いわゆる「普通酒」の規格でありながら、"酒米の王様"とも呼ばれる山田錦を使い、よりプレミアムな価値を提供しているのが、白鶴酒造の「上撰 白鶴 山田錦」です。

一般的に「山田錦」といえば、大吟醸酒などの高級酒の原料として使用されることが多いですが、白鶴酒造では、なぜ普通酒にも山田錦を使うのでしょうか。この商品に込めた想いについてうかがいました。

酒米の王様「山田錦」

日本酒に詳しくない人でも、「山田錦」という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。

山田錦(左から順に、玄米、精米歩合70%、精米歩合38%)

山田錦(左から順に、玄米、精米歩合70%、精米歩合38%)

山田錦」は、酒造好適米と呼ばれる、酒造りに適したお米の品種です。粒が大きく、粒の内側に心白(しんぱく)と呼ばれる柔らかい部分を持つのが特徴で、良質な麹が造りやすいとされています。

山田錦で造った日本酒は、芳醇でバランスの良い味わいになることから、主に大吟醸酒などの高級酒に用いられることが多く、全国新酒鑑評会の出品酒の多くが山田錦を原料に造られています。

新しい酒米が次々に生まれるなか、依然としてその生産量はトップ。誕生してすでに80年以上が経ってもゆるぎない存在感は、まさに"酒米の王様"と呼ばれるにふさわしい風格です。

普通酒でも活きる「山田錦」のポテンシャル

そんな山田錦を使用した「上撰 白鶴 山田錦」は、普段の晩酌を少しだけ華やかに、それでいて気取らず飲める日本酒を造ろうという思いから開発されました。

白鶴「上撰 白鶴 サケパック 山田錦」

白鶴「上撰 白鶴 サケパック 山田錦 1.8L」

発売された2020年はちょうどコロナ禍で、家で食事をしながらお酒を楽しむ機会が増えていた時期。リーズナブルでありながら、普通酒よりも"ちょっと良いもの"という選択肢へのニーズが高まっていました。

しかし、その "ちょっと良いもの"をどのように訴求するかが課題だったのも事実。そこで目をつけたのが「山田錦」です。

特に日本酒にあまり詳しくない人の「いざ日本酒を買おうとしても、どれを選んでいいかわからない」という声は、それまでもたびたび聞こえていました。銘柄や特定名称を打ち出しても、どんな日本酒なのかはパッと見ただけでは伝わりません。それでは、何が決め手になるか。「知っている言葉が使われているかどうか」ではないかと、白鶴酒造は考えました。

「山田錦」という言葉は、日本酒の専門用語の中では、比較的、世の中に浸透しています。また、一般の消費者の中でも良い印象を持っている人が多く、その"わかりやすさ"と"イメージ"を重視し、商品名として大きく謳うことで、飲み手に関心を持ってもらおうというねらいです。

白鶴酒造 生産本部 水谷仁さん

白鶴酒造 生産本部 水谷仁さん

「ただし、それだけではありません。山田錦が本来持っている甘みや旨味を表現したかったという思いもあります」

そう語るのは、白鶴酒造の生産本部・水谷仁さん。酒造りに必要なお米の調達などを手がけ、山田錦について知り尽くしたスペシャリストです。

「山田錦が酒造りに使われる際は、大吟醸酒など、精米歩合が低くなることが多いです。確かに、たくさん磨いたほうがクリアできれいな酒質になりますが、同時に米由来の旨味が減ってしまうおそれがあります。山田錦は磨くことによって良い日本酒になる面もありますが、逆にあまり磨かずに米の旨味を残していく方向でも、そのポテンシャルを表現できるのではないかと考えました」

白鶴「杜氏鑑」

白鶴「杜氏鑑(とうじかん)」

実は以前から、白鶴酒造では「杜氏鑑(とうじかん)」という、同じく山田錦を使用した、飲食店向けの普通酒を製造していました。そのノウハウがあったため、味わいのベストなバランスの設計には、それほど苦労はなかったそうです。

「そもそも、山田錦の持っている性質が優れていますから、あとは私たちが昔から受け継いでいる技術でしっかりと造れば良いものになるという確信がありました」と水谷さんは話します。

完成した日本酒は芳醇でふくよかな味わいがありながら、キレの良さも持ち合わせています。冷やしても、常温でも、温めても、幅広い温度帯で楽しめるような懐の深さがあります。

「日本酒は単体でも楽しめますが、私としては料理を食べながら飲みたい気持ちがあります。その点でこのお酒は食事に合わせやすく、ふだんづかいの食中酒にぴったりで、山田錦らしさもよく引き出せています」

