いま、じわじわと広がりつつある「ボトル缶」の日本酒。瓶と比べて圧倒的に軽く、一度開栓しても再度キャップができるので持ち運びに便利。「日本酒をアウトドアで楽しみたい」「かしこまらず、ちょっとしたお土産になる日本酒が欲しい」といった飲み手側のニーズに応えた容器として、ますます注目が集まっています。

前回の記事では、遮光性やバリア性が高いのでお酒の品質を保ってくれるなど品質担保・安全性の面を中心に、軽量なので輸送コストが抑えられるなど、造り手側のメリットをご紹介しました。今回、私たちはボトル缶商品を導入している大分、京都、徳島にある3つの酒造を取材。企画担当、杜氏、蔵元という異なる視点から、ボトル缶導入のいきさつやその魅力を伺いました。

思わず手に取りたくなるポップなデザイン「"日本酒は怖くないよ"って伝えたい」

まず訪れたのは、大分県玖珠郡にある八鹿酒蔵。"九州の屋根"と呼ばれる九重連山の麓、自然豊かな九重町に蔵を構えています。温暖な九州にありながら、年間の平均気温は新潟とほぼ同じ。元治元年(1864年)の創業以来、この酒造りに適した環境で造ったお酒は清酒、焼酎、リキュールなど、約80種類にも及ぶといいます。清酒は"普通酒にして銘酒"とうたう『笑門 八鹿』や、蔵の伝統と誇りを込めた『八鹿五酒』シリーズなどが人気です。

大分県玖珠郡にある八鹿酒蔵外観

「八鹿の清酒は誰でも飲みやすくて、スッと入っていくようなお酒を造っています」

そう話すのは、八鹿酒蔵経営企画部の衛藤友衣菜さん。衛藤さんが企画担当となって、2017年9月に販売を開始したボトル缶商品が『おんせん県おおいた おけちゃん吟醸』です。おけちゃんとは、"おんせん県おおいた"のキャッチコピーで観光PRをしている、ロゴマークの愛称です。別府や湯布院など、全国的にも有名な温泉が集まる湯の聖地らしく、風呂桶と手ぬぐいがモチーフになった愛らしさが特徴です。

八鹿酒蔵経営企画部の衛藤友衣菜さん

『おけちゃん吟醸』を持つ八鹿酒蔵経営企画部の衛藤友衣菜さん。「小さい頃から八鹿酒蔵のローカルCMを観て育ちました」

八鹿酒蔵では以前から"おんせん県おおいた"とのコラボ商品を開発・販売しており、おけちゃん吟醸はその第6弾。現在は、大分県内のお土産店やターミナル駅で販売されています。

「以前から『瓶は重いから、缶の日本酒もやりたい』という声は社内から上がっていました。でも、缶から直接飲むのって見栄えとしてどうなんだろう? と思っていたときに、大和製罐さんからお猪口付きのボトル缶をご提案いただいたんです。これなら上品に飲めて、女性でも恥ずかしくないなと思いました」

おけちゃん吟醸には、『八鹿五酒』シリーズのうち、特に女性から人気のある『八鹿吟醸(桃)』が使われています。香りを引き立てるため、もともとの酒質を変えずに少しだけすっきりとした味に調節。新鮮な果実を思わせるような華やかな香りを、ボトル缶でも楽しむことができます。事前に充填の現場を生産部の次長と共に見学し、「これなら安心できる」と、商品化にGOが出ました。

『八鹿五酒』シリーズ。真ん中の桃色のラベルが『八鹿吟醸(桃)』

おけちゃん吟醸の特徴は、なんといってもインパクトのあるパッケージ。メインターゲットを女性に絞り、つい手に取りたくなるようなものを目指して社内でデザインを作成したといいます。

「他の商品に埋もれてしまわないよう、おけちゃんを大きく使った結果、想像以上にかわいく仕上がりました。ボトル缶の形も、この商品のためにあるんじゃないかと思うぐらい(笑)。発売開始の記者発表をしたときは特に反響が大きくて、若い方から『どこに売ってますか?』と会社に直接電話がかかってくることも。年末年始の帰省のタイミングでもよく売れました」

「おけちゃん吟醸」の開発を手掛けた、八鹿酒蔵経営企画部の衛藤友衣菜さん

そう話す衛藤さん自身も、商品のターゲットと同じ若い女性。ですが、こと焼酎文化が根強い九州・大分では、日本酒を飲むシーンはまだまだ定着していないといいます。

「地元の友人たちも焼酎好きな人が多くて、逆に日本酒は悪酔いするイメージがあるみたい。お酒によって全然味が変わるので、飲まず嫌いせずにいろいろ飲んでみて、自分に合ったお酒を見つけてほしいですね。"日本酒は怖くないよ"って伝えたいです。そういう意味でも、おけちゃん吟醸のようなポップな商品はいいと思うんですよね。見た目のかわいさから入って、ライトな気持ちで飲んでみてほしい。そこから日本酒を好きになってもらえたら嬉しいです」

