近年、スーパーやレストランなどで、「オーガニック」や「有機」という言葉を目にする機会が増えてきました。
実は、この「オーガニック」や「有機」という言葉は、1999年に改正されたJAS法に基づく検査をクリアし、原材料・添加物・薬剤など、「有機加工食品の日本農林規格」が定めるもののみを使用できる「有機JAS認証」を取得しなければ、表記することができません。
2022年10月1日、JAS法の改正により、従来は対象外だった「酒類」が有機JAS認証の対象として追加されました。もちろん、日本酒もその対象に含まれます。
JAS法が改正された、まさにその日、日本酒として初めて有機JAS認証を取得したのが、兵庫県の日本酒メーカー・大関の「#J(ハッシュタグジェイ) 有機米使用純米酒 720ml瓶詰」です。2022年に数量限定で発売され、好評のため、2023年3月からは通年商品として販売。2024年3月25日には、180ml缶詰も新たに発売されます。
有機JAS認証の取得によって、“オーガニック日本酒”という市場を広く開拓する存在になるかもしれない「#J」の魅力を、大関の開発担当者と取扱店の仕入れ担当者、それぞれの視点で語っていただきました。
日本酒の未来を考えた、オーガニックという選択肢
全国のスーパーやコンビニでよく見かける日本酒「ワンカップ大関」を代表商品とする大関は、日本酒市場を牽引する大手酒蔵。これまで、「酒造りは循環型産業」をテーマに、廃棄物やCO2の排出量の削減、再生可能エネルギーの活用など、持続可能な社会を目指した酒造りに注力してきました。
「大関全体でSDGsの取り組みを進める中で、以前から『オーガニックの日本酒を造りたい』という声が上がっていました。そんな中、有機JAS認証に酒類が追加されることが発表され、部門を跨いだ勉強会を開くなど、認証の取得に向けて動き出したのです」
そう話すのは、「#J」の商品開発を担当した営業推進部の大畠薫平さんです。
有機JAS認証を取得するには、さまざまな条件や基準をクリアする必要があります。
大関も、原料である有機米の管理、商品の製造・包装・保管などの工程、設備の洗浄・施設の清掃・防虫管理に使われる薬剤の種類まで、登録認証機関による厳しいチェックを受けました。
しかし、清掃・洗浄などの衛生活動を日々徹底し、食品安全システム認証の「FSSC22000」を取得していたこともあり、有機JAS認証の取得はスムーズだったといいます。
「#J」の原料には、国産有機米を100%使用。有機米ならではの力強い味わいと、すっきりとした酸味が特徴です。瓶から瓶に再生した環境にやさしいエコロジーボトルを採用し、首掛けには、食べられなくなった米から作った紙素材「kome-kami」を使用。中身もパッケージも自然環境に配慮し、持続可能性を意識した商品になっています。
また、「#J」という商品名には、海外への展開も意識されています。「#(ハッシュタグ)」は、世界中のSNSで使われている、いわば共通言語。そこに、「Japan」「Junmai」などの日本酒に関する言葉や、「Joyful」「Journey」などのポジティブなイメージがある言葉の頭文字を取って「#J」と名付けたのだとか。
実際、日本の有機JAS認証は、アメリカやヨーロッパをはじめとする他国の有機認証制度と同等の水準であること(同等性)が認められているため、日本の認証を取得することで、現地の認証を別途取得しなくても、有機加工食品として輸出することができます。「有機酒類」は、ほとんどの国で同等性がまだ認められていませんが、今後の輸出の追い風となる可能性があります。
大畠さんは「『#J』を通して、オーガニック日本酒を当たり前の選択肢にしたい」と話します。
「『オーガニック』というと、『馴染みがない』『高価』というイメージがあるかもしれませんが、日常の暮らしの中に、オーガニックライフを気軽に取り入れられるきっかけになってほしいというのが、一番の思いです。
だからこそ、日常に取り入れやすいリーズナブルな価格(1,505円/税別・720mL)としたほか、より試しやすい缶タイプ(398円/税別・180mL)も発売することにしました。さらに、食事との相性を考えたすっきりとした酸味のある味わいになっています」
