日本酒の容器として、今、注目されているのが缶容器です。持ち運びやすいボトル缶容器は、屋外イベントが増えるこれからの季節にもぴったり。消費者のニーズも高まっています。
日本酒市場の拡大に尽力しているのは、酒蔵だけではありません。資材として缶を製造している製缶メーカーも、その後押しをするべく新たな取り組みを行なっています。
これまで裏方に徹してきた彼らの新たな取り組みとはどのようなものなのか、その姿をお伝えします。
「大和製罐」の日本酒ボトル缶
2019年3月に幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN 2019」は、小売や商社、食品メーカーなど3,000社以上の企業が出展する、アジア最大級の食品・飲料専門の展示会です。
今回訪れたのは「FOODEX JAPAN 2019」に出展していた製缶メーカー・大和製罐(だいわせいかん)のブース。1939年の創業以来、飲料や食品、生活用品などに使用されるさまざまな容器の製造や販売を手掛けています。
そんな大和製罐の主な商材のひとつが、いま日本酒の容器として注目されている日本酒ボトル缶。日本酒を光から守り、開栓・閉栓ができ、携帯性に優れているのが特長で、2018年にはロングライフデザイン賞を受賞しています。
2013年、大和製罐はグループ会社であるモンデ酒造の製造ラインで、「日本酒ボトル缶受託充填サービス」を開始。商品の幅を広げたい酒蔵と商品化を実現してきました。
日本酒市場の拡大に貢献する『CAN-PAIプロジェクト』
この「日本酒ボトル缶受託充填サービス」は、2019年に『CAN-PAI(カンパイ)プロジェクト』という名前に改称。これまで裏方に徹してきた大和製罐が、初めてその存在を対外的にアピールするようになりました。
対外的に認知を広めようとしたのには、どのような背景があったのでしょうか。プロジェクトの立役者である大和製罐の商品開発担当リーダー・矢野詩子さんに話をうかがいました。
「国内の日本酒市場は、残念ながら年々小さくなっています。そこで私たちは『CAN-PAIプロジェクト』を通して、日本酒市場の拡大に貢献したいと考えています。『CAN-PAIプロジェクト』は日本酒商品化サービスの名称で、日本酒ボトル缶を使った日本酒製品の企画から充填、販売促進までをお手伝いします。
缶容器を新たに導入していただく際、充填ラインの投資が必要になることが『そこまでして缶をやらなくても......』と二の足を踏ませてしまう要因になります。そんなニーズに応えるのが『CAN-PAIプロジェクト』です。缶容器を製造する弊社とグループ会社のモンデ酒造で充填を行うため、初期投資を抑えるとともに、資材在庫を気にせずに日本酒ボトル缶の商品化が可能になります」(矢野さん)
「もともと展開していた日本酒ボトル缶充填受託サービスを『CAN-PAIプロジェクト』と名付けたのは、私が現在の部署に異動してきた数ヶ月前のこと。これまで日本酒ボトル缶にかかわってきたみなさんが作り上げたスキームを、ひとつのサービスとして体系化したいと思ったことがきっかけでした。
『CAN-PAIプロジェクト』は「日本酒をお洒落に」をテーマに、日本酒のパッケージだけでなく飲み方やそのシーンをお洒落にし、飲む人が楽しく時を過ごしてほしいという思いを込めています。「"缶"と"杯"でカンパイ!」する楽しさをみんなに体験してもらいたいと考えました。
日本酒業界において『CAN-PAIプロジェクト』はまだ新参者ですが、新しいことにチャレンジしたい活気のあるお客様とご一緒させていただいています。さまざまな容器がある中で、日本酒ボトル缶を日本酒容器の選択肢のひとつとして加えてほしいです」(矢野さん)
『CAN-PAIプロジェクト』は、大和製罐の新たな取り組みのひとつ。メインの担当は2人と、まだスタートアップの段階です。しかし、今回のイベントでは、部門をまたいでさまざまなスタッフが協力してくれたのだそう。ブースには、海外部門やデザイン部門といった商品開発課以外のメンバー、そしてモンデ酒造の社員の姿が見えました。「展示会でのお客様との接点を大切に、営業活動を支えてくれる仲間ができた」と矢野さんは話します。
