新潟県は越後湯沢(えちごゆざわ)にやってきました。
新潟というと漠然と遠いイメージだったのですが、越後湯沢は新潟の中でもかなり東京寄り。東京駅から新幹線に乗って、たった1時間半で着きます。
越後湯沢は、スキーや温泉などのリゾート地として有名な場所。そして、新潟県の特産品と言えば・・・日本酒!
駅ナカにあるお土産屋さんのかなりのスペースが日本酒に割かれているだけでなく、ワンコインで最大おちょこ5杯分を試飲できる「ぽんしゅ館」もあり、町をあげて日本酒の消費を盛り上げています。
そんな越後湯沢で造られる日本酒の代表格とも言えるのが「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」。洗練されたデザインのパッケージを、コンビニやスーパーで見たことがある方もいらっしゃるでしょう。
今回は、そんな「上善如水」の製造メーカーである「白瀧酒造」にお邪魔してきました!
お話をうかがったのは、7代目社長である高橋晋太郎さん、「上善如水」発売当初から在籍している営業推進部の原澤正樹さん、ブログやTwitterなどのメディア運用を任されている服部利光さんの3名です。
「上善如水」開発当時の苦悩や誕生秘話、今後の方向性までざっくばらんに話してくださいました。
新機軸で開発した「若者向けの日本酒」誕生の物語
―― 「上善如水」が生まれたのは1990年ですよね。開発の経緯にはどんなものがあったのですか?
高橋社長:1990年当時はスキーブームで、かなり多くの人が週末ごとに東京から越後湯沢に来ていました。しかもそのほとんどが若者で、リフトに乗るのも1時間待ち。
―― リフトに乗るだけで1時間待ちですか? すごい時代ですね!
高橋社長:でも、それだけたくさんの若者が来ても、みんな飲むのはビールやワインで日本酒を飲む人はほとんどいませんでした。東京の若者、とりわけバリバリ働く若い女性に飲んでもらうためにはどういうお酒がいいかと考えた時に、「酒臭くない、飲みやすい日本酒を開発しよう!」と思ったのです。
―― 当時は他にも、若者向けの日本酒はあったのですか?
高橋社長:若者だけをターゲットにした商品は、今よりも少なかったのではないでしょうか。というのも、日本酒といえば40代以上の男性が飲むものという認識が強く、新潟でいえば「越乃寒梅」や「久保田」などの淡麗辛口のものが流行っていました。
―― そういった、業界に対する分析が「上善如水」を生んだ、ということでしょうか?
高橋社長:開発した先代の社長、つまり僕の父は、マーケティングに対して理解がとても深い人でした。日本酒業界は“商品ありき”すぎる、もっとマーケットを見ないとダメだ、と常々言っていました。本人は独学でマーケティングを学びながら、その世界で有名な方に師事するなどして、かなり勉強熱心だったみたいです。
―― でも、日本酒に慣れ親しんでいない若者にアプローチするのは大変だったのではないですか?
高橋社長:まず、日本酒の「酒臭さ」が1番目のハードルになると思っていたので、酒臭くない酒造りの第一歩として、香りが出る酵母を使用しました。軟水の仕込み水によるまろやかさも相まって、味は軽やかでフルーティーなお酒ができあがりました。
また、味だけでなく、見た目にもかなり気を遣いました。従来の日本酒のラベルは和紙に筆文字で銘柄名が書いてあるものが一般的だったのですが、デザインも東京の広告代理店に依頼して洗練されたものに仕上げました。
発売当時の「上善如水」
原澤さん:スタイリッシュな見た目にしようと、瓶の色を透明にしたのも、当時としては画期的でした。日本酒は日光に当たると変色してしまうので、茶色か緑色の瓶に入れるのが常識で、透明瓶なんてもってのほかという時代だったので。
結局、着色を防ぐために化粧箱に詰めて出荷することにしました。ただ、手作業だったので生産が追い付かず、1日中箱詰めしていることもありました。
―― それだけ急速に売れると、会社としても変化がありそうですね。
高橋社長:会社の成長に伴い、“家業”から“企業”へと意識も変わっていきました。同時に雇用制度の見直しも図り、季節雇用を廃止して社員化も進めていきました。
―― 「一般企業」に近づいていったわけですね。でも、商品に対しても、会社に対してもそれだけ新しい試みをすると、開発時には社内からの反対の声も上がったのではないですか?
高橋社長:その頃、杜氏だった高綱強さんは柔軟に対応してくださったみたいですね。あと、うちの父は「やると言ったらやる」という強気な性格だったので、反対意見があったとしても自分の意志を貫いていたと思います。
発売後、どんな風に市場に浸透していったのか
発売当時の市場の反応について語る高橋社長
―― 何もかもが新しい取り組みだった中で、発売当時の市場の反応はどうだったのでしょうか?
原澤さん:予想通り、若い方にはすごく支持していただきました。僕は、上善如水の発売から3、4年経った1994年入社ですが、その年の展示会でもすでに「上善さん、上善さん」って良くしてくれる酒屋さんがいっぱいいましたからね。
高橋社長:ただ、賛否両論というのが正直なところでした。今までにまったくなかったお酒だったので、「アンチ上善」みたいな人も業界内外問わず、かなりいたみたいですね。
―― 具体的にはどのような反応があったのでしょうか?
