フランス語で「結婚」を意味する「マリアージュ」。「ふたつの異なるものがひとつに調和し、新たなものを生み出す」という意味合いを持つこの言葉は、ワインと料理の相性を表現する時によく用いられ、最近では日本酒の味わいの表現でも使われています。

新潟県・菊水酒造は、2007年から日本酒と料理の相性についての研究に力を入れてきました。特設サイト「菊水マリアージュDining」では、どのような料理と自社のお酒が合うのかを分析し、まとめています。

中でも意外なマリアージュを見せるのが、秋から冬にかけて限定販売されるにごり酒「五郎八(ごろはち)」と、ピリ辛な「チゲ鍋」の組み合わせ。なぜこの2つがマッチするのか、科学的な観点から紐解いていきます。

米をそのまま食べているような、独特の食感

「五郎八」が発売されたのは、1972年のこと。菊水酒造の看板商品「ふなぐち菊水一番しぼり」と同じ年です。

五郎八

新商品の誕生の裏には菊水酒造の苦境がありました。新潟地震と2年連続の大水害の影響で酒蔵が被害を受け、蔵の移転を余儀なくされたのが約50年前のこと。新しい蔵で勢いよく再スタートを切るため、菊水酒造は新商品の開発に挑戦することを決めました。

当時の代表、四代目の故・髙澤英介氏は、「他社と同じことをしているのでは勝ち残れない。同じ土俵で相撲を取るな」と口を酸っぱくして話していたのだそう。

人真似ではない、菊水酒造にしか造ることのできない商品を造る。その一心で試行錯誤を繰り返し、誕生したのが「ふなぐち」と「五郎八」でした。

「五郎八」の由来は、越後民話に登場する山賊の頭領の名前なのだとか。「山賊が普通の茶碗よりも大ぶりな五郎八茶碗で飲むように豪快に楽しんでほしい」との想いが込められています。

五郎八

「五郎八」が持つ大きな特徴は、まるで米をそのまま食べているようなつぶつぶ感とのどごしです。

米をつぶしすぎないことで生まれるこの独特の食感は、唯一無二の味わい。さらに、加熱をせずに生酒で仕上げたことも、1970年代当時ではかなり挑戦的な試みでした。

若月取締役

菊水酒造 取締役の若月仁さん

「『五郎八』を造るうえで目指しているのは、誕生した当時の味わいを守り続けること。ただ、米の粒そのものがお酒に入っているぶん、使った米の特徴が味わいに出やすいんです。そこは難しくもあり、造り甲斐がある部分でもありますね。毎年、『五郎八』の発売を楽しみにしてくださっているお客様に、『今年もおいしい』と言っていただけるのが本当にうれしいです」

取締役の若月仁さんは、「五郎八」への想いをこのように話します。

しかし、発売当時、にごり酒はまだ一般的なジャンルではありませんでした。そのため「五郎八」が受け入れられるまでには、発売してから4年ほど時間がかかったそうです。

「発売から50年近くが経ち、今ではこの時期になると、発売日についての問い合わせが全国から寄せられます。毎年、『五郎八』を楽しみにしていただいているファンの方々に支えられていることを改めて実感するんです」と、若月さん。

五郎八カクテル

また、その濃厚な味わいから、そのまま飲むだけでなく、さまざまな楽しみ方ができるのも「五郎八」の特徴。菊水酒造の公式HPでは、ほかの飲み物と割る「和のカクテル」のレシピについても紹介しています。

レシピを見ると、「五郎八」をソーダで割った「ゴロぼーる」や、ミルクで割った「雪うさぎ」など、キャッチーな名前のカクテルが並びます。これらの名前はファンの投票によって決められ、中にはファンが考案したレシピもあるのだとか。

ファンとコミュニケーションを取りながら新しい楽しみ方を広げていくのも、「五郎八」らしさと言えるでしょう。

味わいを"目に見える形"で表現する

日本酒と料理の相性を探るうえで菊水酒造の強力なパートナーとなるのが、東京都中央区に本社を構える、株式会社味香り戦略研究所です。

味香り戦略研究所では、「味覚センサー」を使って味わいを数値化し、目に見える形で表しています。また、味わいだけでなく、におい、食感、ビジュアルなど、食品をあらゆる面から分析しています。

