「普通」とは、つかみどころのない言葉です。受け手によって、その意味は大きく変わります。

たとえば、普段料理をしない人と一流シェフに「普通のカレーを作ってください」とお願いをしたとします。できあがる2つのカレーは、それぞれが同じ「普通」を目指していても、まったくの別物になるはずです。
そしておそらく、一流シェフの作る「普通のカレー」を、私たちは「とても美味しい」と感じることでしょう。なぜなら、きっと彼らの「普通」は日々の弛まぬ努力によって、高みへと引き上げられているから。「普通」には、その言葉を使う人間の価値観、時には信念まで宿るものです。

日本酒にも「普通酒」「本醸造酒」などの分類があります。これらは、吟醸酒や純米吟醸酒に比べて安く手に入るため、ともすると“気軽に飲めるが質は求めないもの”と捉えられがちです。しかし、普通酒・本醸造酒といったレギュラー酒の品質向上にこそ注力し、驚異的な成長を遂げた酒造メーカーがあります。
それが、新潟県南魚沼市に本社を持つ八海醸造株式会社です。

SAKETIMESが八海醸造の真髄に迫る特別連載、第2回では「八海醸造が醸す普通酒・本醸造酒の魅力」について、ひもといていきます。

日本酒業界のベンチャー、勝負をかけた“安定供給”

八海醸造は「八海山」を主力銘柄としている酒造メーカーです。日本酒に少しでも関心のある方なら、一度は見たことのある名前かと思います。

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「八海山」のメジャーさや流通量の多さから、老舗と思われることの多い八海醸造ですが、実は現在の社長で3代目。他の大手酒造と比較すると“ベンチャー”と言ってもいいくらい若い会社です。創業して50年ほどは経営も厳しかったのだそうですが、八海醸造はそこから破竹の勢いで成長を遂げ、全国にその名を知られるブランドを築き上げていきました。

躍進のターニングポイントとなったのが、2代目から3代目にかけて実施した改革、「高品質な製品の安定供給」です。人材・設備面での投資をともなう挑戦が功を奏して、たった数十年のうちに、生産量を年間300石から3万石と約100倍に拡大させました。これは、日本酒業界でも他に類のない事例です。

普通酒でも、大吟醸造りの品質を目指す

八海醸造が全力を傾けたこと……それこそが普通酒・本醸造酒の品質向上でした。現社長である南雲二郎氏は、日本酒も電気や車と同じように「生活に近いものこそ高品質でなければならない」と考え、“誰もが買える価値”と向き合い続けています。

八海醸造の普通酒・本醸造酒の品質は、その造りの丁寧さによって支えられています。

たとえば、酒造りで“もっとも大切”と言われる「麹づくり」。八海醸造では、目標とする麹をつくるためには機械よりも人間のほうが優れていると考え、どれほど規模が大きくなってもすべて蔵人による手作業で行われます。しかも、蔵の人員の1/3もの人数を割いて。麹づくりをすべて人の手で行うのは大変な作業ですが、それでも「品質本位」の八海醸造において妥協のできない工程です。

pr_hakkaisan_story002_03-1麹づくりの様子

pr_hakkaisan_story002_03「種麹」を蒸米に蒔く蔵人

pr_hakkaisan_story002_04人の手による丁寧な麹づくりが日夜おこなわれる

さらに、「もろみ」の仕込みにも特筆すべき点が。この規模の酒蔵としては異例といっていいほどに、“一度に仕込む量が少ない”のです。しかも、機械での全自動管理ではなく、 櫂入れなどの要所は手作業をしています。“少量・手作業”にすることで繊細な管理が行き届き、「できあがる日本酒の質は格段に上がる」と南雲氏も語っています。

また、普通酒・本醸造酒においても、仕込んだもろみは吟醸や大吟醸の造りで行うような“長期低温発酵”を採用しています。温度を低く保ち、緩やかに発酵させることによって、雑味のない淡麗な味わいに仕上がるそうです。

pr_hakkaisan_story002_05櫂入れを行う蔵人

pr_hakkaisan_story002_06長期低温発酵させるもろみのタンク

一度に仕込む量が少ないため、その分使用するタンクの数は増え、さらにはそれを置くスペースも用意しなければなりません。管理を手作業にすれば、たくさんの技術者が必要になります。仕込みに時間をかければかけるほど、経費もかさみます。普通酒・本醸造酒においても、手間も時間も惜しまず愚直に“質と量”の両方を追求してきたからこそ、「八海山」は日本酒好きの心をつかみ、広く愛される銘柄になり得たのでしょう。

銀座の一流割烹も認めた“八海山の本醸造”の味わい

高い酒質からファンの多い八海山ですが、プロの料理人においてもそれは例外ではありません。

東銀座・昭和通り沿いに店を構える「ぎんざ山路」。「ミシュランガイド東京2016」で一つ星を獲得するほどの一流割烹です。このお店で提供している日本酒は、基本的に「八海山」のみ。その理由を、大将・山路明信さんはこう語ります。

「うちの日本酒はかれこれ20年以上、ほぼ『八海山』一筋です。お客様から希望があれば他のお酒を取ったりもしますが、基本的には『八海山』だけ。中でも、特に本醸造をおすすめしています。『八海山』の本醸造は、料理に合う。料理と酒はどちらかの主張が強すぎてはダメで、お互いを高め合わないといけないのですが、『八海山』は料理と酒どちらもスムーズに味わうことができるんです。冷酒でもお燗でもいけるのも気に入っています。大吟醸や純米も置いてますが、お客さんからも『本醸造がうまい』という声はよく聞きますね」

pr_hakkaisan_story002_07 「ぎんざ山路」店主・山路明信さん

さらに山路さんは「自らの料理のポリシーが、八海山の酒質とよく馴染む」と言葉をつなげます。

「うちのこだわりは四季の旬を大切にすること。そして『ニセモノをつくらない』こと。素材も養殖ではなく、できるだけ天然の“本物”を使います。それをあまりいじらず、ストレートな料理として出す。いい素材は、いじりすぎないほうがいいんですよ。だって、それ自体が美味しいんだから。だから酒も、主張しすぎない淡麗辛口の『八海山』がいい。これを飲んでいれば間違いない……くらいのことは、言っていいんじゃないかと思いますね」

一流の料理人に「うちの店では、私がいる限りこれからもずっと『八海山』だよ」と言わしめるほどの酒質――丁寧で繊細な造りによって醸された八海山醸造の「普通酒・本醸造酒」のポテンシャルは、数多くの飲食店で高く評価されています。

 

いつでもどこでも、手頃な価格で買えるからこその「普通酒・本醸造酒」。しかし、同じ普通酒を名乗っていても、中に込められているものは千差万別です。八海醸造が全霊で研ぎ澄ませてきた“普通”を、あなたの舌はどう感じるでしょうか。今宵一献、あらためて「八海山」の普通酒・本醸造酒を味わってみませんか。

(文/西山武志)

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