新型コロナウイルスの感染拡大防止のために飲食店の休業や営業時間の短縮が余儀なくされ、それにあわせてアルコール飲料の消費量が減っています。

日本酒の需要も減り、酒蔵や酒販店が苦労している現状を目の当たりにして、コンサルティング会社に勤めながら、SAKETIMESのライターとしても活動している鈴木将之さんは、日本酒業界に貢献するために新たに会社を設立しました。

「HITOMAKU」のコンセプトシート

「SakeBottlers」と名付けられた新会社が行うのは、持ち運びしやすい180mlのアルミ缶に入った日本酒のプロデュースです。

この記事では、鈴木さんの日本酒に対する熱い想いと新商品の「HITOMAKU(ヒトマク)」について、お話をうかがいました。

「場所やイメージにとらわれず、自由に日本酒を楽しんでほしい」

「SakeBottlers」代表の鈴木将之さん

SakeBottlers代表の鈴木将之さん

「SakeBottlersは、日本酒メーカーやベンチャー企業がやっていないことをやる企業」だと語る鈴木さん。起業のきっかけは、単純に日本酒が好きで、何か仕事にできないかと10年間考え続けていた中で、2019年12月から2020年8月まで開かれていたSAKETIMESが主宰する期間限定のオンラインサロン(現在は終了)に参加したことでした。

「オンラインサロンには日本酒市場の発展に貢献したいと考えている方々が数多く参加していて、現役の杜氏もいれば、飲食店に勤める方もいる。ただの酒好きもいれば、マニアックな知識を持つ愛好家もいて、新規事業のアイデアを投げかける場所として最適でした」

オンラインサロンでは「これからの日本酒市場に必要なものな何か?」「日本酒市場はどうあるべきか?」など、日本酒市場の課題について様々な議論が交わされ、起業に向けてのよい刺激になったそうです。

そうして、2021年1月に「日本酒がみんなと触れ合う未来をつくる」というビジョンを掲げ、鈴木さんは起業します。「SakeBottlers」の社名の由来は、ウイスキーにおける“ボトラーズ”から。ウイスキーのボトラーズボトルは、ウイスキー蒸溜所から原酒を樽ごと購入して、独自に瓶詰したボトルのことを指します。

SakeBottlersでは今までにない日本酒体験を提供するために、日本酒のパッケージ、つまり容器に着目しました。

「大学生から社会人まで、20代から40代を対象に約150人にアンケートを取ったところ、日本酒の『瓶』にネガティブなイメージを持つ人が多いということがわかりました。コロナ禍で外食の回数が減り、自宅で日本酒を飲む機会は増えましたが、日本酒の瓶は大きくて重く、一升瓶はもちろんのこと、四合瓶でも購入に躊躇しているという現状があります。

また、飲食店でグラス一杯なら飲みたいけれど、瓶で買ってしまうと飲みきれないという意見もあったそうです。少量のパッケージであれば、カップ酒という選択肢もありますが、銘柄の酒類も限られ、デザインも若者が手に取りやすいとは言えません。

そこで、少容量で手軽な今の時代に合った日本酒のパッケージがあれば、多くの方に手にとってもらえ、それが日本酒市場に良い影響を与えられるだろうと考えたのです」

「HITOMAKU」のコンセプトシート

その第一弾として着手したのが、日本酒缶ブランド「HITOMAKU」のプロデュースです。「HITOMAKU」の名前に込めたのは、映画や舞台のワンシーンのように、自分の感情やシチュエーションに合わせて日本酒を楽しんでほしいという想いです。

「HITOMAKU」のコンセプトは「日本酒缶のニュースタンダードを作る」。酒器を使わずそのまま直接飲めるように缶の形を見直し、酒質は初心者でも飲みやすいライトなものに、そして、手に取りやすい圧倒的なビジュアルデザインの日本酒缶。アウトドア、スポーツ観戦、音楽フェス、登山や旅行といった野外イベントや、ゲーム、読書、映画など趣味を楽しむ時間のそばに寄り添うものをと考えました。

