」「西宮郷(にしのみやごう)」「今津郷(いまづごう)」と並んでいます。

今回は西郷と御影郷、魚崎郷を西から順にめぐっていきましょう。

"米だけの酒"にこだわる「沢の鶴」

まず最初に訪れたのは、西郷の「沢の鶴資料館」です。

この施設を運営している、沢の鶴株式会社は享保2(1717)年創業。発祥が米屋だったため、米の字を由来とした「※」マークを商品のラベルに刻印しているのが特徴ですね。"飲みやすいお酒とは、米だけの酒(=純米酒)である"という信念のもと、米はもちろん、醸造に適した灘の名水「宮水」の生命力を生かした酒造りを続けています。

資料館は1978年に「昔の酒蔵 沢の鶴資料館」として開館しましたが、1995年の阪神淡路大震災で倒壊。1999年に再オープンしました。

資料館では、まず1階で酒造りに関するビデオを観賞することができます。洗米の際、昔は手を使わずに足で踏みつけるようにして洗っていたことに驚きました。冬の寒い時期は、足先が痺れて感覚がなくなったことでしょう。

順番に酒造りの工程を追い、昔使われていた古い木製の道具を眺めながら2階に上がると、酒造道具のほかに、灘から江戸へとお酒を運んだ樽廻船の模型がありました。灘から江戸へ運ばれた「下り酒(くだりざけ)」の時代に思いを馳せることができます。

見学を終えた後は、隣接されたミュージアムショップで試飲。この日は本醸造の生原酒と梅酒をいただきました。本醸造酒はアルコール度数が18.5度あり、野太い旨味がガツンと体当たりしてくる印象。梅酒は南高梅を古酒に漬けたもので、軽快で爽快な喉越しを楽しむことができました。

事前の予約がおすすめ!「神戸酒心館」

続いて向かったのは、御影郷の「神戸酒心館」。宝暦元(1751)年創業で、「福寿」という銘柄を造り続けてきました。現在の蔵元は13代目です。ノーベル賞の晩餐会で、こちらのお酒が振る舞われたこともあるのだそう。事前に予約をすると、ガラス越しではあるものの酒造りの設備を見学することができます。

蔵元社長による挨拶の映像を見た後、エレベーターで4階へ。ガラス越しの新しい設備を眺めることができました。蔵人の詳しい説明を聞きながら見学をした後は、建物の外に出て、敷地内にある小さな田んぼへ向かいます。

ここでは、"酒米の王様"と呼ばれる山田錦を栽培していました。近所の小学生たちが父の日に田植えをし、秋になると刈り取りが行われます。収穫期には、食用米に比べてはるかに背の高い山田錦の稲穂を見ることができるのだとか。

見学後は販売コーナーでの試飲。この日は8種類ものお酒を飲むことができました。35%精米の大吟醸酒からスタートし、吟醸酒や純米原酒、そして生酛の純米酒へ。瓶内二次発酵のお酒や日本酒ベースのゆず酒も楽しむことができました。味わいの多彩さに驚かされるばかりですね。

英語にも対応した解説映像で、観光客も安心の「白鶴酒造資料館」

次に訪れたのは「白鶴酒造資料館」。運営する白鶴酒造は寛保3(1743)年創業。高度成長期に売り上げを大きく伸ばし、現在は清酒の醸造量で日本一を誇る大手蔵です。「白鶴まる」のシリーズは多くの人が知っているでしょう。

資料館に入ると、洗米から始まって、蒸米や製麹、醪造り、火入れなどの工程別に各種道具がディスプレイされ、それぞれについて解説の映像が流れるようになっていました。工程別にじっくりと勉強することができます。日本語だけでなく、英語での説明もありました。外国人の訪問も意識しているんですね。

最後はもちろんきき酒コーナーへ。いただいたのは、本醸造酒を凍らせてシャーベット状にしたもの。他にも、ゆずのリキュールや梅のリキュールなど、晩夏にちょうど良い涼しさをいただくことができました。

ここでしか飲めない限定のお酒も!「菊正宗酒造記念館」

次に訪ねたのは「菊正宗酒造記念館」です。菊正宗酒造は万治2(1659)年の創業。酒蔵は昭和35年に現在の地に移築し、他の酒蔵に先駆けて資料館を開きました。

しかし、阪神淡路大震災で全壊してしまい、1999年に新築の記念館をオープン。展示室は他の施設よりもコンパクトですが、実際に酒造りが行われていた、1日の中で気温がもっとも下がる夜明け前(午前3時)の雰囲気を体感してもらおうと、室内を薄暗くしています。

