みなさんにとって、再訪したい酒蔵はどんなところでしょうか?

”その場でしか飲めないおいしい日本酒がある蔵”
”作り手の話を聞き、人柄を知ることができる蔵”
”地域にまつわる歴史を感じられる蔵”

などさまざまな理由があると思いますが、今回は、印象に残りもう一度訪れたいと感じるポイントとして”統一された世界観とストーリー”を挙げたいと思います。

極論かもしれませんが、日本を旅行していると全国どこでも同じような景色が目につきます。
また、ネットやストリートビューを使うと、世界中の観光地から知らない秘境まで簡単に見ることができます。
このように大体のものがどこかで見たことがある現代では、見る行為だけでは感動や驚きも目減りします。

そんな中でも、”足を一歩踏み入れること”で思わず引き込まれる場所があります。
そこに入ると日常を忘れ、気持ちがリラックスし、その世界観に身をゆだねることができます。

今回はそんな引き込まれる世界観を持つ茨城県石岡市「白菊酒造」をご紹介します。

神と日本酒と歴史の地・石岡

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毎年3日間で40万人を動員する「関東三大祭り」の一つ、「常陸國總社宮例大祭」で有名な石岡は、かつて常陸国の国府が置かれていた場所であり、歴史の深い古都としても知られています。

そして、日本酒は神様へ捧げる神聖な飲み物として生まれた経緯があることから、石岡とはまさに切ってもきれない関係。
神様に捧げた日本酒はお神酒として供えられ、祭礼の最後には、神の霊気が宿った日本酒として特別なお酒になります。

そんな神様とのつながりが深い石岡の地で醸すのが、白菊酒造含む石岡の4つの蔵元なのです。

”時代”という世界観の一貫性を持った「白菊酒造」

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白菊酒造のある高浜地区は、霞ケ浦にのぞむ恋瀬川のほとり。古くから醸造業で栄えた町です。

敷地に入ってすぐに目に入るのは、
関東大震災・東日本大震災を乗り越え、今もしっかりと存在感を示すレンガ造りのシンボリックな煙突。

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また、明治の初めごろに建て替えをして、時間の蓄積を色濃く残す建屋とブルーのトタン屋根や、蔵を支える躯体の太い柱と、屋根裏の入り口を想像させる急こう配の木製階段。

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小さい頃におばあちゃんの家で見たダイヤルタイマー式の緑色の洗濯機。
そこかしこで見られる機器や器具は”昔どこかで見たことがある懐かしい風景”そのものです。

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(写真中央・8代目 廣瀬慶之介さん)

こういった白菊酒造や石岡という土地に漂う雰囲気には、ノスタルジックという一貫性が存在し訪れる人を魅了するのです。

逆にどんなに素晴らしいものでも、私たちは表現される世界に一貫性がないものには魅力を感じづらくなります。

当然ですが、古くなったものから順に、新しいものに生まれ変わります。
だからこそ、蔵の世界観を表現するうえで”時代”という一貫性がある空間は、とても貴重で私たちの心に響くものなのです。

米農家と蔵元、ふたつをつなぐ「オヤジナカセ」なストーリー

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白菊酒造には普段私たちが知ることのできない、生産者のストーリーを楽しむ商品があります。

親父の作った米が、どの日本酒になっていて、誰が飲んでいるのかわからない
そんな疑問を持った兵庫県加西市の米農家の倅として生まれた名古屋さんは、
あるとき白菊酒造の倅、廣瀬さんと出会います。
そこでのやりとりから、今回紹介する「オヤジナカセ」という日本酒が生まれます。

そもそも全国的に酒蔵は農協を通して酒米を仕入れをしているところがほとんどです。
その場合、米の品種や地域の指定はできても、特定の農家の指定はできません。
当然、農家としても自分が手塩にかけて育てた酒米がどこに行き、どんな日本酒になるのかわかりません。
それを知った名古屋さんは「おやじの作った山田錦100%の日本酒を飲ませてやりたい」と思うようになったそうです。
ビジネス上の課題もうまくまとまり、蔵元と農家の想いが合致したことで、
2010年、生産者のストーリーが可視化された日本酒「オヤジナカセ」は生まれます。

そして出来上がった酒が名古屋さんの父の元へ届けられた時、生まれて初めて自分の名前がしっかり印字されたラベルを見て、嬉しい気持ちとともに”身が引き締まる想い”を語ったそうです。

このように、ラベルを見るだけでは知りえない造り手のストーリーがあります。
そして、今やこの山田錦を使った大吟醸原酒は新酒鑑評会で金賞を連続受賞するなど、
蔵元の大きな原動力にもなっているのです。

自分で仕込む酒の稲を「自分の手で刈ってみたい」と思う蔵人と、
自分の造った米がどんな日本酒になるかを「ちゃんと知りたい」米農家が作った日本酒。

そんな裏側のストーリーを楽しめる商品展開も白菊酒造ならではの魅力です。

”知ること”で広がる日本酒の世界観

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今回は「引き込まれる世界観」という観点で統一されたストーリーを持つ白菊酒造を取材しました。

日本酒の楽しみ方はたくさんありますが、銘柄・スペックなどラベルからわかること以外を”知ること”や”訪問して体感すること”も楽しみ方の一つではないでしょうか。

今や日本酒を飲むことも含めて飲食は”自分らしいライフスタイルを構築する手段”でもあります。
大好きな日本酒の世界をさらに広げ、より幸せな時間を過ごしていきたいですね。

(sake-shin)

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