普通酒でも発揮された山田錦のポテンシャル。それほどの良いお酒ができあがるのならば、なぜ、山田錦の普通酒は異例とされているのでしょうか。

「山田錦は値段も高いので、製造量が少なければ商品を高価にせざるをえません。つまり、普通酒では価格が見合わないケースが多いのです。しかし、当社では『まる』をはじめ、リーズナブルな商品をたくさん造っていて、安定的に大量に生産する技術を持っています。そのおかげで、普通酒の価格の範囲内で提供することができました」

「上撰 白鶴 山田錦」は、長きにわたって培ってきた山田錦を扱う製造技術と、安定的な生産が可能な設備を有する白鶴酒造ならではの強みが発揮された商品と言えるでしょう。

兵庫県産山田錦という"地元の米"へのこだわり

白鶴酒造のある兵庫県は、山田錦の誕生の地であり、一大産地。現在、日本で栽培されている山田錦のうち、約60%が兵庫県産です。

「上撰 白鶴 山田錦」

白鶴酒造にとって山田錦は、良質な酒米である以上に"地元の米"。兵庫県の酒蔵として、地元で穫れたお米へのこだわりが、「上撰 白鶴 山田錦」のパッケージに書かれた「兵庫県産山田錦100%」の語句に表れています。

「実は、当社は兵庫県産以外の山田錦は使ったことがないんです。今でこそ、山田錦は東北地方から鹿児島県まで幅広く栽培されていますが、もともとは兵庫県で誕生した品種です。近くに山田錦の名産地があるわけですから、やはり地元産にこだわりたいですよね」

兵庫県産の山田錦は生産量だけではなく、品質としても最上級。加東市や三木市には「特A地区」と呼ばれる、特に品質の良いお米が穫れる地域があり、全国の酒蔵が熱視線を送っています。

山田錦の栽培風景

「兵庫県産山田錦100%」を謳う意味は、お米自体はもちろん、山田錦の産地としてのブランド力も広くPRするためでした。

「白鶴酒造をはじめ、灘の酒蔵は明治のころから長い間、『村米制度』と呼ばれる、産地の農家さんと直接お米の取引をする、いわゆる契約栽培を行ってきた歴史があります。先人の努力により相互扶助の関係性ができたことは、安定的に山田錦を仕入れる上で、今でも重要な役割を果たしています」

時には水田に出向いてお米の出来栄えを見たり、収穫後の農産物検査に立ち会ったり、農家や農協からお米に関する情報を仕入れ、製造部門に伝えるのも水谷さんの仕事。「お米の状態は酒造りに影響するため、定期的に情報を得ることは欠かせない」と話します。

白鶴酒造 生産本部 水谷仁さん

「山田錦は背が高く倒れやすいので育てるのが大変な品種。それでも作ってくれるのは私たちが求めるからです。農産物検査の時など、農家さんのみなさんは『どうだ、今年のうちのお米は』という自信満々の表情でやって来ますよ。その思いを無駄にはできません」

自分の作ったお米がどこに行くかを知ることで、「農家さんのモチベーションも上がるのでは」と水谷さん。

宴会の席で「これはわしの作ったお米で造ったお酒や」とうれしそうに話しかけてくれる農家の方もいるそうで、その度、地元の米を守っていきたいという思いを強くすると言います。

「コロナ禍で飲食店での酒類の提供が制限されたことは、私たち酒蔵はもちろん、農家さんの生産にもダイレクトに響いています。作る量を減らしてしまったお米を再び増産するのは簡単ではありません。

できるだけ例年と変わらない量を仕入れるようにして、生産量を減らさない努力をしています。いつかまたみんなでお酒を飲めるようになるときを信じて、今が踏ん張りどきですね」

お米は日本酒の原料のひとつ。しかし、そこには、使う責任も守る責任も発生し、酒蔵のプライドを形作っているように感じます。白鶴酒造にとって山田錦を介して育まれた農家との絆は、需要と供給の関係を超え、何物にも代えがたい財産となっていました。

白鶴酒造「上撰 白鶴 サケパック 山田錦」

昨年の発売から約1年が経ち「上撰 白鶴 山田錦」への反応は上々。「いつもの晩酌がレベルアップした」などのポジティブな声が多く寄せられています。その上で、より幅広い飲み手に手に取ってもらうべく、2021年秋に小容量サイズ(200ml)と中容量サイズ(900ml)の発売が決まりました。

これまでパック酒に抵抗があったという人にこそ、白鶴酒造だからできた「山田錦の普通酒」という驚きのスペックの真意をぜひ味わってみてください。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

◎商品概要

  • 商品名:白鶴酒造「上撰 白鶴 山田錦
  • 原材料名:米(国産)、米こうじ(国産米)、醸造アルコール
  • アルコール度数:15~16%
  • 容量・価格:1.8L/1,854円、900ml/950円、200ml/227円(※参考小売価格・税抜)

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