日本酒市場における新たなスタンダートを創り出した「上善如水」。25年前の発売時から、日本酒ビギナーのための”入門酒”として、マーケットを開拓し続けてきました。最近では「上善如水スパークリング」を打ち出し、さらに新たなファンを獲得しています。
そんな上善如水を生み出した白瀧酒造ですが、既存の商品の人気に甘んじることなく、常に”次なる一手”を模索し続けています。その工夫のひとつが、月に1回行われる企画ミーティングです。
業界内外の注目を集める斬新なアイデアや商品を生み出すミーティングには、一体どんな秘密が隠されているのか。普段は公開されることのない日本酒メーカーの商品開発ミーティングに、実際に参加させていただき、その全貌を明らかにしてきました。
自由闊達な会議のヒミツは「宿題」と「社長の語り口」にあり!?
今回のミーティングに参加していたのは、10名ほど。高橋社長、杜氏、ボトリング担当、デザイナー、営業、web担当、研究職など、各セクションから選ばれた精鋭たちで構成されています。年齢も若手からベテランまでが揃っており、女性が多いのも印象的でした。
今回の議題は、来年の「12カ月の上善如水」や、今秋発売予定の新商品の企画がメインとのこと。
一般的な企業の会議では、意見が出ないまま、会議が終了してしまうこともしばしばありますが、白瀧酒造の会議は「沈黙」とは無縁。役職や年次に関係なく、みなさん、積極的に意見を出していきます。
沈黙がない会議の第一のヒミツは、どうやら「宿題」にあるようです。毎月1回ミーティングを行っている白瀧酒造では、翌月の議題を会議終了時に決め、1カ月かけて考えられる「宿題」を出しているのだとか。
会議はあくまで、各々が考えてきたものを“持ち寄る”場として機能しているため、意見が出ないことがないのだと言います。
さらに、印象的だったのは、高橋社長の語りかけ方。意見を求められた際にも「わたしはこう思いますが、みなさんはどう思いますか?」と丁寧に、柔らかく、社員一人ひとりの意見に耳を傾けていきます。
参加者のみなさんが真剣に、しかし、談笑も交えながら終始和やかな雰囲気で進められた会議。初参加の私にとっても居心地の良いものでした。
「この人たちと一緒に頑張りたいと思える」 外部デザイナーから見る白瀧酒造
こうした白瀧酒造の会議について、参加者の皆さんはどう思っているのでしょうか。
「一度の会議で全て済んでしまうので、仕事が進めやすくて助かっています」
そう話してくれたのは、デザイナーの山賀慶太さん(Pデザイン研究所)。山賀さんは白瀧酒造の社員ではなく、外部のデザイナー。いわば“外の人”が、内部の企画会議に参加することのメリットについてこう語ってくれました。
「情報共有がしやすいですよね。他の企業さんだと不明点があっても後日、担当者に確認して折り返し、という形になってしまうことが多いのですが。その点、白瀧酒造さんの企画会議では不明点がその場で解消できるからお互いにストレスフリーだなと思います」
情報を整理してカタチにするというデザイナー業務の視点から、一度の会議ですべて不明点を解決できてしまう利便性について語ってくれた山賀さん。さらに、実利的なものに留まらず、より精神的な面でも企画会議の恩恵を受けていると言います。
「外部デザイナーの身としては、こうして会社の内部会議に参加させてもらえるのが単純に嬉しいんですよね。普通だったら隠したいであろう、売り上げの話も包み隠さずしてくれるので、仲間にしてもらった気分になります。一緒に良いものをつくりたいという意識が自然と生まれてきますよね」
上善如水をはじめ、白瀧酒造の商品のデザインを数多く手がけている山賀さん。どんなことを大切にしてデザインをしていきたいですか、と尋ねると、「真剣につくっているけれど、“どっぷり日本酒”という感じでない、良い意味でのカジュアルさをデザインに落とし込んでいきたいです」と笑顔で語ってくれました。
―― 真剣に、しかし、良い意味でカジュアル
ざっくばらんに話す企画会議を通じて、白瀧酒造の真髄は、社員以外の方にもしっかりと受け継がれていました。
「喜んでくれる人がいるから」 杜氏が語るファンへの思いやり
「我々も市場の声を知りたいと思っているんですが、普段酒造りをしているだけではどうしても見えてこない部分はあって……」
そう語ってくれたのは、酒造りの最高責任者である山口杜氏。製造担当者に欠けがちな“市場の声”を補ってくれるところに、企画会議のありがたみがあると山口杜氏は言います。
「我々は製造側なので、どういった商品が市場にウケているのかという情報がどうしても手薄になってしまうんです。だけど、もちろん知りたいと思っている。そういったときに市場の“生きた”情報を持っている営業と話しながら、商品企画を進められる企画会議はすごくありがたい機会だなと思います」
山口杜氏の市場への意識は高く、企画会議以外にも、PRイベントや物産展に顔を出し、お客さんの声を直に聞いては商品に反映させていると言います。
味へのこだわりを強く持っているであろう杜氏という立場にありながら、市場の声に耳を傾け続ける理由は何なのか。そこには、酒の受け手であるお客様への「思いやり」がありました。
「やっぱり市場で生き残るためには何かしらの手は打たなければいけないですよね。それがうちの場合はお客さんの要望に徹底的に耳を傾けることだと思うんです。もしかすると、あるお客さんが求めるものは、我々の“おいしい”とは違うかもしれませんし、中には邪道だという人もいるかもしれません。それでも、“欲しい”と思う人がいる以上、その気持ちに答える形で作っていく必要はあるんじゃないかなと思うんです」
酒造りに対する思い入れが強い分、自身のこだわりを全面に押し出すことの多い杜氏という立場。山口杜氏ご自身の柔軟性もありますが、杜氏をはじめとした製造担当者がマーケットを強く意識できるのは、やはり企画会議の功績が大きいように感じました。
―― 飲む人の気持ちを想像する
そんな「思いやり」を大切にし続けている白瀧酒造。その精神が作り手である杜氏にまで息づいていることも、消費者から愛される理由のひとつではないでしょうか。
商品開発は”飲み手のことを考える”ことから
企画会議に参加し、また、参加者の方々にお話を聞く中で、白瀧酒造の「マーケットへの意識の高さ」が見えてきました。これは、言い換えれば、お客様の気持ちを常に考えているということでしょう。
「フルーティーでスッキリした味わいの日本酒なら、若者にも受け入れてもらえるかもしれない」という発想から開発された上善如水。「飲み手の気持ちを大切にする」というマインドは今も変わらず、企画会議にもしっかりと浸透していました。
ヒット商品を次々と生み出すヒミツは決して突飛なものではなく、お客さんの気持ちを一番に考えるという基本的な「思いやり」にあるのかもしれません。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 白瀧酒造株式会社
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