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福島の銘酒「あぶくま」を醸す玄葉本店・蔵元杜氏インタビュー

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こんにちは、SAKETIMESライターの鈴木 将之です。

普段は某コンサルティング会社で堅い仕事をしていますが、暇さえあれば日本酒会に参加したり蔵を訪問しています。
日本酒会、酒蔵訪問のレポートや、コンサルタントの視点で日本酒業界を分析できたらと思っています。

今回は10月4日に参加した浅草橋の「江戸蕎麦手打處 あさだ」における
日本酒会にて、「玄葉本店」社長兼杜氏の玄葉祐次郎さんからお話を伺いました。
日本酒会の様子は、こちらを参照ください。

 

■玄葉本店の紹介

1823年(江戸年間 文政6年)創業。
年間200〜300石前後の小規模な蔵です。

平成17年秋より杜氏制度を廃止し、経営者が自ら製造責任者となり地元の人間だけで仕込む体制をとりました。
小規模さを生かし、手間を惜しまずに丁寧に仕込むことで、毎年酒質のレベルを上げていくことが目標です。
日本酒の銘柄は「あぶくま」です。

福島県田村市船引町船引字北町通41
0247-82-0030
(出典:郡山酒造共同組合HPより)

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■目指すのは「ホッとしてもらえるような酒」

−本日のような日本酒イベントについてはどうお考えでしょうか。

「あぶくま」を知っていただく機会を得るという点、また、造り手として飲み手の反応を直接肌で感じられるという点でも貴重な機会だと考えています。
こういう場で直接言われた感想などを造りの時期に思い出すこともよくあります。

 

−今年(25BY)、全国新酒鑑評会で金賞受賞されましたね。おめでとうございます。※以下、鑑評会と表記。

ありがとうございます。
鑑評会はあらかじめ設定されたストライクゾーンにコントロール良く投げれるかというコンテストのようなものだと思っています。
鑑評会に対してはいろんな意見があるようですが、蔵によりその位置づけは違って当然だと思います。
弊社は基本技術の確認作業のような位置づけですね。そういう意味で出品しています。

 

−もともと会社員をされていましたが、蔵に戻られたきっかけは。

13年前、父が廃業すると決断したタイミングに家業に戻りました。
戻る決断をするまではいろいろと悩みましたが、「自分が育った蔵の酒造りが終わるというのは寂しいな」と感じた点が大きかったのかなと思います。
家業に戻り、蔵や業界を取り巻く環境を知るにつれ、自分で造れないとやっていけないと考え、当時蔵にきてもらっていた杜氏の下で造りを勉強しつつ、
広島の酒類総合研究所や福島県の清酒アカデミーで学びました。
この冬で杜氏10年目です。今まで造ってきたお酒と比べ、どこをどういう風に変えていくかを考える毎日を楽しめるようになってきました。

 

−目指している日本酒はどのようなものでしょうか。

「おいしい食中酒を造りたい」との思いで酒造りをしております。
「感動や驚嘆よりは、むしろ癒しとか鎮静に近い」という文章(村上春樹の言葉)がありましたが、そんなイメージです。
香りがあるというよりは食事を邪魔しない、料理を引き立てられるお酒であることと同時に、酒単体で飲んでもバランスが良いというのが重要と考えています。欲張りですね。

 

−どんな方に飲んでもらいたいですか。

先ほどの質問との関連になりますが、今の時代は様々なストレスが当たり前にある時代になっていると思います。
一仕事を終えて、もしくは一日を終える時に、飲んでホッとしてもらえるような酒を造りたいと思っていますので、「誰に」というよりは、老若男女を問わず、みなさんが毎日の生活の中に酒を上手に取り込んで欲しい、その時に飲んでもらえるお酒を造りたいということですね。

 

−では、酒造りでもっとも楽しい、嬉しいところはどんなところでしょうか。

ものづくりに共通することだと思いますが、米と水から酒を造っていく過程は楽しいものです。
変数がたくさんあるし、やりたいこと・試したいことも毎年でてきます。
でもやはり、一番嬉しいのは、単純ですけど「あぶくま」を飲んでおいしいと言ってもらえる時ですね。

 