風呂桶にディスプレイすると、まるでおけちゃんが温泉に浸かっているよう。この愛らしいパッケージが実現できたのも、デザインの自由度が高いボトル缶ならではです。かわいらしい見た目に関心を持ち、手に取ってもらうための"日本酒の最初の一歩"を後押ししてくれています。

2017年9月に販売を開始したボトル缶商品が『おんせん県おおいた おけちゃん吟醸』

「はんなりした京都の味を、食事と一緒に楽しんで」女性杜氏が醸すこだわりの純米吟醸

続いて向かったのは、日本有数の酒どころである京都・伏見。街のシンボルである伏見桃山城にもほど近い「丹波橋駅」から、徒歩10分の距離にある招徳酒造に伺いました。

正保2年(1645年)に創業という長い歴史を持つ酒蔵で、伏見の名水を使ったやわらかい口当たりのお酒が特徴。米へのこだわりも強く、人気の純米シリーズ『花洛』では、8種類すべてのお酒に『祝』や『京のかがやき』といった酒造好適米をはじめ、100%京都産のお米を使用しています。

招徳酒造。人気の純米シリーズ『花洛』

こだわりの純米酒を醸す蔵人たちをまとめるのは、伏見で唯一の女性杜氏・大塚真帆さん。京都大学農学部卒業後、日本酒好きとものづくりへの情熱が高じて招徳酒造に入社。分析や事務作業を経験し、2年目から酒造りに携わるようになりました。『花洛』シリーズをはじめ、いくつかの商品ではボトルデザインも担当しています。

伏見で唯一の女性杜氏・大塚真帆さん

「大学時代に日本酒のおいしさを知り、酒づくりに関わりたいと思った」と語る招徳酒造杜氏の大塚真帆さん

「うちの純米酒の特徴は、伏見の水と京都のお米で仕込んだはんなりとしたやわらかさ。ですが、日本酒ってワインやビールと比べて、原料の違い以上にお酒そのものをどう造るかによって味が変わってきますよね。それがおもしろいところでもあり、難しいところでもあります。造り手の感性や味に対する感覚が表れるので、自分のこだわりを持ちつつ、お客さんにおいしく飲んでもらえるものを追求していくにはどうすればいいか、いつも考えています」

伏見の水と京都の米。そのこだわりをボトル缶に詰めたのが、純米吟醸『旅衣(たびごろも/辛口、甘口)』と『みやこくるり』です。前者は京都の伝統工芸・西陣織をイメージして雅やかに、後者は金閣寺や渡月橋といった京都の名所が描かれ、いずれも"京都のお酒"を印象づけるようなデザイン。使われているお米はもちろん京都産です。

純米吟醸『旅衣(たびごろも/辛口、甘口)』と『みやこくるり』

「うちは小さい蔵なので、京都産の原料にこだわって、その良さを活かした造りをすることが大切だと思っています。旅衣は、お米のふくよかな香り、うまみ、酸味をバランスよく仕上げた純米吟醸酒です。みやこくるりは、そこに加えてすっきりとしたキレも感じられます。食中酒として、普段の食事や旅先でのお弁当などと一緒に楽しんでもらえるお酒ですね」

最初にボトル缶に詰めると聞いたときは、「缶独特の金属臭がついてしまうんじゃないかと心配した」という大塚杜氏。しかし、実際にできたものを飲んでみたところ、においは全く感じなかったので安心したといいます。持ち運びのしやすさ、手に取りやすい気軽さも期待以上だったのだとか。

招徳酒造杜氏の大塚真帆さん

京都の原料にこだわった純米吟醸酒は、京都の食事とよく合います。大塚杜氏のおすすめは、だしがきいた煮物や豆腐、生湯葉など。やわらかい口当たりと米の香りが、京風のやさしいだしの味をさらに引き立ててくれるといいます。

「SNSにアップされている写真をチェックしてみると、京都旅行に来た女性の方が電車の中で旅衣を飲んでいたり、外国のお客さまがサンドイッチと一緒に並べていたり……まさに商品の狙い通りに楽しんでいただけているようで、ありがたいですね。現在は京都府内のお土産屋さんなどでのみ販売しているので、観光や出張に来た方がたまたま手に取って、そこで招徳の名前を覚えて帰ってもらえたら嬉しいです」

気軽に手に取れる招徳の純米吟醸酒。お土産として持ち帰れば、キャップを開けたときに広がる米の香りと共に、京都の旅の思い出がよみがえってきそうです。

徳島の味を全国、そして世界へ! 人気商品の"弟分"として生まれたボトル缶

最後に訪れたのは、徳島県鳴門市にある文化元年(1804年)創業の本家松浦酒造です。徳島の北東端に位置し、"四国の玄関口"と呼ばれる鳴門といえば、世界最大級の鳴門海峡の渦潮が有名。明治19年(1886年)に誕生した蔵の代表銘柄『鳴門鯛』の名前の由来にもなっています。

