大手日本酒メーカー菊正宗酒造による“情熱の酒造り”に迫る特集連載、第6回です。
東京都の渋谷区代官山で開催されたファン交流イベント「KIKUMASA Conference」の体験レポートをお届けします。
4月23日(土)に 代官山のレンタルスペース「GOBLIN.」で行われた「KIKUMASA Conference」。「新しい商品と出会って欲しい」「新たなファンと出会っていきたい」という想いのもと開催が決定しました。
前半は菊正宗酒造副社長・嘉納逸人氏とSAKETIMES代表・生駒が日本酒の未来を語るトークセッション。後半は菊正宗の定番商品から関東初お披露目となる新ブランド「百黙」が楽しめる充実の試飲交流会!
「日本酒の未来」というテーマを通じて、日本酒業界の大手である菊正宗の”深層”に迫り、その魅力を今一度見直すイベントなのです。
若い日本酒ファンから往年の菊正宗ファンまで、50人が一堂に会す!
13時にはじまったイベントには、若い日本酒ファンから往年の菊正宗ファンまで、50人が集まりました。
「日本酒の未来」というテーマが、年齢・性別を問わずたくさんの人を惹きつけたのですね!
イベントは新ブランド「百黙(ひゃくもく)」のPV上映からスタート。新ブランドの映像に会場の期待も高まります。
ブームは大歓迎。だからこそ、その先を見据えて動きたい
「百黙」のPVが流れた後、トークセッションに入りました。およそ40分のトークセッションの中で、話されたテーマは大きく4つ。
・日本酒ブームとオリンピック ―世界の注目を浴びる現状をどう捉えるのか
・日本酒の未来はどこに向かう? ―菊正宗の新しいマリアージュへの「挑戦」
・新ブランド「百黙」が生まれた理由
・質疑応答
日本酒ブームとオリンピック ―世界的注目を浴びる現状をどう捉えるのか
和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、日本酒にも世界的な注目が集まっています。「昨今の日本酒ブームを菊正宗としてはどう捉えているのか」という問いかけに、嘉納氏は嬉しいながらも複雑な胸のうちを語ってくれました。
「ブームのおかげで、日本酒に注目が集まっていることは事実です。しかし、注目されているお酒はエッジの効いた純米酒や吟醸酒といったもので、生産される日本酒の2割程度にしかなりません。それ以外の8割は普通酒や本醸造酒と呼ばれるお酒で、こちらはまだまだ低迷が続いています」
ブームの兆しがあることを素直に喜びつつも、普通酒や本醸造など“普段づかい”としての日本酒がもっと食卓に上るようになってほしいと嘉納氏は話します。その理由には、ブームの先を見据えた考えがありました。
「ブームはありがたい反面、特別なシチュエーションで比較的高価なお酒を飲むという限定された楽しみ方になっているようにも感じています。流行りとして終わってしまわないよう、デイリーワインのように日本酒をもっと日常に落としこみたい。ブームで終わらないカルチャーにまで昇華したいですね」
現状では市場のニーズを受けてか、各蔵元がどうしてもエッジの効いたお酒に注力する傾向にあるのだそう。菊正宗としては、そのようなお酒をきっかけに日本酒に興味を持ったお客様が”日本酒を日常化”を提供できる商品を造っていきたい、と大手ならではの決意を話してくれた嘉納氏。
また、2020年のオリンピックを前に菊正宗として打ち出していきたい施策についての質問には、次のように冷静な分析をしています。
「確かにオリンピックはひとつの大きなチャンスと捉えています。ただ、注目されている分、終わってしまった後に一気に抜け殻になってしまい、消費が冷え込むようなことがあってはいけない。オリンピックにあたっては行政の支援を受け、蔵元と連携をとっていける絶好の機会なので、今のうちから日々の晩酌に取り入れてもらえるような動きを作っていかないといけません」
ブームや一時的な注目に頼らない日本酒づくりを。357年の歴史を紡いできた酒蔵は、オリンピックの先をしっかりと見据えていました。
日本酒の未来はどこに向かう? ―菊正宗の新しいマリアージュへの「挑戦」
「菊正宗」というブランドは、生まれてから130年ものあいだ、食を引き立てる"名脇役"として愛されてきました。しかし、最近では食卓の"主演"を務められるような新しい商品展開も行っています。
「ブームをカルチャーにするとは言いましたが、日本酒をいきなり日常に取り入れるのはハードルが高いですよね。そのため、多くの場合入り口は飲食店になると思います。最初は吟醸酒などのランクの高いお酒になりますが、いいなと思ったらライフスタイルにも取り入れていこうと思いますよね。その時に、高価なお酒だけでなく、安価ながら安定した美味しさのあるお酒が必要になってきます。菊正宗としても、そのプロセスに入り込めるデイリーな日本酒を造ることを強く意識しています」
そして話は今回のテーマである「日本酒の未来」に移っていきます。「移り変わっていく日本酒業界が更なる発展を遂げるにはどうしたらいいと思いますか」という生駒の質問には、「食の多様化への対応」を軸に次のような回答をしてくれました。
「洋食化がどんどん進む中で、日本人自身が洋食と日本酒などの新しいマリアージュの提案をしていけば、面が広がり、日本酒の未来は拡大していくと思います。最近の例で言えば、唐揚げとハイボール。かつては唐揚げにはビールでしょといった固定概念がありましたが、今は定着していますよね。王道のマリアージュだけでなく、多様化に対応できるよう、新しいラインナップを取り揃えていきたいと思います」
