2024年1月1日、石川県の能登半島を震源とした、最大震度7の大地震が発生しました。この「令和6年能登半島地震」では、能登地方を中心に、建物の倒壊や商品の破損など、複数の酒蔵が被害を受けています。
そんな中、同じ石川県の白山市にある車多酒造(代表銘柄「天狗舞」)が、酒蔵が全壊した珠洲市の櫻田酒造(代表銘柄「大慶」「能登初桜」)とともに、自社の設備で共同醸造を行うことを発表しました。
どのような経緯で共同醸造の決断に至ったのか、車多酒造の代表取締役社長 車多一成(しゃた・かずなり)さんと、櫻田酒造の代表取締役社長 櫻田博克(さくらだ・ひろかつ)さんを取材しました。
酒米の救出で決意した復興
能登半島地震が発生した直後、車多酒造の車多さんは、櫻田酒造の櫻田さんに安否確認の連絡を入れました。
「しばらくは連絡がなかったのですが、1週間くらい後でしょうか、櫻田くんから返信がありました。酒蔵は全壊したと聞いて、『何でも手伝うから何でも言ってくれ』と話したのですが、当時は酒蔵の再建どころではなかったのではないかと思います」(車多さん)
そのころ、櫻田さんは避難所での生活を送っていました。
「避難所に入ったばかりのころは、夜になっても眠れなくて。車多さんから『しばらくはうちで酒造りをしてもいいよ』という話をもらっていたのですが、申し訳なさもあって、すぐには決断できませんでした。そんな中、1月中旬に、全壊した酒蔵から酒米が出てきたんです。それを見たら、なんだかやる気が出てきて。すぐに車多さんに連絡しました」(櫻田さん)
櫻田さんからの連絡を受けた車多さんは、もちろん快諾。1月下旬には、どのように共同醸造を進めるか、話し合いの場が設けられました。
「ふたりでお酒を飲みながら話したのですが、櫻田くんが生きていたことがとにかくうれしくて、どんな話をしたのか覚えていないくらい、飲みすぎてしまいました。櫻田くんとは30年来の知り合いなんですよ。同業者としてはもちろん、友人として支援したいと、改めて思いましたね」(車多さん)
さらに、全壊した櫻田酒造の瓦礫の中に、被災を免れた『能登初桜』の本醸造酒が約1,000本残っていると聞いた車多さん。そのお酒をそのまま販売するのではなく、櫻田酒造にとって、より大きな支援ができないかと考えました。
「櫻田酒造の日本酒は、ほとんどが地元消費なんですよ。大きな震災があったいま、地元の珠洲市からはどんどん人口が流出していて、将来戻ってくるかどうかはわからない。だからこそ、この機会に、櫻田酒造の『能登初桜』や『大慶』を市外・県外の方々に知っていただく必要があると感じました。そこで、うちの日本酒『天狗舞』とのコラボを考えたんです」
酒蔵の再建には、数年単位の支援が必要
話し合いの末、最終的に決定したのは「ブレンド」と「共同醸造」。
前者は、救出された「能登初桜」の本醸造酒と「天狗舞」の純米酒をブレンドし、コラボ商品として販売するというもの。後者は、車多酒造の設備を使用し、櫻田さんが「大慶」を造るというものです。車多酒造がブレンド比率の異なるサンプルを複数用意し、櫻田さんがテイスティングをして酒質を決定しました。
櫻田さんが「もっともうちのお酒らしいものを選びました」と話すブレンド日本酒は、2月27日に発売され、売れ行きは好調とのこと。車多酒造の公式オンラインショップでの販売分はすぐに完売となりましたが、3月上旬に再販されるそうです。ブレンド日本酒の利益は、櫻田酒造の復興資金に充てられます。
共同醸造は3月12日にスタートし、東京農業大学の醸造科学科に通う、櫻田さんの息子も参加する予定です。
「家業を継ぐかどうか迷っていましたが、東京でテレビを点けたら、私が寂しそうにしている様子が映って、それを見て『自分もやらなくては』と思ったみたいです。車多酒造の顧問杜氏である中三郎(なか・さぶろう)さんにもご指導いただけるとのことで、どんなお酒になるのか、素直に楽しみですよ」(櫻田さん)
