新型コロナウィルス拡大による外出自粛要請を受け、多くの飲食店が営業時間の短縮や自主休業を決定。その結果、お酒の消費が落ち込み、日本酒産業は大きな影響を受けています。
その一方で、「オンライン飲み会」など、自宅でお酒を楽しむ時間が増えたことも事実です。酒蔵も「オンライン蔵見学」を開催するなど、新たな動きが出てきています。
そんな中、福井県・小浜酒造は地元の名産品とタッグを組んで「家飲みセット」の販売を開始。外出や遠出がままならない今だからこそ、自宅にいながら小浜市の魅力に触れてもらおうと企画しました。今回は、そんなユニークな取り組みをご紹介します。
2016年に誕生した酒蔵・小浜酒造
福井県の南西部に位置する小浜市は、若狭湾に面し、古くから日本海の要所として栄えてきた港町です。市内には多くの寺社が立ち並び、風情ある街並みが残っています。
小浜酒造が誕生したのは2016年。もともと小浜市で酒造りを行ってきた「わかさ冨士」(創業1830年)から事業継承を行い、小浜市唯一の酒蔵として再出発しました。
事業継承といってもさまざまなケースがありますが、小浜酒造が挑んだのは新規で酒造免許を取得する方法です。不可能とまで言われてきた壁を乗り越え、1年半もの歳月をかけて免許を取得しました。
代表銘柄「わかさ」は、すっきりとした飲み口ながら旨みがある、食中酒向きのお酒。地元のお米と、蔵の目の前を流れる南川の伏流水を使い、蔵人たちがほぼ手作業で仕込みにあたっています。
そんな昔ながらの手造りにこだわる一方、新商品の開発に向けてクラウドファンディングを行なったり、SNSでの情報発信に注力したりと先鋭的な一面も。古いものと新しいものを融合させ、日本酒文化を次世代につなげるべく、さまざまな試行錯誤を重ねる酒蔵なのです。
家で味わう、小浜の風土
販売中の「家飲みセット」は、蔵元自らが厳選した地元名産のおつまみを厳選し、日本酒といっしょにお届けするというもの。
お酒は、小浜酒造の看板商品でもある純米酒の「わかさ」と、同じく純米酒の「華の郷」が四合瓶で1本ずつ入っています。おつまみは、小浜市の名産である「小鯛ささ漬」と、高級魚・のどぐろを使った「のどぐろのささ漬 昆布じめ」が同梱。約60年間も「ささ漬」を作り続ける上杉商店が製造したものをセレクトしています。
小浜の海の幸と大地の恵みをいっぺんに味わえる、地元愛にあふれたセットです。
「家飲みセット」を発案したのは、小浜酒造 取締役の高岡明輝さん。上杉商店とのコラボを決めた経緯をうかがいました。
「小浜では毎年5月に『お城まつり』というイベントが開催され、とても賑わいます。お酒もたくさん飲んでいただけるのですが、今年は新型コロナウィルスの影響で中止になってしまいました。ちょうど今季の造りも終わって、『さあ売るぞ』と思っていた矢先でしたから、正直頭を抱えました」と、高岡さんは振り返ります。
もともと、小浜酒造は製造した商品の8割が地元で消費される、地域に密着した酒蔵です。特にホテルでの宴会用や居酒屋への納品が大きな割合を占めていました。
しかし、外出自粛が続く状況では、これまでのように出荷することはできません。外出先でさまざまな考えを巡らせていた高岡さんは、ふと近くに上杉商店の看板を見つけます。
「以前、『どこのささ漬けがおいしいか』という話になった時に、上杉さんの名前を聞いていたんです。そこで、飛び込みでお伺いしてささ漬けを食べてみたところ、確かにおいしい。これは日本酒にぴったりだと思い、『ぜひうちの日本酒とセットで売らせていただけませんか』とオファーしました」
自宅で過ごす時間が増える中、家飲みの需要も増すと考えた高岡さん。合わせる日本酒には純米酒「わかさ」と純米酒「華の郷」を選びました。
「わかさ」は地元産の五百万石を使用していて、冷やしてもお燗でも楽しめる食中酒。「華の郷」は地元産の山田錦を使い、柔らかくきれいな飲み口のお酒です。冷やしてワイングラスなどに注ぐと、華やかな香りがさらに引き立ちます。
どちらも2種類のささ漬けと好相性ですが、強いて言えば、「小鯛ささ漬」にはキリッとさっぱりした印象の「わかさ」が、上品な脂がのった「のどぐろのささ漬 昆布じめ」には包み込むような味わいの「華の郷」が合うのだそう。
