近年、コロナ禍の影響による家飲み需要の増加や健康意識の向上から、ノンアルコール飲料の市場は飛躍的な伸びを見せています。

また、特に若い世代を中心に、「お酒は飲めるが、あえて飲まない」という価値観(ソーバーキュリアス)も広まり始めています。いまやノンアルコール飲料は、飲酒ができない時に仕方なく手に取られるものではなく、その日の体調や気分に合わせて積極的な理由で選ばれる飲み物になりつつあります。

そんな時代背景のなか、白鶴酒造(兵庫県)は、ノンアルコールの大吟醸テイストスパークリング「吟零(ぎんれい)」を発売しました。今回は、この商品の開発経緯や魅力について、マーケティング本部課長代理の小倉健太郎さんと研究室の白井沙樹さんに話を伺います。

日本酒の風味を組み立てる、"足し算"の発想

2022年2月に発売された「吟零」は、白鶴酒造として初めて商品化した、大吟醸テイストのノンアルコール飲料です。華やかな吟醸香を再現しただけでなく、甘さを抑えたドライな飲み口で、日々の食事といっしょに楽しめるように開発されました。

「吟零(ぎんれい)」のイメージ写真

写真提供:白鶴酒造

実は、白鶴酒造は約20年も前から、日本酒風味のノンアル飲料の研究を行っていました。

「業界全体を見ても、かなり早くから研究を始めていたのですが、商品化には至らず、試行錯誤を繰り返していたようです。私も研究室に所属していた時代があったのですが、香味に大きな影響を与えるアルコールを日本酒から除去するというのは、ほとんど不可能だろうと感じていました」

白鶴酒造 マーケティング本部課長代理 小倉健太郎さん

白鶴酒造 マーケティング本部課長代理 小倉健太郎さん

そう話すのは、マーケティング本部課長代理の小倉健太郎さんです。研究室に所属していた時は、日本酒の吟醸香の研究などに携わっていましたが、その後、営業職で経験を積むなかで考え方に変化が起こりました。

「それまでの研究では、日本酒らしい香りや味わいを残しつつ、どうやってアルコールを除去するか、"引き算"の視点で考えていました。しかし、逆転の発想で、日本酒らしさを組み立ていく"足し算"の視点はどうだろうと」(小倉さん)

また、すでに他社から発売されている日本酒風味のノンアル飲料との差別化も考え、スパークリングとしたことも、小倉さんのアイデアでした。

「ノンアル飲料の市場を見渡してみると、ビールやサワー、カクテルなど、ほとんどが炭酸入りです。そこで、多くの消費者が求めている炭酸の刺激で爽快感を出せないかと考えました」(小倉さん)

日本酒からアルコールを除去するという"引き算"の発想から、さまざまな原料を組み合わせて日本酒らしさ生み出すという"足し算"の発想へ。白鶴酒造のノンアル飲料の開発が、また本格的にスタートしたのです。

日本酒らしい"押し味"も再現

そもそも、日本酒からアルコールを除去することの難しさは、技術的な面だけでなく、最終的に満足できる味わいにならないことにありました。

加熱してアルコールを飛ばすと、焦げ臭くなってしまい、日本酒の繊細な香りが台無しに。加水をしてアルコール度数を薄めれば、今度は味わいがぼやけてしまう。香りと味わいのバランスを保ちながら、日本酒からアルコールを除去する方法は、いまだに確立されていません。

小倉さんから商品開発を託されたのは、研究室の白井沙樹さん。白井さんは、リキュールの開発や甘酒の製法などの研究に携わっていました。

「『吟零』には、日本酒はまったく使われていません。日本酒の香りや味わいをゼロから足していくイメージで研究を進めました。そういう意味では、リキュールの開発に近いかもしれません」(白井さん)

白鶴酒造 研究室 白井沙樹さん

白鶴酒造 研究室 白井沙樹さん

「味の基本になるのは、糖類、酸味料、アミノ酸。そこに香料を加えて、香りをつくっています。ただ、特に酸味料やアミノ酸は種類が膨大で、『これだ!』という原料を見つけても、組み合わせを変えながら試行錯誤を繰り返す必要がありました。また、糖類の量に関しても、入れすぎるとサイダーみたいに甘くなってしまうし、減らしすぎると味が薄くなってしまうんです」(白井さん)