■「福島の酒」であることの苦労と目標

−逆に苦労されるところはどんなところでしょうか。

小さな蔵で人手も限られるので、販売面も含め人繰り等々も苦労しています。
営業も下手です(笑)
あとは福島ということで、震災の影響がどこまで続くのかという心配はあります。

 

−やはり原発の問題は避けて通れないのでしょうか。

福島原発から40kmと近い場所に玄葉本店はあります。
現在稼働している蔵ではもっとも福島原発に近い蔵になってしまいました。
酒造りを当面辞めざるを得ないかもと覚悟を決めた局面もありましたが、結果として休まずに造りを続けてこれているのは幸運でした。

福島県内の米は全袋検査をしたものを、念のため、酒造組合で定めたさらに低い基準で検査しています。
震災の年には、精米後にも念のため検査に出してND(不検出)であることを確認していました。
並行して水や搾ったお酒も全て検査に出して証明書を取る体制をとっています。
結果として一度も放射能が検出されたことはありません。
原発や放射能に関しては、様々な立場の人が様々な見解を述べていて、福島に対するイメージも人により千差万別になってしまいました。
風評被害といわれるものがどこまで続くのかはわかりませんが、安全であることが確認されているのだから、堂々とそれを訴えた上で、おいしいものを造って理解を求めていく以外に方法はないように思います。残念ながら時間がかかるかもしれませんが。

 

−今後の目標をお聞かせください。

地元の米(夢の香、チヨニシキ)で全国に通用するお酒を造ることも大きな目標です。
山田錦のような酒造好適米を使用しなくとも、地元の「夢の香」やチヨニシキのような一般米を使っておいしいお酒を造ることは不可能でないと思っています。造り方次第です。
震災もあって、以前よりも地元のお米を使って何ができるかを考えるようになりました。

 

−海外での日本酒文化が評価されつつありますが、海外進出は考えていらっしゃいますか。
いつかはやりたいですが、今のところはまだ考えていません。
国内でまだ「あぶくま」が知られていません(笑)
まずはそこからですね。

 

■日本酒全体のレベルは上がっている

−今後、日本酒の世界はどのような方向に変化するとお考えでしょうか。

小さな蔵では蔵元が酒造りの現場に入ることが多くなり、結果として販売と製造の連携が取れて、日本酒のレベルが格段に上がっていると感じます。
人口減少や生活様式の変化があり、かつてのように日本酒の販売量が国内で膨らんでいくことは難しそうですが、
美味しいお酒があれば「少しずつ美味しいものを飲みたい」方は増えていく余地があると思います。
一方で、製造年度、産地やワイナリー毎にブランドが成立しているワインなどの酒と、どのように差別化して支持を得られるかというのも大きな課題だと思います。

 

−最後に記事をお読みの日本酒ファンへ一言お願いします。

小さいわが蔵でも酒造りが始まっています。
これから来春までは蔵にこもりきりの生活が続きます。
美味しいお酒を届けられるよう頑張りますので、楽しみにしていてください。

 

−ありがとうございました!

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■ライター鈴木の取材メモ

日本酒会では玄葉社長はどんな質問にも親切丁寧に答えてくださいました。
そんな中でも、楽しそうに大きく笑いながら話される姿と、原発に話が及んだ際のどことなく悲しげな表情がとても印象的でした。
酒造りを楽しんでやってらっしゃるなかで、風評による悩み、苦労はとても多かったのではと思います。
その悩み、苦労を乗り越えるために、ご自身が飲みたいお酒が、まさに「あぶくま」なのではないでしょうか。
すなわち、一仕事を終えたあとの心身を癒やす酒、飲むと「ホッとする」酒です。
もちろんそれだけではないと思いますが、玄葉社長のお人柄と「あぶくま」を飲んだ印象はとても近く感じました。
造り手の思いは酒に伝わる。
どんな背景、思いでお酒を造られているかを知ることで、より日本酒が好きになりました。

まだ福島県以外での流通は少なめではありますが、「あぶくま」を見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

 

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鈴木 将之

普段は某コンサルティング会社で堅い仕事をしていますが、暇さえあれば日本酒会に参加したり酒蔵を訪問しています。大きな蔵から小さな蔵まで、造り手の思いと共に、日本酒の様々な魅力を熱く伝えます。