2016年3月、神戸・灘の酒造メーカー「沢の鶴」と農業機械メーカー「ヤンマー」がタッグを組み、"新しい酒米をつくる"という壮大なプロジェクトが発足しました。

沢の鶴代表取締役社長の西村隆氏、ヤンマーでアグリ事業部品質保証部部長を務める山岡照幸氏

沢の鶴 代表取締役社長 西村隆氏(右)、ヤンマー アグリ事業部品質保証部部長 山岡照幸氏(左) ※ 山岡氏の肩書はプロジェクト発足当時のもの

プロジェクトの成果として誕生した日本酒「沢の鶴 X01(エックスゼロワン)」をはじめ、このかつてない取り組みはその年の日本酒業界を沸かせた大きなトピックになりました。

そして2019年3月には、昨年からさらにブラッシュアップした酒米による新しい日本酒が発売される予定。発表から1年、新たな局面を迎えるプロジェクトの現在を、新商品の味わいとともに紹介します。

今年のテーマは「品質向上」と「安定供給」

銘醸地として知られる灘五郷で、米屋の副業として1717年から酒造りを始め、創業から300年以上もの間、米にこだわり続けてきた沢の鶴。そして、生産量の減少や後継者の不足といった日本農業が抱える問題を打破すべく、輸出の伸びをみせていた酒米に着目していたヤンマー。

両社の強い志のもとで「酒米プロジェクト」はスタートしました。

まだ市場に出回っていない酒米をつくるべく、栽培されているお米

米づくりを生業とする農家の協力を得ながら、まだこの世にない新しい酒米、さらに「酒米の王様」と呼ばれる山田錦と双璧をなすような酒米の開発を目指しています。

日本酒の多様性を広げるだけでなく、日本酒業界やその周辺に位置するあらゆる産業を発展させ、日本農業の未来をより明るいものにしようとする壮大な試みです。

プロジェクト第1弾商品「沢の鶴 X01」

プロジェクト第一弾商品「沢の鶴 X01」。2018年のグッドデザイン賞を受賞したことでも話題に。

プロジェクトの第一弾商品「沢の鶴 X01」は、約2万種類にもおよぶ米の種子から取捨選択と試験醸造を何度も繰り返し、「酒造りに適している」と両社が評価したわずか数種類の米で醸された純米大吟醸酒です。

これまでにない血統の新しい酒米で造られた「X01」は、フルーティーな香りと上品な甘味をもち、それでいて豊かなふくらみのある味わいに仕上がりました。

しかし、生産量に限りがあり、実際に販売されたのは限定4,000本(180ml)。業界内外での注目度は高く、わずか3ヶ月で完売に至る人気商品となりました。

第一弾の成功を受けて、第二弾では酒米と日本酒のさらなる品質向上と販売量の拡大を目標として掲げました。その目標を見事達成し、今回新たな日本酒「沢の鶴 X02(エックスゼロツー)」が誕生したのです。

収穫量が多く、原料処理のしやすい酒米

「X02」の完成に至るまで、両社の間でどのような取り組みが行われていたのでしょうか。

酒米プロジェクトの責任者のひとりである、沢の鶴 取締役・製造部部長兼総杜氏代行の西向賞雄さんに話を伺いました。

沢の鶴の取締役・製造部部長兼総杜氏代行の西向賞雄さん

沢の鶴 取締役・製造部部長兼総杜氏代行の西向賞雄さん

「『X02』の取り組みが始まったのは1年以上前です。『X01』は、米の生産量がまだ少ない時点で商品化を進めていたので複数の品種を使いましたが、第二弾では使用する酒米を単一品種に絞りこんでいきました。田んぼの作付けの時期を考えて、選定作業は早くから着手していました」