ただの受託先ではない、信頼できるパートナー
『CAN-PAIプロジェクト』に欠かせないのが、山梨県のワイナリー・モンデ酒造です。日本酒をボトル缶に充填する工程は、主にモンデ酒造のワイン製造ラインを利用して行われています。
今回の出展に参加したモンデ酒造の小尾隼人課長は「お客様のお手伝いをできるのはうれしいです。お洒落なボトル缶に詰めて販売することで、日本酒市場が広がっていけばいいですね。我々も充填だけではなく、販売につながるようなこともやっていきたいです」と話します。
「モンデ酒造さんが、パートナーとしていっしょに活動してもらえるのは大きいです」という矢野さんの言葉からも、「日本酒業界を盛り上げたい」というCAN-PAIメンバーの共通意識と信頼関係を軸として、プロジェクトが成り立っていると感じられました。
モンデ酒造はスパークリング清酒の人気の高まりを受けて、日本酒に炭酸ガスを充填する免許も取得しました。スパークリングワインを製造する技術を日本酒に応用でき、このような相性の良さもチームの強い結びつきを物語っています。
日本酒ボトル缶で日本酒を楽しむ
今回の出展を「日本酒ボトル缶で楽しさを提供したいという、私たちの意思表示だと考えている」と話す矢野さん。改めて大和製罐のブースを見てみると、春らしいお花見をイメージしたセットが組まれ、その楽しげな雰囲気が伝わってきます。
「外で気軽に日本酒を飲みたいとき、日本酒ボトル缶やその上に乗っているコップは大活躍です。ブースはお花見のセットを用意し、楽しさを伝えることにこだわりました。また、小売のお客様には、日本酒を商品棚に陳列するイメージをしてもらいたいと考えました。今回は季節的にお花見ですが、暑い季節にキンキンに冷えた日本酒ボトル缶で日本酒を飲んでもらえるようなサンプリング活動も考えています」
ブースを訪れた人からは「かわいい」「楽しそう」などの声が聞こえ、矢野さんもホッとした様子。また、CAN-PAIメンバーが日本酒ボトル缶の可能性を認識し、「もっとPRしていこう」とモチベーションアップにもつながっているようでした。
「瓶や紙、PETなどと一緒に、日本酒を盛り上げていきたい」
現在、日本酒ボトル缶を導入しているのは16蔵、42製品(2019年3月時点)。我々の思いに共感し、一緒にチャレンジしてくれる酒蔵様と仕事がしたいと矢野さんは話します。
「私たちの思いに共感していただけるお客様なら、きっと長くお付き合いできるはず。そのためにも、缶のメリットもしっかりとアピールできるよう今後は学術的なエビデンスもそろえていきたいと考えています」
今後も展示会への出展やイベントへの参加など、BtoB(酒蔵向け)とBtoC(消費者向け)の両方に向けた取り組みを行いたいと話す矢野さん。そこには、容器の多様性により、日本酒を盛り上げていきたいとの思いが込められています。
「缶には他の容器と比べて優位な点はありますが、それは瓶やペットボトルにも言えること。それぞれの容器に良さがあり、私たちは缶の良さをきちんと伝えていきたい。だからこそ、自分たちの立ち位置を確立しておくのは大事だと考えています。他の容器と共存しながら、一緒に日本酒市場を盛り上げていきたいですね」
モンデ酒造という信頼できるパートナーの協力や取り組みに賛同する酒蔵の支持もあり、矢野さんは「とても素敵なお客さんに恵まれているし、チャレンジしたいという人たちに囲まれています」と、『CAN-PAIプロジェクト』に確かな手ごたえを感じているとのこと。
消費者に楽しさを提供したい、ひいては日本酒業界の発展に貢献したいというひとつ高い視座で『CAN-PAIプロジェクト』に取り組む大和製罐。日本酒に新たな可能性をもたらすプロジェクトは、まだ始まったばかりです。
(取材・文/芳賀直美)
sponsored by 大和製罐株式会社