1881年に創業した新潟・菊水酒造。「ふなぐち菊水一番しぼり」や「菊水の辛口」など、人気商品を数多く抱える、全国的に有名な酒蔵です。

そんな菊水酒造は、地元・新潟への強い想いをもって酒造りに向き合っています。その想いを体現した取り組みが、製造する日本酒の原料となる米をすべて「新潟県産」にすること。市場に出回っている酒のうち、すでに9割は新潟県産米100%のものだといいます。

全国に商品を流通する菊水酒造が、これほどまでに新潟の米にこだわる理由はどこにあるのでしょう。そこには"地域のマリアージュ"という菊水酒造ならではの考え方がありました。

まずは「とにかく旨い酒」を

「実は、これまでも『ふなぐち菊水一番しぼり』や『菊水の辛口』などの主力商品は、ほぼ新潟県産米を使っていたんです」

そう話してくれたのは、商品開発を行う研究開発部の統括マネージャー・宮尾俊輔さん。新潟は言わずと知れた米どころ。地元で獲れた米を原料とするのは自然なことだったと言います。それでも、これまで"100%新潟県産米"に至らなかった理由は、何よりも「旨さ」にこだわったためでした。

菊水酒造

「米は自然が育むものですから、どうしても不作の年があります。そのため、これまでは台風や雨などの影響で新潟の米の出来が良くなかったときのリスクに備え、他の県の米も仕入れていました。新潟産にこだわるよりも、旨い酒を造る米であることに重点を置いていたんです。実際に他県の米を仕込みに使うケースは限りなく少ないものでしたが、わずかでも使う可能性がある以上は『100%県産米』とは言い切れません」

何より「旨い酒」が優先だから、米の産地にはこだわらない―。そう考えていた菊水酒造が「新潟県産米100%」へ舵を切った背景には、"時代の変化"と"酒造りの技術"が関わっていました。

「新潟の酒蔵」というストーリーを語る

「ひと昔前までは、『旨い酒を造れば売れる』という時代でした。しかし酒造技術が大きく発達して、まずい酒などなくなった今、ただ『旨い』というだけでは全ての酒蔵が横並びです。菊水酒造としての価値はどこにあるのか、見直す時期にきていました」

菊水酒造は、「ふなぐち菊水一番しぼり」「菊水の辛口」など、全国のコンビニやスーパーで買うことのできる人気商品を多く販売しています。商品が有名になるのは喜ばしいことですが、一方で「菊水酒造」という新潟に根ざす酒蔵としての魅力をうまく発信できていない、という課題もありました。現に消費者アンケートをやってみると、『新潟の酒蔵』というよりも『大手メーカー』というイメージが強いことがわかったのです。

「ふなぐち菊水一番しぼり」「菊水の辛口」など、全国のコンビニやスーパーで買うことのできる人気商品

「私たちはあくまで"新潟の酒蔵"です。それを訴えかけていくために、まずは新潟の米にこだわろうと決めました。海外展開も含めた中長期的な会社のビジョンを考える上で、テロワールの考え方を取り入れた米へのこだわりは、必須だと判断したのです」

米の不作に備えて他県の米を使っていた菊水酒造。100%新潟県産米とすることにリスクはなかったのでしょうか。宮尾さんは、このリスクを"菊水酒造の技術向上"でクリアしたと話します。

「誤解を恐れず言えば、『どんな米でもカバーできる』ほどに技術が進歩したんです。新潟県産の米の質があまり良くない年であったとしても、菊水酒造の技術により、安定した酒質を常に造ることができるようになりました。今では、新潟産の米だけを使って、自信を持って旨い酒をお届けできますよ」

新潟県の米で出品酒を造る

米の切り替えは順調に進み、現在仕込み中のものはすべて新潟県産米で仕込んだもの。長期貯蔵酒の一部にのみが県外産米をの商品が残っている状況だそうです。

「もともと大部分が県産米を使っていましたし、貯蔵期間の短い生酒の割合が高いので、『やろう』と決めてからの作業はさほど大変ではありませんでした。半年ほどで切り替えをすることができ、各商品の味わいもほとんど変化していません」

菊水酒造のお酒。安定した酒質で、コンビニやスーパーなど身近な場所でいつでも気軽に手に取ることができる。
そのなかで、最も大きく変わったのは出品酒だといいます。これまで、出品酒だけは兵庫県産の山田錦を使っていましたが、これも新潟県産の菊水と越淡麗(こしたんれい)に変えたのです。出品酒の味わいを変えるのは大きな挑戦のように感じますが、躊躇はなかったのでしょうか。

「躊躇はありませんでしたね。出品酒を仕込むための原料米は、どちらも蔵と契約栽培を行なっている農家が作ったものです。私たちはじっくり酒米の研究をすることができますし、農家の方も酒造りに協力してくださっています。味わいを変えるリスクよりも、この素晴らしい関係性から得られるメリットの方が大きいと判断しました」

越淡麗で造った酒の味は、ひとことでいえば綺麗。蔵人の間でも、飲んでおいしいと思うのは越淡麗という人が実は多いのだとか。

「越淡麗は熟成してさらに酒質が上がるタイプなんですが、出品酒では熟成期間が短いなかで幅のある味わいや香りと味の調和が求められるので、山田錦と比べると味が細く、もの足りない印象になりがちです。ですから、越淡麗で出品酒を造るときは、味をのせるために力のある麹を使い、酒米の特性を見極めながら水分量をシビアに調整して発酵管理をしています」

新潟の味を日本中へ届けたい

宮尾さんはここ数年、「土地に根ざした食と日本酒のマリアージュ」について研究をしています。例えば、味噌や醤油の味が濃い地域は、お酒が甘い傾向にあるのだとか。こうした結果を通じて、「酒は単独で旨い・まずいを決めるものではなく、その土地の食と組み合わせることで美味しくなる」と分析しています。

「米も酒も食べ物も、『その土地のもの』というのは、何か理由があって長く残ってきたはずです。気候や文化に合っているなど、何かしらの必然性があるのだと。ですから、新潟で造る酒には、新潟の米が合うのだという結論に行き着きました」

新潟の米は、他の地域の米と比べてスッキリとした味わいなのだそう。そして、そのお米で造ったお酒も、同じようにスッキリとした味わいになるのだとか。また、お酒と一緒に楽しむ料理も、同じ土地のものとがもっとも相性がよいと宮尾さんは話します。

「私たちは新潟の酒蔵です。首都圏のお客様に合わせて原料や味わいを変えるのではなく、もともと大切にしていた"新潟の味わい"を楽しんでもらうのが、私たちの役割だと考えています。新潟の米で酒を造り、新潟の食べ物を合わせる。この土地にあるものでまとめることが自然なんです。いわば、"地域のマリアージュ"といったところでしょうか」

定番商品・菊水の辛口にも「新潟県産米100%使用」の表示が

発売から40年目を迎えるロングセラー商品「菊水の辛口」も、ラベルに「新潟県産米100%」と書き加えることで、「新潟の米を使っているんだね」と改めて目を向けられることが増えたのだそうです。

新潟の酒蔵として、菊水酒造は"地域のマリアージュ"を発信していきます。今宵は菊水酒造のお酒で、新潟に想いを馳せてみませんか。

(取材・文/藪内久美子)

sponsored by 菊水酒造株式会社

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