「吟零」は、人工甘味料などは使用せず、日本酒にもともと含まれる成分を使用しています。研究室に蓄積された日本酒の成分データを参考にし、飲んだ後に旨味の余韻が残る、日本酒らしい"押し味"も再現しました。

また、当初からスパークリングを前提に開発していたことで、アルコール飲料を飲んだ時のような刺激が表現できたといいます。

「炭酸がパチパチと弾けることによって香りが感じやすくなりますし、アルコール飲料のような爽快感を出すことができました。小倉さんのアイデアは、市場動向を受けてのものだったかもしれませんが、結果的に日本酒らしさにつながりましたね」(白井さん)

「吟零(ぎんれい)」のイメージ写真

写真提供:白鶴酒造

「吟零」を飲んでみると、パイナップルのような、ジューシーで爽やかな甘みのある香りが印象的。それでいて甘さは控えめで、食中酒に適した飲みごたえです。日本酒らしい旨味のある余韻もしっかりと感じられますが、キレが良く、ドライな後口でした。

「若い世代の方々や日本酒に馴染みのない方々だけでなく、普段から日本酒を飲んでいる方々にこそ手に取ってもらいたいと思って、香りや味わいを設計しました。特にこだわったのは、日々の料理に合うこと。実際に、刺身や焼き肉、鍋など、さまざまな料理との相性もチェックしています」(小倉さん)

ノンアル飲料は日本酒のライバルではなく、新たな選択肢

ノンアル飲料の本格的な開発が再始動して約2年。白井さん曰く、本当に発売ギリギリまで調整してできあがったという「吟零」は、日本酒を飲み慣れている社内のメンバーからも好評だったのだそう。

「冗談ですが、在宅勤務が増えているため、仕事の合間に飲みたいという声もありました。アルコール度数は正真正銘の0.00%で、さらにグルテンフリーで人工甘味料は使っていません。たった8kcal(100mLあたり)というカロリーの低さもあって、健康意識の高い方にも支持されています」(小倉さん)

「香りが良いので、ちょっとした気分転換やリフレッシュにもなると思います。研究室で試作品を飲んだ時に『料理を引き立てるようなノンアルは難しいのでは?』と言っていたメンバーも、最終的には『いろいろな料理に合いそうだね』とほめてくれました」(白井さん)

「吟零(ぎんれい)」のイメージ写真

写真提供:白鶴酒造

さまざまな場面でノンアル飲料が選ばれる時代。「吟零」の飲用シーンは、運転する時、リラックスしたい時、休肝日をつくりたい時など、多岐に渡ります。また、妊娠している方や高齢の方が飲むケースもあるでしょう。

「日本酒がアプローチできなかったところにも届けられる商品だと思うので、売場の開拓など、チャレンジしなければならないことがたくさんあります。『吟零』が完成したことで、ノンアル飲料の次なる方向性をいろいろと模索してみたくなりました」(小倉さん)

「次はもっと"白鶴らしさ"というか、私たちのオリジナリティを出してみたいですね。原料や製法など、ブラッシュアップできる余地はたくさんあると思います」(白井さん)

それぞれの視点からノンアル飲料の可能性を見つめる小倉さんと白井さん。そもそも、日本酒のメーカーがノンアル飲料をつくることについては、どのように考えているのでしょうか。

「飲むものが変わっても、飲用されるシーンは変わらないと思うんです。白鶴酒造はこれまで、酒造りを通して生活を豊かにする商品をつくってきました。だから、私たちがノンアル飲料をつくることは、私たちがやってきたことと矛盾していないんじゃないかなと思いますね」(白井さん)

白鶴酒造のノンアルコール大吟醸テイストスパークリング「吟零(ぎんれい)」

白井さんの軽やかな言葉から、白鶴酒造は、ただ日本酒を造る会社ではなく、日本酒やその技術を活かして豊かな生活をつくる会社であることがわかりました。

ノンアル飲料と日本酒は決してライバルではなく、お互いに共存できるもの。「吟零」が体現するのは、そんなメッセージなのかもしれません。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

◎商品情報

  • 商品名:「白鶴 吟零 スパークリング」
  • アルコール度数:0.00%
  • 原材料:果糖ぶどう糖液糖(国内製造)、炭酸ガス、調味料(アミノ酸)、酸味料、香料
  • 容量:200mL
  • 価格:296円(税別)

sponsored by 白鶴酒造株式会社

編集部のおすすめ記事