大手メーカーだからこその品質と価格に安心感
実際に「#J」を販売する小売店は、どのような点に魅力を感じているのでしょうか。話を聞いたのは、オーガニック&ナチュラルフードスーパー「旬楽膳(しゅんらくぜん)」の松原雄一郎さんです。
「旬楽膳」は愛知県内に5店舗を展開し、「添加物に頼らない食生活が健康寿命を延ばす」という考えのもと、有機野菜をはじめとする農作物や食品のほか、環境に配慮した洗剤や化粧品、ペットフードなどの雑貨も取り扱っています。
酒類の仕入れを担当している松原さんによると、ワインは約100種類、日本酒は約30種類をラインナップ。ワインは有機栽培や農薬使用量の少ないぶどうを原料にしているものを選び、日本酒は生産者をイメージできるように東海地方の酒蔵を中心に、純米酒に限定して仕入れているといいます。
「『#J』の取り扱いを決めたのは、有機JAS認証の日本酒が少ないというのが大きな理由です。認証されていればそれで良いというわけではありませんが、使用している原料が有機米であるとわかれば、お客様に安心して手に取っていただけると思い、ずっと探していた商品でした。『#J』の存在を知った時は、非常に興味をそそられましたね」
まずは1店舗で試験的に販売したところ、「珍しい」と手に取るお客さんが多く、他の日本酒よりも販売が好調だったことから、全店舗での取り扱いをスタートしました。
松原さんは「#J」の売れ行きについて、「実際に飲んでみたお客様がリピーターとなり、口コミで広げてくださっているのでは」と分析しています。また、高い品質に加えてリーズナブルな価格にも魅力を感じているそうです。
「当店で取り扱っている日本酒やワインの価格帯は、2,000~2,500円。『#J』は、それらと比較して2割ほど安い価格で販売しています。これはまさに、高品質の商品を安定的に製造できる大手メーカーだからこその価格ではないでしょうか。テーブルワインのように、普段の生活の中で気軽に楽しめる点が良いと思いますね」
味わいについては、「『#J』はすっきりとしていて飲み飽きず、食中酒にぴったり」だと感じているのだとか。特に酸味や旨味が強いものと相性が良く、「寒い季節であれば、たっぷりのネギといっしょにポン酢でいただく湯豆腐や、さまざまな具材が入った寄せ鍋などとよく合いますよ」とのこと。
実際に店頭で紹介しているレシピの中では、旬楽膳のオリジナル商品「鰹白だし」を使用し、鶏肉と大根をシンプルに煮込んだ「鶏肉と大根の白だし煮」と好相性。白だしの上品な旨味と、純米酒ならではのしっかりとした味わいがよく合います。
さらに、同じくオリジナル商品の「かけて味わうぽんず」を白ねぎやごま油と合わせ、焼いたブリの切り身にかけた「ブリのねぎポン酢かけ」との食べ合わせもおすすめ。ポン酢の爽やかな酸味と「#J」のシャープな酸味が重なり、脂がのったブリをよりさっぱりと楽しむことができます。
「『#J』は、数少ない有機JAS認証を取得している日本酒で、かつ料理に合わせやすく、日本酒を初めて飲む方にもおすすめできます。食事といっしょに日本酒を楽しむきっかけになれるお酒ではないでしょうか」
「#J」が発売されてから1年と少し。大関の大畠さんはオーガニック日本酒という新しいジャンルについて、「市場としてはまだ始まったばかりで、短期的な視点ではなく、長期的に取り組んでいく必要があると思っています。商品のバリエーションを拡充していくなど、さらなる展開を考えていきたいです」と、今後の展望を語りました。
『#J』は、スーパーなどの小売店のほか、大関のオンラインショップでも購入できます。「オーガニック日本酒が当たり前の選択肢になるように」という願いが込められた、日本酒の未来を期待させてくれる「#J」を、ぜひ味わってみてください。
(取材・文:芳賀直美/編集:SAKETIMES)
◎商品情報
- 商品名:#J 有機米使用純米酒
- 原材料名:有機米(国産)、有機米こうじ(国産米)
- 精米歩合:70%
- アルコール度数:15%
- 日本酒度:-1
- 酸度:1.7
- 参考小売価格:
【720mL瓶詰】1,505円(税別)
【180mL缶詰】398円(税別) - 販売場所:大関の公式オンラインショップ、もしくは全国の取扱店