飲食店のメニューや黒板に書かれたさまざまな種類の日本酒。初めて見る銘柄や話題の酒蔵のお酒、慣れ親しんだ地酒など、いろいろ試したくなってしまいます。

ですが、飲みすぎには要注意です。ついつい飲みすぎてしまうと、翌朝にツラい二日酔いが待っています。

酒蔵で働いていると、自社製品の品質チェックだったり、他社製品の調査だったり、蔵人との顔合わせや杜氏や親方の晩酌に付き合ったりだったりと、日本酒を飲む機会が本当に多いのですが、そんななかで、現役蔵人としての二日酔い対策を編み出しました。今回はそのいくつかを紹介します。

呑む前に「栄養ドリンク」を飲むのが吉!

酒を飲む前に、ウコン入りのドリンクや肝機能を助けるドリンクを飲む人も多いでしょう。コンビニや駅の売店で買ってから居酒屋に向かうこと、よくあると思います。

しかし、蔵の中や自宅に常備してあるものではないので、買いに行く時間がないときは少し心配です。

そんなときに代わりによく飲むのが、栄養ドリンクです。タウリンが肝機能を助けてくれるという話もありますが、私は単純にビタミンなどの栄養を補給して、全体的な代謝が高まることを期待しています。午後の仕事が一段落した時や、酒を飲み始める1時間くらい前に飲んでおくと良いですよ。

「和らぎ水」はお酒と同じ量を飲む!

日本酒の業界には「和らぎ水」という言葉があります。これは日本酒を飲む時に一緒に飲む水のこと、いわゆる「チェイサー」を指しています。

多くの日本酒はアルコール度数が15度程度で、ウイスキーなどのハードリカーに比べれば度数は低いです。ですが、それでも血中アルコール濃度を急速に上昇させ、特に肝臓への負担を高めます。それらを和らげるために、合間に水を飲みながら、酔いが回るスピードを遅らせるのです。飲んだ日本酒の量に対して、同等かそれ以上の「和らぎ水」を飲むと良いでしょう。

杜氏や蔵人と酒を飲む際には「汲水歩合(くみみずぶあい)多めで!」「今日は早めに追い水(おいみず)打っとくか」「アルコール12%まで割水(わりみず)するかなぁ」などと、酒造用語を交えながら、和らぎ水やソフトドリンクを注文することもあります。

試飲会などのイベントでは、実際の酒造りに使われている仕込み水が提供されることもあります。日本酒そのものはもちろんですが、仕込み水にも蔵の個性が出るんですよ。

「果物」の果糖と酵素が二日酔いに効く!

飲みながらでも、飲んだ後でも、二日酔い対策に有効なのが「果物」です。

酒を飲んだ後は脱水状態になりやすいため、水を飲むことが多いと思いますが、水だけではなく酵素や糖をしっかりと摂取することも必要です。

体内に取り込まれたアルコール(エタノール)を分解するのは、肝臓がつくり出す酵素。アルコール脱水素酵素(ADH)とミクロソームエタノール酸化系(MEOS)が、アルコールをアセトアルデヒドに分解します。

アセトアルデヒドはそのまま体内に残ると有毒なので、アルデヒド脱水素酵素によって、最終的に毒性の少ない酢酸として体外に排出されます。この脱水素酵素の強弱が、いわゆる「酒が強い・弱い」という話に関わっているようですが、身体に負担をかけないために、この反応を助けてあげる必要があるのです。

果物に含まれるフルクトースなどの糖類は肝臓で代謝され、生物がエネルギーとして使えるグルコースなどに変化します。つまり、肝臓で行われるアルコールやアセトアルデヒドの分解に多くのエネルギーを割けるようになるのです。ビタミンなどの力も借りられるため、アルコールを分解するには果物がうってつけなんです。

麹で造った「甘酒」で迎え酒!

私が普段造っているものも、実は二日酔いに有効でした。それは「甘酒」。迎え酒ならぬ、迎え甘酒です。

二日酔いの朝は食欲がなく、身体に負担がかかっていてかなりダルいもの。そんななかで栄養を補給できるのが、麹で造った甘酒です。電子レンジなどで少し温めると、飲みやすくなります。

"飲む点滴"とも言われる甘酒は、ブドウ糖をはじめとする単糖や二糖類が多く含まれているほか、アラニンやロイシンなどのアミノ酸、ビタミンB類も豊富です。ご飯よりも消化しやすいため、前夜に食べたものの消化やアルコールの分解に追われる内臓に負担をかけません。

注意点は、「麹で造った甘酒」であること。酒粕を使った甘酒は、酒粕そのものにアルコール分が残っていたり、栄養となる成分も異なるため、二日酔い対策への効果は薄いようです。

私が実際に行っている二日酔い対策をご紹介しましたが、なにより一番大事なのは、飲みすぎないように酒量をセーブすることです。

おいしい日本酒はついつい飲みすぎてしまいますが、たくさん飲めたからといって偉いということは決してありません。適量を楽しく飲んでくれたら、蔵人としてもうれしい気持ちになります。身体を大事にいたわりながら、お酒を楽しんでください。

(文:リンゴの魔術師/編集:SAKETIMES)

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