大手電機メーカー・シャープとの共同プロジェクト「冬単衣」で、クラウドファンディングを通じて1,800万円もの資金を集めたことでも話題の石井酒造。

新規性の高い企画で注目されることの多い蔵ですが、実は天保11年(1840年)に創業した埼玉の老舗酒蔵なんです。現代表の石井誠さんは8代目。地元・埼玉への思いは強く、一部の銘柄で"オール埼玉産"の酒造りを行っています。

今回は、石井酒造の"埼玉へのこだわり"を特集!契約農家として酒米を栽培している中山農場を取材しました。中山農場では、どのような酒米がつくられているのでしょう。そして、石井酒造が「埼玉地酒」にこだわる理由とは?

「埼玉地酒」を盛り上げたい!石井酒造の思いとは

埼玉県幸手市に蔵を構える石井酒造は「埼玉地酒」を広める活動をしています。

「埼玉県は、日本酒の出荷量が全国トップ5に入る酒どころなんです。ただ、県内では日本酒の認知度があまり高くありません。新潟では県民の8割が地元の日本酒を飲んでいると言われていますが、埼玉では2割以下。埼玉にも良い酒があることを知ってもらって『埼玉地酒』のイメージを確立していきたいんです」

石井酒造8代目 石井誠さん

20代の若さで8代目となった石井誠さんは、地元への思いをそう語ってくれました。そしてその思いを形にしたのが、石井酒造の代表銘柄「豊明」です。12年もの年月をかけて開発され、2004年に誕生した埼玉県初の酒米「さけ武蔵」で醸されています。

「『豊明』はもともと『白目米』という食用米から造っていました。ただ、白目米は栽培が難しく、いよいよ供給が厳しくなってきたので、代わりを探していたんです。そこで見つけたのが『さけ武蔵』。埼玉県オリジナルの品種ならぜひ使いたいと思いました」

「白目米」は江戸時代、もっとも美味い米として徳川家に献上されていた最高級品種。しかし、育成の難しさから栽培に取り組む農家はほとんどなくなってしまいました。そんな「白目米」を石井酒造に提供していたのが、同じ幸手市にある中山農場。「今度は『さけ武蔵』を栽培していただけませんか」と石井さんが声をかけたそうです。

地元の米農家・中山農場との酒米造り

それ以来、中山農場と石井酒造との取引は20年以上も続いているといいます。話を伺った取締役の中山研二さんはもともとアパレルの仕事をしていましたが、10年前に実家である米農家を継ぎました。

「農家で10年目なんて、まだまだ若手です。キャリア50年という先輩も珍しくありませんからね」

中山さんが戻ってきた頃は3品種ほどを栽培していましたが、今では10品種にまで増えました。2~3品種のみを育てる農家が多いなか、この数字はかなり多いのだそう。また、通常は水田に苗を植えますが、乾田に種子を播き、苗立ちした後に水を入れる「乾田直播(かんでんちょくは)」という珍しい農法も取り入れています。

中山農場取締役の中山研二さん

「経験が浅いからこそ、失敗を恐れずにいろいろな手法にチャレンジしていきたい」

そんな中山さん、石井さんから「さけ武蔵」の話を聞いたとき、その場で「やりましょう」と答えたのだとか。酒米を育てた経験はなかったそうですが、躊躇しなかったのでしょうか?

「やったことがなかったから引き受けることができたのかもしれません。酒米は食用米に比べて収穫量が2割ほど少ないんですが、そんなことすら知らないままのスタートでしたからね」

笑いながら、そんなふうに語ってくださった中山さん。

「でも、何よりも石井さんの熱意ですね。"オール埼玉産"という酒造りに共感しましたし、頼ってもらえるのならできることはやってみようと思いました」

石井酒造8代目の石井誠さんと、中山農場取締役の中山研二さん

幸手の「さけ武蔵」を通じて、幸せを届けたい

取材に伺ったのは8月下旬。色づいている稲穂を前に今年の「さけ武蔵」の出来を聞いてみると「この夏は長雨だったので、やや日照不足気味です。予断を許さない状況ですね」とのこと。

酒米「さけ武蔵」の穂

「酒米栽培の経験が浅いこともあって、まだまだ苦戦しています。自分が未熟なので、どうしたら心白が充実した米になるか勉強中です。ただ、作り手としてのやり甲斐は大きいです。埼玉県オリジナルの品種を広めて、地元に貢献していきたいという思いは強いですね」

「さけ武蔵」は、コシヒカリなどの食用米と同等の肥料を与えても、収穫量が3割ほど少ないのだそう。また米の粒が大きいため、稲が実ってくると頭が重くなりがちで、台風などで倒れてしまう心配があります。収穫前に倒伏して水に浸かってしまうと発芽する恐れがあり、そうなると商品価値がなくなってしまうので、栽培には細心の注意が必要です。

それでも中山農場では、酒米の育成を「乾田直播での栽培米」「農薬や化学肥料を抑えた特別栽培米」に続く3本目の要とし、大切に育てていきたいということでした。

「幸手市は、"幸せを手にする"と書きます。米や、米を使ったお酒を通じて、人を幸せにしていきたいですね。『さけ武蔵を使ったあのお酒が飲みたい』と指名されるようなものになればと願っています」

これからも、埼玉に根を張った酒造として

中山農場は、石井酒造との契約に基づき栽培を行なっています。契約栽培とは、あらかじめ価格や量を取り決めしておくこと。JAなどから自由に購入することもできますが、あえて契約栽培という形をとっているのはどうしてなのでしょうか?

「作り手の顔が見えるから、というのが一番大きいでしょうか。どこの誰が作ったのかわからない米ではなく、よく知っている中山さんの米なら安心して買うことができますし、いっしょにお酒を造っているという気持ちになることができます。同時に、酒造りの中にも緊張感が生まれますね。米の栽培はたいへんな作業の連続なので、苦労してつくっていただいたものをより良いお酒に昇華させなくては、という責任感が芽生えるんです。これも、作り手の顔が見えるからこそかもしれません」

石井酒造8代目の石井誠さんと、中山農場取締役の中山研二さん

2014年に「白目米」から「さけ武蔵」に切り替えて以来、「豊明」の売上は順調に伸びているそうです。「豊明」の持ち味である深いコクは、洋食や中華などの濃い料理にも負けない味わいで人気。ただ、埼玉独自の酒米である「さけ武蔵」の認知度はまだまだ高くないのが現状。埼玉ブランドのひとつとして、米自体の認知度を上げていくことも今後の課題です。

「ゆくゆくは『さけ武蔵』で出品酒を造ることも考えています。埼玉県にとって、日本酒は大切な観光資源なんです。"オール埼玉産"の取り組みはこれからも続けていきますよ」

酒造りはもちろん、農家との取り組みにも注力している石井酒造。地元・埼玉で、次はどんなアクションを起こすのでしょうか。今後も注目です。

(取材・文/藪内久美子)

sponsored by 石井酒造株式会社

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