代表取締役社長の小柳道啓さん

株式会社味香り戦略研究所 代表取締役社長の小柳道啓さん

「私たちの強みは、味の"見える化"です」

そう語るのは、代表取締役社長の小柳道啓さん。味香り戦略研究所が一般的な分析会社と異なるのは、分析結果の数値をわかりやすくビジュアル化していることです。

「五郎八」の味わいマップ

「五郎八」の味わいマップ

菊水酒造のウェブサイトにある商品紹介には、五角形のチャートで示された「味わいマップ」が掲載されており、一般的な日本酒と比較する形で味わいが想像しやすくまとめられています。

「『おいしい』と感じるかどうかは、その人の年齢や好み、住んでいる地域などによって異なりますから、全員に『おいしい』と言ってもらうのはなかなか難しいものです。ただ、『甘味が強い』『コクがある』など、味わいの傾向は数値から導き出すことができます。少しでも好みに合ったお酒選び、そしておつまみ選びにチャートが役立てばうれしいです」と小柳さん。

菊水酒造 営業部マーケティング室の南波麻美子さんは、「味香り戦略研究所さんに出会う前は、お客様に『この酒にはこのおつまみが合いますよ』と感覚でおすすめすることしかできませんでした。それが、今では『なぜなら......』とその根拠をお伝えすることができるので、本当に心強いです」と話してくれました。

うまみを補い合う「五郎八×チゲ鍋」のマリアージュ

五郎八とチゲ鍋

そんな味香り戦略研究所が「五郎八」に合う料理としておすすめしているのが、この寒い時期にぴったりなチゲ鍋です。

菊水酒造の社内では、長らく「『五郎八』にはキムチが合う」と言われていたのだとか。チゲ鍋とのマリアージュの提案は、それを裏付けてくれる結果となりました。

「五郎八」と「チゲ鍋」の味わいチャート

「五郎八」とチゲ鍋の味わいグラフを見比べると、それぞれ異なる形を描いているのがわかります。

どちらも「うま味」のポイントが強いですが、「五郎八」は相対的に「うま味の余韻」が強くて「酸味・キレ」が弱く、チゲ鍋はその反対で、「うま味の余韻」が弱くて「酸味・キレ」が強いという特徴があります。

つまり、「五郎八」とチゲ鍋を合わせると、互いの弱点を補強し合い、おいしさがより際立つということ。小柳さんは、「分析する前から合うと思っていました」と話を続けます。

「発酵食品同士は相性がいいんです。分析を通じて、お互いが持っていない味わいをカバーし合っていることがわかりました」

お酒と料理のマリアージュには、「深まる」や「引き立たせる」などさまざまなパターンがありますが、「五郎八」とチゲ鍋の場合は「まとまる」マリアージュ。実際に合わせてみると、チゲ鍋の辛味や酸味を「五郎八」が包み込んでくれるような印象です。

ちなみに、小柳さんによると、チゲ鍋の隠し味として乳製品を加えるのがおすすめだそう。牛乳を少し加えてみたり、具材にチーズを足してみたり......「五郎八」とチゲ鍋のマリアージュは奥が深そうです。

五郎八

「カクテルにしても、チゲ鍋にしても、しっかりとした味わいの素材と組み合わせた時にきちんと"五郎八感"が出るのは、個性が強いからこそ」と話す若月さん。

冬の寒い夜には、キンキンに冷やした「五郎八」と熱々のチゲ鍋を用意して、極上のマリアージュを体験してみてはいかがでしょうか。

(取材・文/藪内久美子)

◎商品概要

  • 商品名:菊水酒造「にごり酒 五郎八
  • 種類:にごり酒
  • アルコール度数:21度
  • 価格:
    【1,800ml】1,881円
    【720ml】867円
    【300ml】404円
    【180ml缶】278円(いずれも税別)
  • ※「五郎八」の取扱店舗については、菊水酒造の「取扱店検索」をご確認ください。

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