「本来なら小浜に足を運んでいただきたいところですが、今の状況では難しい。せめて、このセットで小浜の情景を思い浮かべてもらえたらうれしいです」
60年間も守り続けてきた伝統の味
一方、ささ漬けを製造する上杉商店の代表・上杉耕一郎さんは、高岡さんとの出会いを次のように振り返ります。
「小浜酒造さんが事業継承した話は聞いていましたが、実際にお会いしたのは店に来られた日が初めて。話を聞くとやる気に満ち溢れた方で、すぐに快諾しました。ささ漬けを日本酒とセットで販売するのは初めてでしたが、お酒を飲みながら食べる方が多い商品なので、こういう形でごいっしょできるのは心強いですね」
そもそも、ささ漬けとは、若狭地方で小鯛が豊漁だった時、保存が効く調理法として酢漬けにしたのが始まり。その後、京都の料理屋さんの考案により、香り付けと保存効果を高めるために杉樽に詰め、笹の葉を乗せて販売されるようになったのだとか。
「昭和30年代には、福井の名産として人気になりました。昔から食べている人は『これやないとあかん』と言うくらいで、全国にリピーターがいるんですよ」
朝に仕入れた小鯛を3枚におろして、塩を振り丸1日寝かせた後、昆布、米酢、みりん、砂糖などをブレンドした調味液に漬けて仕上げています。現在、小浜市内では10軒ほどが製造していますが、上杉商店は60年間も伝統の味を守ってきました。
新鮮な小鯛を吟味するところから出荷まで、ほとんどの工程が人の手によるもの。長年の経験と勘ができを左右する職人の仕事は、どこか酒造りとも通じるものがあります。
「大量生産はできませんが、そのぶん、気候や魚の状態を見ながら1枚1枚ていねいに仕上げています」と、上杉さん。
そのままお刺身のようにわさび醤油でいただくのはもちろん、海鮮サラダやカルパッチョ、手毬寿司やちらし寿司のネタなど、アレンジするのもおすすめだそう。上杉さんは「すっきりして飲みやすい小浜酒造のお酒にも間違いなく合います」と太鼓判を押します。
「お酒好きの方だと、食にこだわる方も多いでしょうから、さまざまな楽しみ方をしていただけたらうれしいです」
地元企業と協力し、小浜の魅力を伝えていく
小浜酒造が地元産の米にこだわっているのと同じく、上杉商店のささ漬けも地元で獲れた魚を使い、味の決め手となる酢も市内の醸造所のものを使うという徹底ぶり。共通しているのは、小浜の伝統の味を受け継ぎ、未来につなげようとする深い地元愛です。
「もともとこのあたりは『御食国(みけつくに)』と呼ばれ、朝廷に食べ物を納めていた歴史があり、鯖をはじめとする海産物や物資を京都へ運ぶ『鯖街道』の起点にもなっています。食材も豊かで、おいしいものが多いです。今回の『家飲みセット』で田んぼと海がコラボできたので、次は山の幸とペアリングするなど、さまざまな発信をしていきたいですね」
小浜市の例に限らず、地酒はその土地の味とともに発展してきたもの。そう考えると、酒蔵が先陣を切って地域の食文化を発信するのは理にかなっているとも言えます。
これまで、小浜酒造と上杉商店はあまり接点がなかったそうですが、今回のコラボをきっかけに、お互いの"もの作り"にかける意気込みに触れ、リスペクトし合える関係へと絆を深めた様子。そんな背景を知れば、「家飲みセット」の味わいにも深みが増すのではないでしょうか。
現在、小浜酒造では病院や介護などの施設に従事される方々に向けて、無料で純米酒「わかさ」(300ml)をお送りしています。新型コロナウィルスによる感染が広がる中、最前線で治療にあたる方々のストレスを少しでも和らげ、明日への活力にしてほしいとの思いから企画したとのこと。
ネガティブな空気を明るくするアイディアは、困難を極めた事業継承を経て、一から酒蔵をスタートさせた小浜酒造ならでは。事態を静観するのではなく、できることから始めようとする前向きな姿勢は一貫しています。
私たち日本酒ファンが今できることは、そんな酒蔵を応援すること。現在、「家飲みセット」は「47CLUB」と「Makuake」にて販売しています。福井県の日本酒とおつまみを味わいながら、小浜酒造のこれからにもご期待ください。
※ サイトによってセット内容が異なるため、購入時にはご注意ください。
(取材・文/渡部あきこ)
sponsored by 株式会社小浜酒造