満を持して発表された新ブランド「百黙」が生まれた理由
今年4月11日に新ブランド「百黙 」をリリースした菊正宗。130年間もの間、「菊正宗」一筋でやってきた老舗が、なぜこのタイミングで新しいチャレンジに出たのでしょうか。
「辛口の菊正宗を引き継ぐ必要があると思いつつも、食の多様化にはそれだけでは対応できないと気づきました。日本酒の気運が高まってきている今だからこそ、新たな挑戦をすべきだと感じました」
伝統を引き継いできた老舗という難しさもありながら、百黙を発表した今年。地元の反応はどのようなものだったのでしょうか。
「『菊正宗が新しいことをやってるから応援せなあかん』と地元の方が思ってくれているのは感じます。新聞の切り抜きを持ってきて、『これいつ発売や』と聞いてきてくれるんですよ。今までなかったことなのでびっくりしましたね。菊正宗は県外にも流通していることもあって、地元の人たちもこの酒こそが故郷の酒だという『おらが酒』という意識は薄いと思います。ただ、やはり地元の蔵元としては『おらが酒』と思ってもらいたいということもあり、現段階での百黙は地元に根を下ろしていけるような商品展開をしています」
質疑応答
トークセッションが終わり、お客さんの中から質問を募る質疑応答の時間に。ここでは2名の方が手を上げてくれました。
1人目の方は、「菊正宗酒造さんは大手でありながら、なぜ昔ながらの生酛造りを続けているんですか」というコアな質問。
これに対して「理由は2つあります」と嘉納氏。
「ひとつは、先人から受け継いだ伝統を引き継ぐことが我々の役目だからです。もうひとつは、辛口に深みを出すには生酛造りという手法が合うということ。ただ、生酛造りは腐敗しやすいなどリスクが大きいのも事実としてあるので、日夜研究を続けています」
ビール業界などの大規模市場に比べると、市場規模が小さい日本酒業界では、研究開発に費用を割けるメーカーが多くないのが現実です。そこへ予算を割けるのは大手ならではの強み、そして役割なのかもしれません。
もう1名の質問は「洋食に合う日本酒が定着しない理由は何だと思われますか」というもの。
「そもそも日本酒のおもしろさを伝えきれていないことが原因なのではと思います」と自らの仮説を話してくれました。その上で、「日本酒は非常に懐の深いお酒で、いろいろな料理に合います。ですので、共感していただける飲食店さんと組んで、しっかりと提案をしていきたい」と日本酒の裾野を広げる決意を力強く語ってくれました。
お待ちかねの試飲&交流タイム
40分のトークセッションが終了し、いよいよお待ちかねの試飲&交流タイムです。
用意されたお酒は全部で5種類。
百黙、樽酒、香醸、菊正宗生酛本醸造、すだち冷酒。
南青山のチーズレストラン「DAIGOMI」のチーズも用意いたしました。
印象的だったのは、これまで菊正宗を飲んだことがなかった、という若い人が「こんなに美味しいとは知らなかった!」と言っていたこと。地酒を入り口に日本酒に触れ始めた若い方にとっては、力強い造りの菊正宗が新鮮に映ったようです。
「菊正宗さんが代官山でこんなイベントを開いたり、新ブランドを立ち上げるなんて思ってもみなかった。頑張ってください」と嘉納氏の手を握る方もいました。
菊正宗の社員の方々も積極的にお客様と交流をして、大いに盛り上がりました。
おいしい日本酒を飲んだことも手伝ってか、知らない人同士で談笑したり、日本酒の未来について熱く語りあったりする様子も見受けられました。新旧のファンが交差する素敵な時間になったようです。
日本酒の未来を照らすために
今回は創業357年を誇る菊正宗の嘉納副社長と、リリースから2年目のSAKETIMESの代表生駒の対談という形式でイベントを開催しました。これには、大手・ベンチャー、ベテラン・若手といったカテゴリーの関係のない交流を生み出したいという意図がありました。
若者が集まる日本酒イベント、往年のファンが集まる日本酒イベント。
これまでは、それぞれが異なる領域に存在しており、「日本酒が好き」という気持ちは同じはずなのに、そこには見えない棲み分けがあったように感じます。
今回のイベントでは、そういった垣根を超えて「日本酒の未来」というテーマに興味を持つ人たちが集まっていました。
日本酒の未来を照らすヒントは、今回のイベントのように、ベテランや若手関係なく日本酒の良さを知ることのできる「日本酒でつながる年齢を超えたコミュニケーションと、それを提供する場」にあるのかもしれませんね。SAKETIMESは「日本酒の情報流通に革新を起こす」というミッションのもとに活動をしていますが、SAKETIMESという情報インフラを通じて、こういった場造りにも貢献していきたいと考えています。
もちろんこれは、菊正宗のこれまでの実績と研究、そして「百黙」などの新商品によって「新しい市場を開拓していこう!」という挑戦心のなせる技だと思います。歴史ある大手酒蔵でありながら、革新を起こし続ける若い心をもった企業が菊正宗酒造という酒蔵の本質ではないでしょうか。
「KIKUMASA Conference」に参加してくださった方々をはじめとする日本酒好きの皆さんが、「大手の酒は〜」なんてひと括りにした考えを捨てて、規模の大小に関係なく、美味しい日本酒が呑まれていくことを願ってやみません。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 菊正宗酒造株式会社
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