コロナ禍にもかかわらず、2021年に売上が10億円を突破するなど、右肩上がりの成長を続ける高知県・酔鯨酒造。2013年に4代目の大倉広邦(おおくら・ひろくに)さんが実家の酔鯨酒造に入社してから、同社では、慣例にとらわれることのない組織改革を行ってきました。

毎年増える製造量を支えるための積極的な採用活動も、そのひとつ。さらに、「世界の食卓に酔鯨を!」というビジョンを実現するため、現在も、社員一人ひとりの意識を高め、成長を支えるためのさまざまな取り組みを実施しています。

今回の記事では、大倉社長と人事課長の井上誉里子(いのうえ・よりこ)さんに、酔鯨酒造で行われている働き方改革と、同社が求める人材像についてお聞きしました。

酔鯨酒造のための人事制度を新たに導入

大倉さんが酔鯨酒造の代表取締役社長に就任した2016年ごろ、酔鯨酒造では親会社である旭食品グループと共通の人事制度を採用していました。

しかし、全国に4,000人もの従業員を要する卸売業と、数十人規模の酒蔵では、まったく異なる制度が必要だと感じていた大倉さんは、当時、旭食品の人事部に勤めていた井上さんに、「酔鯨酒造の人事制度を変えたい」と何度も相談をします。

酔鯨酒造 代表取締役 社長の大倉広邦さん(写真右)と人事課長の井上誉里子さん

酔鯨酒造 代表取締役社長の大倉広邦さん(写真右)と人事課長の井上誉里子さん

「酔鯨酒造は、『世界の食卓に酔鯨を!』という目標を掲げていますが、これを達成するためには、一人ひとりの能力を最大限に伸ばす仕組みが必要です。従来の人事制度は抽象的で、個々人がどんな能力を求められているのかがわかりづらく、また、業績が上がったときに従業員に還元できるような仕組みにはなっていませんでした」(大倉さん)

大倉さんの考えを理解して、井上さんは旭食品社内の人事部に制度変更を提案しますが、大きな組織のルールをすぐに変えることは難しく、なかなか思うよう進みません。

大倉さんが旭食品の竹内孝久社長(酔鯨酒造の会長を兼任)に直接交渉してようやく、グループ会社の中でも、酔鯨酒造だけの独立した人事制度を設けることの合意を得ます。そして、これを機に、井上さんは人事担当として酔鯨酒造に移籍することになりました。

それまで20年間、旭食品に勤めていた井上さんは、酔鯨酒造に入社してから半年間で、生まれて初めての酒造りを経験します。

酔鯨酒造では、入社して数カ月ほど、醸造を経験する機会が与えられます。たとえ事務職であっても、どうやって日本酒ができているのかを知ることで、「酔鯨」という日本酒への愛着を育むとともに、酒造りの現場で働く仲間たちとの関係性を築くためです。

酔鯨酒造 土佐蔵での酒造りの様子

酔鯨酒造 土佐蔵での仕込みの様子

「酒造りの研修は感動的な体験でした。毎日、酒米が蒸し上がってから、同じ工程を進むはずなのに、蔵人一人ひとりが毎回真剣で、作業もていねいなんです。『日本酒ってなんて魅力的な飲みものなんだろう。こんな素晴らしいものを造れる会社で働けるんだ』と、気が引き締まりました。

酔鯨は数十人の会社ですから、名前を見れば全員の顔がわかるし、直接会話することができる。やろうと思えばなんでもできるんです。従業員みんなをどうやったら輝かせられるだろうと、やる気がみなぎりましたね」(井上さん)

全従業員が主体的に考えて、会社を動かす

井上さんが人事担当に着任して最初に行ったのは、酔鯨酒造が掲げる「世界の食卓に酔鯨を!」というビジョンの明確化です。

大倉さんが繰り返し唱えるこの言葉は、もちろん全社に伝わっていました。ところが、あらためて従業員にヒアリングをしたところ、「世界」という言葉の捉え方が一人ひとり微妙に異なっていることがわかったのです。

「大倉社長が目指しているビジョンを各従業員に絵で表現してもらったところ、人によってそれぞれ違うものができあがったんです。イメージを統一して同じ目標を共有するためにチームを作って定期的な話し合いを続け、1年ほどをかけて『ビジョン』『バリュー』『行動指針』に至るまでを明文化しました」(井上さん)

酔鯨酒造のポリシー

できあがった文章を、まずは役員に向けて提案。フィードバックを受けて、さらにブラッシュアップしたのち、全従業員を対象とした説明会を行いました。しかし、日々、目の前の作業に追われがちな現場の人間にとって、視座の高い概念的な言葉は、すぐには浸透しづらいものです。