営業推進部・原澤さん
原澤さん:僕が新入社員のころ、「なんだあの酒は」と一般の方から苦情の電話が入ったことがありました。そのやりとりを見ていた当時の社長が代わってくれて、「こういう酒ですので、気に入らなかったら飲んでくださらなくてけっこうです」と言ってくれたのを覚えてますね。
高橋社長:今でも展示会で「上善は入れなくていいよ」と言われることもあります。要するに好き嫌いが分かれる酒なのですが、それだけブランドが立つことだと理解しています。
―― 賛否両論、いろいろな意見が飛び交った発売当時から、今日までどのようにシェアを拡大していったのですか?
高橋社長:当時は力を持っている酒屋さんを起点に流通を拡大させることが常識でした。当然、酒屋さんはお酒の扱いもわかっていますし、日本酒好きへの販路を持っていますからね。
ただ、上善如水はスーパーや量販店経由で販売を始めました。目利きのできる酒屋さんには上善如水は受け入れられるかわからないので、最初から消費者の判断を仰ぎました。
スッキリの秘訣は“水” ! 社内バーカウンターで上善如水を試飲させてもらった
―― 上善如水が若い方に受け入れられた理由に、スッキリとした飲みやすさがあると思うのですが、どうしてこんなにスッキリなのでしょうか。
高橋社長:水でしょうね。
―― 水、ですか?
高橋社長:うちの酒はすべて、会社の真下から出る地下水を使っているのですが、とてもまろやかな軟水なんです。同じ越後湯沢でも、少し離れるとまったく違う水脈の水になるので、白瀧酒造らしさというのは、やっぱり水だと思います。
―― 水ひとつでそれほどまで味わいが変わるものなのですね。
高橋社長:うちでも辛口の酒を造ろうとしたことがあるのですが、何度やってもスッキリとしたお酒になりました。最近も、ややクセのある生酛のお酒を造ろうとしたのですが、良くも悪くも飲みやすくなってしまいました。でもそれが、「上善如水」および「白瀧酒造」の特徴なのではないかと思っています。飲んでみますか?
―― え!ありがとうございます!
というわけで、オフィスに併設されたバーブースに移動。
ここでは一般の方も予約なしで白瀧酒造のお酒を試飲できるのだとか。
そして「上善如水」をいただくことに。いざ!
サラッとしている。
まろやかな舌触りで、喉ごしも日本酒特有のツンとした感じがなく飲みやすい印象です。
普段日本酒をあまり飲む機会はない私でも、おいしく飲むことができました。クセがないので、どんどんお酒が進みます。酒飲みのみなさんは要注意の逸品です。
日本酒の入門編でありたい ―― 25周年の「上善如水」が目指すもの
―― インタビューに戻りますが、今年で25周年を迎えた「上善如水」の今後の方向性を教えてください。
高橋社長:やっぱり若い方に飲んでほしいという気持ちは変わらないので、日本酒を飲んだことがない方でも親しみやすい「日本酒の入門編でありたい」と思っています。もちろん、飲んでいくうちに「もっと辛口の日本酒が飲みたい」と他の銘柄への興味が出てきたら、卒業してもらってかまいません。
―― えっ!自社製品から離れていってしまってもいいということですか?
高橋社長:もちろん他のメーカーさんの中には、ターゲット層ごとにブランドを立てているところもあると思うのですが、うちは「まだ日本酒に慣れ親しんだことがない若者」に特化していきたいです。そこから、日本酒業界全体が盛り上がればいいなと思っています。
―― 高橋社長、懐が広すぎです。その他、具体的に打ち出していきたい施策などはありますか?
25周年記念ボトル
高橋社長: もっともっと若者への認知を広めたいですね。25年も経つと、ブランドとともにファンの方も年を重ねるので、“今の”若い方の間で認知されている割合がどうしても小さくなってしまいます。ただ、知ってさえもらえれば、すぐに近所のコンビニやスーパーで買える環境は整っている。そのため、若者向けのイベントに積極的に参加して「まずは飲んでもらう」という地道な宣伝活動を続けたいと思います。
普段、日本酒に慣れ親しんでいない私が漠然と持っていた”無骨”で”玄人向け”なイメージ。しかし、今回の取材を通じて、日本酒へのハードルがかなり下がったように思います。
「日本酒の入門編」でありたい。
多くの人、とりわけ若者に日本酒を飲んでほしいという想いから生まれた「上善如水」は、誕生から25年経った今でも、日本酒を愛する人たちの裾野を広げ続けています。
取材を終えて帰る道中、お話を思い返しているうちに「上善如水」が飲みたくなってしまいました。わざわざ酒屋さんまで足を運ぶ元気はないけれど、帰り道に買えるならサッと買って帰りたい・・・。
そう思い、近所のコンビニへ。店内に入り、日本酒コーナーへと向かいます。
ありました!
夜中に突如として沸いてくる“ちょっと飲みたい”を満たしてくれる日本酒が、コンビニで買えるならお手軽で嬉しいですね。「上善如水」のスッキリとした味わいが、気軽に立ち寄れるコンビニと相性抜群だと思いました。
今後は若者に実際に飲んでもらう機会を積極的に設けたいと話していた白瀧酒造。来る8月5日に六本木で開催される若者向けのイベント「SAKENISTA」への出店も決定しています。
上善如水ファンも、日本酒ビギナーも、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 白瀧酒造株式会社
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