日本酒のファンを増やすために、まず日本酒の形を変えて、日本酒がそこにある環境を増やす。それが「HITOMAKU」が描く日本酒の未来です。

飲用シーンに合わせたボトル缶ならではの味わい

「HITOMAKU」のコンセプトシート

構想段階のカラーとシチュエーション

「HITOMAKU」シリーズの各商品は、「飲用シーン×イメージカラー」で表されます。

初回発売の2商品は、楽しい瞬間、安らぐ時間をイメージした「HAVEFUN RED」と、挑戦する時、これから頑張ろうとする時をイメージした「CHALLENGE BLUE」。

味わいのこだわりをうかがうと「ラベルデザインから逆算して味わいを構築したため、ビジュアルを見て購入した方も違和感なく飲める味になっています」と鈴木さん。

日本酒缶ブランド「HITOMAKU」の「HAVEFUN RED」

「HAVEFUN RED」は、甘く華やかな香りが特徴のお酒です。醸造元は、「結 ゆい」を醸す茨城県の結城酒造。「HAVEFUN RED」の原料米は、結城酒造ファンの期待に応えるべく、赤磐雄町米を使っています。

「楽しみながら飲んで欲しいという『HAVEFUN RED』のコンセプトを考えたときに浮かんだのが、結城酒造の杜氏、浦里美智子さんでした。常に明るく前向きで元気をくれる杜氏とお酒はイメージにぴったり。昨年の茨城県の日本酒イベントの帰り道に構想をお話ししたところ共感いただき、造っていただくこととなりました」

日本酒缶ブランド「HITOMAKU」の「CHALLENGE BLUE」

「CHALLENGE BLUE」は、酸が全面に出るキリリとした印象のお酒です。醸造元は、「豊潤」を醸す大分県の小松酒造場。「CHALLENGE BLUE」は、大分県の酒米「大分三井」と白麹を使った甘酸っぱい味わいです。

「小松酒造場の杜氏、小松潤平さんとは、以前から付き合いがあり、同い年ということもあって、あっという間に意気投合しました。『大分三井(おおいたみい)』という一度消えた酒米を復活せたことと、白麹の低アルコールのお酒を正式リリースしたことが、『CHALLENGE BLUE』に求める酒質にぴったりあうと思ったんです」

「HITOMAKU」のラベルイラスト

「HITOMAKU」のラベルイラスト

デザイン性高く躍動感あふれるラベルは、アートカンパニー「OVER ALLs」の山本勇気さんが結城酒造で行われたライブペイントで描いたもの。3時間ほどで完成した2枚の画の仕上がりに、オンライン中継で観ていた視聴者も驚いたといいます。

持ち運びのしやすさにこだわって採用した大和製罐のスタイリッシュな日本酒ボトル缶は180ml。缶から直接飲むことを見越して、アルコール度数も低めにしたそうです。実際に味わってみると、特に「HAVEFUN RED」はグラスよりも缶で飲んだ方が全体的なバランスがよく感じるほど。

「HITOMAKU」は、気軽に手に取りやすい日本酒というだけでなく、アルミ缶という容器の特性にあわせた酒質設計が行われ、それぞれのシーンに最適な味わいになっていました。

日本酒がある風景を増やしていくために

「SakeBottlers」代表の鈴木将之さん

「HITOMAKU」が提案するのは、「どんな場面で飲んでほしいか」「どんな気持ちで飲んで欲しいか」という、従来にない日本酒の楽しみ方です。

鈴木さんに今後の展開をたずねると、「音楽フェスなど日本酒が主役でないイベントとコラボしたいですね。今まで日本酒を手に取ったことのない人たちが集まる場所で、『HITOMAKU』を提供して飲んでもらって日本酒ファンになってもらいたいです」と、意気込みを語ってくれました。

日本酒缶ブランド「HITOMAKU」

日本酒を取り巻く環境は、良い面、悪い面も含めて絶えず変化していますが、「HITOMAKU」のような新しいアイデアが、“日本酒がみんなと触れ合う未来”を築いていくのでしょう。「HITOMAKU」は現在、応援購入サービス「Makuake」にてプロジェクトを実施中です。日本酒の新しい楽しみ方を一足早く体験してみたい方は、ぜひ体験購入してみてください。

(取材・文:まゆみ/編集:SAKETIMES)

◎プロジェクト概要

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