さらに、車多酒造は、櫻田酒造から新たに救出された酒米「五百万石」の活用も検討しているとのこと。
「櫻田酒造の『五百万石』を使って『天狗舞』の純米酒を造り、瓶のまま救出された『大慶』の純米酒とブレンドして販売することを検討しています。こちらも3月に仕込み始め、5月ごろに販売する予定です。
被害の大きさを考えると、正直、1年くらいでは再建できないと思います。だから、数年単位で支援を検討していこうと、製造部のメンバーを中心に話し合いを進めています」(車多さん)
櫻田さんは、酒蔵の復興にかける思いを話してくれました。
「被災した直後は本当に廃業するつもりでした。ただ、車多さんをはじめ、日本酒業界の仲間と酒を酌み交わすことがなくなるのかもしれないと思ったら、なんだか寂しくなってしまって。ここで辞めたら、いつか後悔するんじゃないかと。そんな時に、全壊した酒蔵から酒米が救出されて、もうこれはやるしかないんだなと思いました。
また、同じ能登の酒蔵の存在も後押しになりました。能登の蔵元が集まって、これからどうしていくかを話し合う機会があったのですが、みんながやる気に満ちていて、酒蔵をやめるなんて誰も言わないんですよ。この仲間たちとともに、全員で前を向いて、復興に向けてがんばっていきたいと思います」
終始、持ち前の朗らかな笑顔で取材に対応してくれた櫻田さん。復興の道のりは決して平坦なものではありませんが、少しでも早い再建を目指して、SAKETIMESも支援を継続していきます。
義援金の受付情報
現在、能登半島地震からの復興を目指して、石川県酒造組合連合会と日本酒造組合中央会が、義援金を受け付けています。
石川県酒造組合連合会
- 銀行名:北國(ホッコク)銀行
- 支店名:金沢城北(カナザワジョウホク)支店
- 口座種別:普通
- 口座番号:036977
- 口座名義:石川県酒造組合連合会(イシカワケンシュゾウクミアイレンゴウカイ)
- 注意事項:寄付金控除の対象にはなりませんので、ご了承ください。
石川県酒造組合連合会は、被災した組合員支援の為、義援金口座を開設致しました。
この義援金は被災された酒蔵支援のみに使わせていただきます。
皆様の温かいご支援賜りますようお願い申し上げます。北國銀行 金沢城北支店
普通 036977
石川県酒造組合連合会— 石川県酒造組合連合会【公式】 (@sake_ishikawa) January 10, 2024
日本酒造組合中央会
- 銀行名:三井住友銀行
- 支店名:日比谷支店
- 口座種別:普通
- 口座番号:8646691
- 口座名:日本酒造組合中央会 義援金口 会長 大倉治彦
(ニホンシュゾウクミアイチュウオウカイ ギエンキンクチ カイチョウ オオクラハルヒコ) - 備考:
・寄付金控除の対象にはなりませんので、ご了承ください。
・法人からの義援金については、損金算入限度額の範囲内で損金算入の対象となりますので、ご留意ください。
・義援金に対する受領証が必要な場合は、別紙の様式で日本酒造組合中央会までご連絡ください。
日本酒造組合中央会では、令和6年度能登半島地震で被害を受けた蔵元に対する義援金の受付を開始しました。
皆様の温かいご支援をよろしくお願いいたします。
詳しくは当会HPをご覧ください。https://t.co/5K70CoWmVz#日本酒造組合中央会 #國酒 #日本酒 #義援金 #能登半島 #被災 #能登半島地震 #支援 pic.twitter.com/sOjI2UnTlB— 日本酒造組合中央会(公式) (@JapanSakeShochu) January 10, 2024
また、白山市の酒蔵・吉田酒造店が「被災日本酒蔵 共同醸造支援プロジェクト」を立ち上げました。本プロジェクトの始動に伴い、応援購入サービス「Makuake」にて、支援を4月28日(日)まで募集しています。
被災した酒蔵の少しでも早い復旧のために、読者のみなさまのご協力をお願いします。