健康効果が高いと言われ、老若男女に人気の甘酒。雪の降る寒い日に、ちょっと生姜を効かせて飲むようなイメージが強いですが、実は夏の季語でもあるんです。

酒粕と麹、材料によって異なるふたつの甘酒

そもそも、甘酒とは何でしょうか?

「酒」という文字が入っていますが、甘い日本酒のことではありません。甘酒は酒粕や米麹からつくられた飲み物で、美味しいのはもちろん、ビタミンなどの栄養素がたっぷりと含まれています。

最近では、スーパーやコンビニなどでも気軽に買うことができるようになりました。家庭でお酒を造ることは法律で禁止されていますが、甘酒なら誰でも簡単につくることができます。

甘酒

甘酒を大きく分けると「酒粕甘酒」と「麹甘酒」の2種類。どちらも、日本酒造りと深い関係があります。

お酒を搾った粕のその端切れを集めたバラ粕、清

「酒粕甘酒」は、酒粕を湯で溶いて砂糖で甘味を加えたもの。大晦日や正月に振る舞われるのは、この「酒粕甘酒」が多いようです。

酒粕とは、発酵中の醪(もろみ)を濾して搾った後に残る固形物のこと。日本酒は米から造られるので、酒粕の主成分も米に由来します。発酵の過程で米のデンプンは糖に変わっていきますが、発酵中の醪に含まれる酵母菌や繊維質が固体として残るのです。酒粕の中にはアルコールが残っているので、口に入れると日本酒の味がしますが、そのままでは渋くてあまり美味しいものではありません。

醪を袋に詰める作業風景

「酒粕甘酒」の材料には白い酒粕を使います。酒粕にもいくつかの種類があり、長方形に切り取られた"板粕"、その端切れを集めた"バラ粕"、清酒などを添加してペースト状にした"練粕"など、色の白い粕が甘酒造りに向いているのです。一方で、これらをタンクで熟成させた茶色い"押粕"は熟成の香りが強く、甘酒よりも粕漬けに適しています。

市販されている酒粕のパッケージ

今回は練粕を100g用意しました。これで、およそ2人分の「酒粕甘酒」をつくることができます。

練り粕をお湯で溶かす様子

雪平鍋などに酒粕を入れ、少量の水で溶きながら加熱します。酒粕が溶けてきたら、さらに水を加えましょう。水の総量は酒粕の3~4倍が目安です。

酒粕甘酒の調理途中

沸騰しても、しばらくの間は加熱し続けます。これは、酒粕に含まれているアルコール分を飛ばすため。焦げ付かないように混ぜながら、5~10分沸騰させます。

酒粕甘酒に砂糖を加える

温まったら砂糖を加えましょう。酒粕自体には甘味がないため、砂糖で好みの甘さに調節する必要があります。温かいままでも冷やしても、美味しくいただくことができますよ。生姜を入れても美味しいですね。加熱することでアルコールを飛ばしていますが、それでもいくらか残ってしまいますので、お酒の弱い人は気を付けてください。

酒粕甘酒に日本酒を加えてにごり酒風に

「酒粕甘酒」に日本酒を加えるのもおすすめです。これで、醪そのものを再現したような飲み物になります。にごり酒のようなイメージです。

麹を使った甘酒は、酒造りの基本

「麹甘酒」は「酒粕甘酒」よりも造るのが難しいですが、砂糖を加えない自然の甘味が特徴で、ビタミンや食物繊維などの栄養素も豊富です。材料は、日本酒造りには欠かせない米麹。今回は、炊飯器を使った簡単レシピを紹介します。

米麹

米麹を購入するなら、スーパーへ。漬物コーナーの近くに、板状になったものや袋にまとめられた麹が売られています。米粒の表面についているのはコウジカビの菌糸。このコウジカビが強い繁殖力・糖化力をもっていればいるほど、たくさんの糸が張り巡らされるのです。

麹に含まれるアミラーゼという酵素の作用で、米のデンプンが糖に変わります。米を蒸したり炊いたりして軟らかくすることで酵素の働きが活発になり、さらに糖化が進むのです。それではさっそく「麹甘酒」をつくっていきましょう。

米麹にお湯を加える様子

炊飯器の釜に麹を入れます。麹は1~2合分くらいが良いでしょう。

湯を沸かして、その3倍量くらいの水で割ったぬるま湯を用意しておきます。湯の温度は55℃くらいがベスト。温度が高すぎると、酵素が失活してしまうのです。麹2合に対して3合の目盛まで、麹がひたひたになるくらいのぬるま湯を入れます。

米麹とお湯を入れた炊飯器で保温

炊飯器のスイッチを入れますが、ここで注意すべきは"炊かない"ということ。55℃をキープしたいので、炊飯モードではなく、保温モードで加熱します。この時、炊飯器の蓋を閉じる代わりに、水分の蒸発を防ぐための濡れ布巾を釜の上にかけておくのがポイント。

米麹とお湯を入れた炊飯器で保温

あとは、12時間ほど保温し続ければできあがり。3時間に1回を目安に中身をかき混ぜて、鍋底が焦げ付いていないかチェックしてみましょう。粒感が気になる場合は、完成後にミキサーで少し混ぜてあげるとなめらかになります。砂糖を一切加えていませんが「米って、こんなに甘くなるんだ!」と驚いてしまうほど、とても甘いです。

日本酒造りでも、同じような工程があります。甘酒をつくって、その糖分を酵母に与えることでアルコール発酵が進み、日本酒のもととなる酒母や醪ができあがるのです。

つまり、"日本酒の基本は甘酒にある"といえるかもしれません。蔵見学やイベントに来ていただいたお客さんに振る舞う甘酒づくりを、若手蔵人の仕事として杜氏が命じることもあります。麹の扱いや衛生管理に慣れるためのちょうど良い教材なんですね。

夏にこそ飲みたい甘酒

完成した甘酒をすぐに飲んでも美味しいのですが、これからの季節は冷やして飲むのがおすすめ。たくさんつくって、飲み終わった日本酒の瓶などに入れておくと、ちょうど良いかもしれませんね。量にもよりますが、2日を目安に飲みきってしまうのが良いと思います。また、寒天やゼラチンを混ぜて、甘酒ゼリーにするのも夏らしいです。冷やしていく過程で甘味が少し薄れてしまいますが、休憩時間のおやつにもぴったり。

グラスに注がれた甘酒

甘酒が夏に好まれるのは、その甘味と栄養に理由があります。特に「麹甘酒」には、人間の必須アミノ酸がすべて含まれているほか、ビタミンB群が豊富であることも認められています。"飲む点滴"といわれる所以ですね。

海釣りの風景

実際、蔵人たちも暑い日に外仕事をした後には、冷蔵庫に置いてある甘酒を飲んでいます。また、二日酔い対策にもピッタリで、たくさん飲んだ翌朝に、手軽な栄養補給源として重宝するんですよ。

熱中症などにかかってしまわないためには、ほどよく糖分を摂ることが大事です。美味しい甘酒を飲んで、夏を楽しみましょう!

(文/リンゴの魔術師)

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