菊正宗酒造が普通酒を除く全商品で生酛造りに取り組んでいることもあってか、酛摺りの現場を再現した展示にもっとも力が入っているように感じました。

試飲では普通酒の生原酒をいただきました。太く濃醇な旨味ががっつりと襲いかかってくるような、迫力のある唯一無二の味わい。しかしこちらは、残念ながら非売品とのこと。

名物スタッフのいる観光蔵「浜福鶴 吟醸工房」

御影郷の3蔵を巡った後は、東の住吉川を越えて魚崎郷の酒蔵へ足を伸ばしました。「浜福鶴 吟醸工房」は小山本家酒造(灘浜福鶴蔵)によって酒造棟と試飲・販売店を併設させた"観光蔵"として運営されています。

元は酒造工場だけでしたが、阪神淡路大震災で蔵が全壊してしまったので再建をすることになりました。その際、観光客に酒造りの様子を見てもらい、そのうえでお酒を試飲・購入してもらおうとの狙いから、1996年1月に観光蔵として生まれ変わったのです。

階段を上がった2階からは、酒造りの様子をすべて眺められるようになっていました。注目すべきは仕込みタンク10本が並ぶ仕込み部屋でしょう。醪の発酵する音が流れてきて、仕込み部屋にただよう吟醸香が見学者のいる場所にも届く仕組みになっています。

さて、見学が終わって1階の物販コーナーに下りていくと、お酒が並ぶショーケースの前に人だかりができていました。「浜福鶴」の法被を着てハチマキを締めた年配の男性が、たくさんのお客さんを相手に解説をしながら、試飲カップにどんどんお酒を注いでいます。

実はこちらの方、宮脇米治さんという吟醸工房の有名人なんです。宮脇さんは中学を卒業後、小山本家酒造の前身にあたる酒蔵に入り、還暦まで酒造りに携わっていた超ベテラン蔵人。引退した後も吟醸工房の店舗に立ち続け、早20年が経ちます。

もうすぐ80歳になる宮脇さんは「浜爺(はまおやじ)」「米(よね)ちゃん」の愛称で親しまれ、話を聞きながら試飲をし、お酒を買って帰るリピーターがたくさんいるのだとか。

この日も大吟醸酒から始まり、5種類の清酒と2種類のスパークリングを振る舞い、さらにはブランデー樽やシェリー樽に漬けたお酒を次々にテンポよく注いでいただきました。

「酒造資料館」に足を運び、日本酒の造りや歴史に関する知識を深めながら、各酒蔵のお酒を試飲する休日。とても楽しい、大人の遠足になりました。

(取材・文/空太郎)

沢の鶴資料館

  • 住所:神戸市灘区大石南町1-29-1
  • Tel:078-882-7788
  • 営業時間:10:00~16:00(水曜定休、お盆と年末年始は休館)
  • 備考:入場無料

神戸酒心館

  • 神戸市東灘区御影塚町1-8-17
  • Tel:078-841-1121
  • 営業時間:10:00~18:00(年末年始を除いて年中無休)
  • 備考:入場無料

白鶴酒造資料館

  • 神戸市東灘区住吉南町4-5-5
  • Tel:078-822-8907
  • 営業時間:9:30~16:30(お盆、年末年始を除いて年中無休)

菊正宗酒造記念館

  • 神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
  • Tel:078-854-1029
  • 営業時間:9:30~16:30(年末年始を除いて年中無休)

浜福鶴 吟醸工房

  • 神戸市東灘区魚崎南町4-4-6
  • Tel:078-411-8339
  • 営業時間:10:00~17:00(月曜定休)
  • 備考:入場無料

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空太郎

日本酒指導師範(菊正宗認定)&酒伝道師です。1年365日、日本酒を飲んでいます。10人未満で丁寧にお酒を醸す銘酒小蔵がたくさん存在することが、日本酒の多様性と魅力を維持するのには欠かせないと思っています。そんな酒蔵の活動や、それを応援する酒販店や居酒屋の動きをお伝えしていきます。