「鳴門海峡の鯛の如く」淡麗優美な呑口、激流に流されない強い意思を感じる、一度吞んだらまた、吞みたくなるような印象深いお酒を目指しています。

徳島県鳴門市にある文化元年(1804年)創業の本家松浦酒造。蔵の代表銘柄は『鳴門鯛』

本家松浦酒造が大和製罐のボトル缶商品『ナルトタイ 生貯蔵酒 吟醸生 300ml(白・ミニ缶)』『ナルトタイ 生貯蔵酒 純米生 300ml(黒・ミニ缶)』の販売をスタートしたのは、2016年から。十代目蔵元の松浦素子さんは、「缶の日本酒がいいというのは以前から知っていたので、導入を決めました」とその理由を語ります。

本家松浦酒造十代目蔵元の松浦素子さん

本家松浦酒造十代目蔵元の松浦素子さん。「お酒を買うときは、造り手の熱意が感じられるラベルを選びます」

松浦さんが"以前から知っていた"と話す背景には、鳴門鯛の人気商品の一つ『吟醸しぼりたて生原酒』の存在があります。発売を開始した2009年以降、この商品の人気に火がついたのは徳島県内……ではなく、はるか海を渡ったアメリカ。「namacan」の愛称で、ニューヨークやカリフォルニアの日本酒ファンに好まれているといいます。生原酒ならではのフレッシュな味わい、大きく漢字が書かれたパッケージが「COOL!」と絶賛されているのだとか。

「namacan」の愛称で、ニューヨークやカリフォルニアの日本酒ファンに好まれている『吟醸しぼりたて生原酒』

「namacan」の愛称で、海外で人気の『吟醸しぼりたて生原酒』(真ん中)

「namacanの成功を受けて、新たな横展開を考えていました。そこで候補に挙がったのが、300mlの少量タイプ。他の酒蔵さんが発売している商品を見ても、300mlの商品はよく動いているなという印象を受けていたので、うちも小容量がほしいと思っていたんです。ご提案いただいたボトル缶は、お猪口付きでインバウンドの方にもぴったりだなと思いました」

こうしてnamacanの"弟分"として生まれたのがミニ缶の白・黒。醪を搾った後に生のまま寝かせた生貯蔵酒のため、生独特の新鮮な風味が楽しめます。ほのかなうまみの後味に、酸の余韻が残るのも特徴的です。

パッケージは、namacanのデザインコンセプトを踏襲し、力強い筆文字をプリント。"米の味をしっかり感じられるお酒"をデザインで表現しています。

namacanの"弟分"として生まれたミニ缶の白・黒。醪を搾った後に生のまま寝かせた生貯蔵酒

「今の時代、外観にまで気を遣っているお酒の方が選ばれると思うので、デザインにはこだわっています。ビンはラベルの範囲が決まっていますが、缶は容器全体にプリントできるのがいいですよね」

さらに、「小容量の180mlタイプの導入も検討中」と語る松浦さん。海外にも受け入れられているボトル缶商品には、大いに期待を寄せているようです。

「あくまで個人的にですが、今後は差別化のために蔵のお酒を全部缶にすればいいんじゃない?と思っているぐらいなんです。180mlの導入も楽しみだし、一升瓶サイズがあったらぜひやってみたい。うちの酒蔵は鯛のロゴマークで認知していただいてますが、今後は『鳴門鯛といえば缶』と言われるようになれば嬉しいですね。それぐらい容器としては優秀なんです。紫外線をカットしてくれるので、酒質もいいし、廃棄やリサイクルもしやすくてエコロジー。この商品をきっかけに、県内、県外、海外の方にも、徳島にはおいしいお酒がたくさんあるということをアピールしていければと思います」

本家松浦酒造十代目蔵元の松浦素子さん

缶商品を契機に海外にも鳴門鯛の味が伝わり、蔵の新たな看板商品になりつつある。このチャンスを活かすため、続々と次の展開に向けて行動する松浦さんのバイタリティには驚きました。それだけボトル缶商品への期待値は高く、可能性の広がりを感じていることが伝わってきます。果たして次は、どんな商品が鳴門鯛のラインアップに加わるのでしょうか。

ボトル缶商品ならではの強み

ボトル缶商品を採用している3つの蔵で、三者三様の想いを伺ってきました。今回の取材から見えてきたのは、ボトル缶商品が造り手からも支持されている理由は、利便性や効率性の高さだけに留まらないということです。

  • 日本酒を飲まない人や日本酒初心者の興味を引きやすい
  • デザインの幅が広く、他社との差別化やSNSでの拡散などが期待できる
  • 瓶と比べて遜色ない品質を保ちながら、蔵の個性をアピールできる

日本酒を好きになってもらう、蔵の魅力を感じてもらう、日本の伝統と味を知ってもらう……それぞれの入り口に立ち、日本酒に親しみを持つきっかけになれるのが、ボトル缶商品の何よりの強みではないでしょうか。

「気になるから、ちょっと飲んでみようかな」という何気ない思いつきを生み出すことが、飲み手の日本酒体験を0から1にステップアップさせます。その大事な役割を担うボトル缶商品、今後の拡大がますます期待できそうです。

(取材・文/芳賀直美)

『日本酒ボトル缶販売店舗一覧』はこちら


sponsored by 大和製罐株式会社

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます