いま、世界が日本酒に注目し始めています。

海外への輸出量は8年連続で増加し、和食にとどまらないさまざまなレストランで日本酒が提供されるようになりました。また、海外発の日本酒コンクールが設立されるなど、いま、世界が日本酒に注目し始めています。

日本酒の酒樽を畏敬の念をもって眺める外国人

そんななか、2015年にリリースされた「SAKETIMES International」。日本酒の魅力を英語で世界に発信しているWEBメディアです。今回は、その運営に携わるディレクターの古川理恵と、アドバイザーのジャスティン・ポッツに話を伺いました。

外資系のコンサルティング会社を退職後、海外の酒蔵を巡るバックパッカーとして活動していた古川。そして、さまざまな地域をまわるなかで「発酵」の不思議に感動し、日本酒の酒蔵で造り手として働いたこともあるジャスティン。経験豊富なふたりに「SAKETIMES International」の取り組みや、日本酒の海外戦略に関する話を聞きました。

"Sake Curious"を増やすために

─ まずは「SAKETIMES International」の自己紹介をお願いします。

古川理恵(以下、古川):「SAKETIMES International」は、世界中の人々をターゲットに、日本酒の魅力を英語で紹介するWEBメディアです。2015年に立ち上がってから、今年で3年目になりますね。アメリカはもちろん、台湾や香港、シンガポールなどのアジア圏をはじめ、131の国々で読まれています。(2018年10月現在)

SAKETIMES Internationalのディレクター古川理恵さん

「SAKETIMES International」のディレクター・古川理恵

古川:私たちは、"Sake Curious"を増やすというテーマで情報発信をしています。

「日本酒って何?」「そもそも、日本ってどこにあるの?」など、日本酒への興味がまったくない世界の人々にその魅力を届けられるよう、日常の関心事と日本酒をかけ合わせて発信することを心がけています。

アウトドアが好きな人にはキャンプで日本酒を楽しむ方法、健康に関心がある人には発酵食品としての効能......あらゆる面から魅力を伝えることで、まずは日本酒に興味をもってもらおうということですね。

ポッツジャスティンさん。立ち上げからSAKETIMESInternationalに参画している

「SAKETIMES International」にアドバイザーとして関わっている、ジャスティン・ポッツ

ジャスティン・ポッツ(以下、ジャスティン): "Sake Curious"を増やすためには、共感してもらうことがとても大事。喜怒哀楽のある物語や、商品のバックグラウンドに関心をもつのは世界共通です。

日本酒は、造り手や環境、製法などについてのストーリーをたくさんもっています。まだ日本酒に出会っていないから気付いていないだけで、潜在的な興味をもっている人は世界中にたくさんいるはずです。だからこそ、SAKEに触れるきっかけを世界中に提供していくことを目的としています。

SAKETIMES Internationalで配信しているGlossaryの記事。当該記事のテーマは「Junmai」。3つの視点で説明した簡単な用語解説と、インフォグラフィックスを使い、Junamiについて、わかりやすく独自の視点で伝えている。

─ どんなサービスを提供しているのでしょうか。

古川:酒蔵の歴史や物語に焦点を当てた「STORY」、日本酒の専門用語をインフォグラフィックスで解説する「Glossary」などの記事を配信しています。

また、日本酒の最新情報をお届けする「Weekly News」では、英語でイベント集客や新商品情報をお届けする無料プレス・リリース・サービスも提供しています。海外の方に向けて告知したい情報がある酒蔵や飲食店の方々に、ぜひご利用いただきたいですね。

SAKETIMES Internationalでは、ただ機械的に日本語を英語へ書き換えるのではなく、ネイティブのライターが自身の感覚をベースに執筆します。読者と同じ文化背景を持つことを武器に、彼らの視点で情報を伝えるのが大きな特徴ですね。

海外への日本酒情報発信に必要なこと

─ 海外の読者に情報を発信する時に、気を付けていることはありますか。

古川:海外へ日本酒の情報を発信するとき、商品のスペックや製法についての情報ばかりを伝えてしまいがちです。しかし、日本酒をまったく知らない海外のお客様からすれば、詳細な情報はすべて似たように見えてしまうため、酒蔵の魅力がわかってもらえません。

実は私たちも、立ち上げ当初は、SAKETIMESから記事をピックアップして、専門会社に翻訳をお願いしていました。その記事は、確かに正しい英語で書かれ、読めるものでしたが、ジャスティンに「全然おもしろくない」と言われてしまって......笑

SAKETIMES Internationalトップページ

ジャスティン:海外の人たちに興味をもってもらうためには、「どんな人に何を伝えたいのか」「海外の人に伝えるべき情報とは何か」をあらためて考え直し探っていかないと。そうなると、根本的なところから書き直すことになるんです。

それならば、海外の人に届ける前提でゼロから企画・取材をすることで、日本から発信するのにふさわしいリアルな情報を届けていこうという話になりました。

古川:そんな苦い経験もあって、編集のプロフェッショナルや日本に住んでいるライター・翻訳家など、経験豊富なネイティブの方々を集めて、昨年の11月にリスタートしました。

現在では、取材から執筆まで、すべてネイティブの感覚をもとに記事をつくることもあります。海外のお客様に向けた情報をゼロから考えることで、独自の記事を配信できるようになりました。

また、私たちにはSAKETIMESの運営を通して培ってきた、取材・発信のノウハウがあります。私たちならではの強みをいかして、酒蔵のサポートや、日々の情報発信ができるように心がけています。

SAKSETIMES Internationalの打ち合わせ風景

国内外に住む「SAKETIMES International」のネイティブライターとのミーティング風景

─ これまでの活動で得られた、海外への情報発信するときのポイントはありますか。

ジャスティン:「いかに共感してもらうか」ですね。SAKEとの距離感は人それぞれなので、「海外に」「アジアに」という単純なものではなく「どんな人に、どんなことを伝えるのか」を明確にしなければなりません。

性別や国だけでくくらずに、ファッション、グルメ、生活環境など、ピンポイントに共感してもらえる情報と日本酒を組み合わせて発信することで、やっと初めて日本酒に目を向けてもらえるんだと思います。日本国内ではニッチだと思われていても、世界中で求められている情報はたくさんありますからね。

日本酒の言葉にならない魅力

─ これからの展望を教えてください。

ジャスティン:海外に日本酒の情報を伝える際の見本になっていくといいですね。ブログやSNSなど、情報を"提供する"ツールはたくさんありますが、読み手が共感し納得するような"伝える"方法を確立する必要がありますね。

古川:ワインもビールもウイスキーも、世界中にはおいしいお酒がたくさんあります。しかし、日本酒には、それらを凌駕する日本酒にしかない魅力があるんです。さまざまな温度帯で楽しめたり、徳利でお猪口に注ぎ合う雰囲気だったり……。異なる文化背景を持つ人たちがSAKEを囲んで輪が広がっていくあの瞬間は、言葉にできないくらい充実しています。それを、もっと多くの人にも体感してほしいんです。そのためには、日本酒に触れるきっかけを私たちがつくっていかないと。

今後、さらに情報量を増やして、「日本酒の情報なら『SAKETIMES International』だ!」と言われるようなメディアを目指していきます。また、海外への露出を増やしていきたい酒蔵に、私たちのサービスをどんどん使っていただきたいですね。

ジャスティンのように、海外で求められている情報をしっかりと把握している人材でも、個人の仕事としてPRの協力をするとなると、できることが限られてしまいます。「SAKETIMES International」が窓口になって、酒蔵といっしょにひとつのチームとして戦略を考えていくことで、海外の方々に共感してもらえる情報を届けることができると思います。

ジャスティン:日本酒の言葉にならない魅力、よくわかります......私は日本酒から、味覚だけじゃない、身体が芯から喜ぶような美味しさを教わりました。日本酒には、"喜び"や"幸せ"をいっしょに感じられるような美味しさがある。ありきたりな言葉かもしれませんが、その平和な雰囲気をどうにかして世界に伝えていきたいですね。

SAKETIMESInternationalを運営する古川理恵さんとポッツジャスティンさん

日本酒がもたらしてくれる、言葉にならない幸せな感覚。「SAKETIMES International」が世界に伝えようとしているのは、言語や文化を超えて人々の人生を豊かにする日本酒の価値そのものです。

"SAKE"はこれから、海外という広い市場のなかで、どのように受け入れられ成長していくのでしょうか。その一翼を担う彼らの背中には、大きな期待と責任がのっています。

(文/SAKETIMES編集部)

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