米づくりに関して、沢の鶴からヤンマーへ出した要望は「米のタンパク量を適正な量に保ってほしい」ということ。

酒造好適米には、一般的な米と比べて「粒が大きい」「心白の発現率が高い」「タンパク質の含有量が少ない」などの特徴があります。肥料を与えすぎると肥料に含まれる窒素成分を米が吸収し、タンパク質の量が増えてしまうのだとか。

新たな日本酒「沢の鶴 X02(エックスゼロツー)」のために開発された新しい酒米

精米歩合50%まで磨かれた「X02」の酒米

西向さんの懸念を払拭したのが、営農支援のノウハウを蓄積してきたヤンマーの技術力です。

ドローンを利用したリモートセンシングを導入し、稲の生育状況を随時チェック。同じ一枚の田んぼの中でも、肥料や水管理の微妙な差異をピンポイントで識別して栽培管理に生かすなど、最新技術を取り入れたアプローチによって、酒造りに適した質の高い米を効率良く栽培することが可能になりました。

こうして栽培された第二弾の酒米は草高が低く、米粒の大きさも中くらいであることが特徴です。

稲のこうべが垂れないので倒伏しにくく、限られた農地でも多く収穫できます。育てやすく、かつ加工しやすいため、米農家にとっても沢の鶴にとってもメリットが大きいといいます。

「沢の鶴 X02(エックスゼロツー)」の原料処理

「米を選ぶ基準として、お酒になったときの味や香りが良いのはもちろん、"サバケ"が良いのも大切なポイントでした。酒造りの工程で団子状になってしまうような柔らかい米は使えません。さまざまな品種の米を試験醸造してきたなかで、品質評価の結果に加えて、もっとも作業のしやすかった1種類に絞りました」(西向さん)

「X02」をより多くの人に届けたい

沢の鶴、ヤンマー、生産者......それぞれの技術が結集して完成した日本酒「X02」

沢の鶴「X02」のボトル

混じりけのない白いボトルで"進化"を表現した「X02」

その味わいは「『X01』よりもさらにふくらみのある味で、香りは強すぎずほどほどに。より多くのみなさんに楽しんでいただけるお酒を目指しました」と西向さん。麹造りに使う種麹の量を調整するなど、良い香りが出せるように意識したと話します。

実際にテイスティングしてみると、瑞々しい果実を思わせるボリューミーで甘やかな香りが印象的。また、凝縮された旨味が充分に感じられ、それでいてキレが良く、斬新なパッケージデザインのイメージと良くマッチした味わいでした。

米の収穫量が大幅に増えたことによって、「X02」は「X01」の5倍近くの生産を見込んでいます。そのため、「X02」は180ml瓶に加えて720mlのラインナップも展開。西向さんは「より幅広いユーザーに届けたい」と意気込みます。

「ようやく商品を仕込むのに充分な量の米が用意できたので、今年は新しい挑戦ができます。『X01』は販売から数ヶ月で売り切れてしまったんですが、『X02』は一年を通じて買っていただける商品になってほしい。飲みたいと思ったときに手にとれるよう、全国のファンに広く行き渡ってほしいと思います」(西向さん)

今後の展開は......?

さらなる展開として、次は「X03」が登場するのか、それともまったく異なるアプローチで私たちを驚かせてくれるのか......酒米プロジェクトの可能性は未知数です。

「『新しい酒米をつくる』という壮大なプロジェクトですが、新しい品種の米をつくるのはやはり時間と労力がかかるもので、ヤンマーさんも農家さんもいろいろ試行錯誤してくれている。そのなかで、私たちは造り手として、どういうテストをしてどんな商品をつくっていくのか、絶えず考え続けていきたいと思っています」(西向さん)

2016年から始まったプロジェクトの現在を取材し、沢の鶴とヤンマー両社の想いが高まっていくのとともに、プロジェクトそのものが進化し続けていることが実感できました。しかし、プロジェクトはまだ道半ば。「今までにない新しい酒米を作る」というゴールに向けて着実に歩んでいく姿を、SAKETIMESはこれからも追いかけていきます。

(取材・文/芳賀直美)

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