そこで、それぞれの従業員をマネジメントする管理職を対象に意識改革を行うことにしました。

「人事担当の私は、それぞれの部署の細かい事情まで把握しきれていないので、ひとりで社員全員に伝えるのは難しい。そこで、外部講師をお招きして、各部署の管理職を対象としたマネジメント研修を始めました。この研修のおかげで、従業員一人ひとりの認識のギャップを減らすことができ、会社で一体となって同じ目標に向かえるようになってきています。大きな取り組みをしたというよりは、とにかく地道に伝え続けてきた成果ですね」(井上さん)

酔鯨酒造 人事課長の井上誉里子さん

さらに、人事評価制度も刷新。たとえば、「瓶詰めの機械の特定の部分を、分解して洗うことができるか」のような、具体的な行動を評価できるものに作り直しました。

「ひとつひとつの項目を達成していくと、次のステージに進むことができ、明確な評価へつながります。そもそも評価制度とは、マルやバツをつけるだけではなく、人を成長させる制度であってこそ意味があります。良いところはどんどん伸ばし、苦手なところは補強する。『やるべきことをコツコツとこなすことで、人間としても成長できる制度ですよ』と従業員のみなさんに伝えています」

社内の風通しのよさも、新しくなった酔鯨酒造の大きな魅力です。業務に関する相談事を投函できる「くじらボックス」を設置したほか、大倉社長と全従業員が直接話し合う場を設け、一人ひとりが自分の意見を伝えやすい環境を整えています。

酔鯨酒造のくじらボックス

酔鯨酒造に設置されている「くじらボックス」

そのほか、多様な部署や年代、性別のメンバーで構成されるプロジェクトチームを作り、社内のコミュニケーションを活性化させるためのイベント企画や、5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)への取り組み、デジタルツールの導入促進などにも努めているそう。

「一人ひとりがどこかのプロジェクトチームに参加して、日常の業務とは別に活動もしています。上層部が決めたことに従うのではなく、各スタッフが主体的に考えて、会社を動かしていくのが理想的な姿。自分から行動しながら、周りにも働きかける人材がだんだん増えてきています」(井上さん)

大きく飛躍するための採用募集

長浜蔵・土佐蔵の2カ所を合わせて57名の従業員を擁する酔鯨酒造では、現在、大規模な採用を計画しています。

「売上は昨年10億円を突破してからも伸び続けていますが、増加し続ける製造量に対して、すべての部署が人手不足という現状です。たとえば、スパークリング日本酒などの限定商品は、お客さまから『もっと欲しい』と求められているのに、人手が足りなく、ご要望に十分に応えられていません。

世界の食卓に『酔鯨』を届けるためには、企業をもっと成長させなければならない。そのためには、私たちと一緒に働いてくれるメンバーがもっと必要なんです」(大倉さん)

酔鯨酒造 代表取締役 社長の大倉広邦さん

井上さんも、「これまでは『3人いたほうが理想的だけど、2人でもなんとか仕事を回せている』というような状況がありましたが、本気で世界を目指すなら、本当に必要な組織体制を作っていこうと決断しました」と続けます。

酔鯨酒造の従業員は、いずれも酒造りの未経験者ばかり。学生時代に醸造の関連分野を学んでいた人もいますが、調理師や大工など、まったく異なるバックグラウンドから中途採用された人も多いのだとか。

「日本酒が“斜陽産業”と呼ばれるなかで、業界内で人材を奪い合うのではなく、外から入ってきて欲しいという想いがあります。これから加速度的に成長していくためには、日本酒業界の延長線上で伸ばしていくのではなく、異業種の視点を取り入れることが重要なんです」(大倉さん)

「異業種を経験している人が、想像もしないようなアイデアを出してくれたり、おもしろい化学反応を起こしてくれたりするんですよ。酔鯨酒造は、いろいろな企業とコラボレーションして新しい取り組みをしている酒蔵なので、チャレンジをしてくれる人材を常に求めています」(井上さん)

従業員の構成をみると、高知県外の出身者がほとんど。酔鯨酒造に魅力を感じて門戸を叩く人はもちろんのこと、UターンやIターンで高知県に移住するために就職先を探していた人も多いといいます。

酔鯨酒造では、県外から入社する人には家賃手当を支給し、マイホームを建てる場合には、100万円の祝金を贈るなど、金銭面でのサポートも充実しています。

高知県の自然

「高知県の魅力は、山、海、川という大自然に囲まれていること。県外から訪れたお客さまが海沿いの景色に感動しているのを見るたび、毎日こんな絶景を見ながら出勤している自分は贅沢だなと感じます。

高知県民は、おもてなしの気持ちが強く、宴が大好き。高知で育った人たちは、子どものころから大人たちが何かあるたびに宴会をしているのを見て育っているので、人との距離が縮まる宴の場が大好きなんです。そんな高知の風土の中で酒造りができるのは誇らしいことですよね」(井上さん)

個性を活かし、働き方を尊重する酔鯨酒造

酔鯨酒造で働く人々をひと言で表すと、「ピュアな人が多い」と井上さん。

「酔鯨で働く人たちは、純粋で真っすぐな人ばかり。新しく仲間になる方々も、そういう素質を持っているといいなと思いますね。弊社はまだまだ目標に向かってチャレンジしているところなので、一緒にゴールを目指せる人が向いていると思います」(井上さん)

大倉さんもまた、「酔鯨酒造に向いているのは、『自分はこうなりたい』というビジョンを持っている人」と続けます。

「新しいポジションを募集するときは、自分から手を挙げた人を優先する仕組みになっています。なりたい姿がある人には、その人の成長のために、会社としても精一杯応えていくつもりです」(大倉さん)

和気藹々と話す蔵人

酔鯨酒造 長浜蔵の醸造スタッフ

醸造部門は、変形労働時間制(冬場の繁忙期に勤務時間が多くなる代わりに、夏場に休みを多く取る仕組み)を採用し、その他の部門は土日休みで、年112日の休日を確保しています。

一人ひとりが異なるカレンダーに基づいて勤務。早朝から働き始め、午後の明るいうちには仕事が終わるため、海に出かけたり、趣味を謳歌したり、それぞれの時間を楽しんでいる人もいます。

「酔鯨酒造では、社会で多様性が謳われる以前から、個性を尊重し、それぞれのワークライフバランスに合わせて柔軟な働き方のできる環境を用意してきました。女性比率が4割を超えているのも、日本酒業界としては多いほうだと思います。

こんな社風が実現するのは、大倉社長がリーダーとして大きなゴールを示しながらも、細かく『こうしなければいけない』とは言わないから。自分たちで考える自由度があるんです」(井上さん)

「私はワンマンタイプの社長ではなく、『世界の食卓に酔鯨を!』という目標に向かってみんなで一緒に走っていければいいと思っているだけなんです。その目標のために必要だと思ったから、ワークシェアリングや女性の積極採用にも自然と取り組んできました。

日本酒は日本の伝統文化であり、大きな使命感を持って造るもの。一方で、弊社は、ベンチャー気質を持って新しいことにどんどんチャレンジしています。伝統的なものと新しいものの両方を融合させながら、人を幸せにする嗜好品を造れることが、酔鯨酒造の酒造りの魅力ではないでしょうか」(大倉さん)

酔鯨酒造 代表取締役 社長の大倉広邦さん(写真右)と人事課長の井上誉里子さん

酔鯨酒造で働き始めてから、井上さんは、お子さんたちから「お母さん、顔が変わったね」と言われたと微笑みます。

「地方の企業でありながら、いろいろな業界で活躍している外部の方々とご一緒する機会をいただけるので、毎日ワクワクしながら働くことができています。これから酔鯨酒造で働く方にも、自分の仕事に誇りを持って欲しいし、そういう人たちが輝ける職場をつくっていきたいですね。まだまだ成長の途上にある会社ですが、将来、誰もが羨むような企業になれるよう、一緒に頑張ってくれる方をお待ちしています」(井上さん)

一人ひとりの個性を活かし、やりたいことを尊重しながら、酒蔵という同じ船の上に集い、大きなゴールに向かって日々邁進する酔鯨酒造。

「酔鯨」を手に、世界という大海原に向かってともに旅するメンバーを、今、求めています。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)

◎採用情報

醸造スタッフ(長浜蔵・土佐蔵)

  • 業務内容:お酒造りの業務全般(洗米、蒸米、放冷、麹づくり、酒母づくり、仕込み、上槽、器具洗浄、清掃 等)
  • 雇用形態:正社員、契約社員、パート
  • 備考:正社員の場合、学歴は専修学校以上

酒充填ラインスタッフ(長浜蔵)

  • 業務内容:お酒の充填仕上げ作業、検品・ラベル貼り、包装仕上げ作業、器具洗浄・資材準備 等
  • 雇用形態:契約社員

「SUIGEI STORE」販売スタッフ(土佐蔵)

  • 業務内容:自社商品販売、イベント補佐、蔵見学のご案内、スイーツ等の販売・提供
  • 雇用形態:契約社員

営業事務スタッフ(長浜蔵)

  • 業務内容:営業資料の作成、基幹システムへのマスター登録、ECサイトの情報更新作業・お客様からの問い合わせ対応 等
  • 雇用形態:契約社員もしくはパート

◎お問い合わせ

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