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蔵元や飲食店店主の想いに触れる!お酒が飲みたくなる3冊〜酒蔵・居酒屋が舞台の作品編〜

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酒蔵や日本酒を扱う居酒屋が舞台の3冊をオススメします。ふだん飲んでいる日本酒が、造り手やお店で提供する方から見るとどのように描かれるのか。新鮮な視点をもたらしてくれる作品を集めてみました。

舞台は越後の酒蔵!宮尾登美子『蔵』

まず初めにご紹介するのは、宮尾登美子の『蔵』

テレビドラマや映画、舞台にもなった本作は表題の通り、日本酒を醸す酒蔵が舞台。蔵の当主・意造と妻・賀穂は子どもに恵まれず、やっとの思いで生まれた娘・烈は、美しいながらも目を患い、盲目の跡取りとして人生を歩み始めました。この作品では、そんな彼女の壮絶な運命が描かれています。

上下巻に渡って、視力を失った少女の人生を追いながら、ストーリーが展開されていきますが、舞台が越後の銘酒「冬麗」を醸す酒蔵であることから、作品のあらゆる箇所に酒造りの描写が織り込まれています。

日本酒造りが始まるころ、烈の祖父・三佐衛門が杜氏と酒造りについて語らう場面があります。

三佐衛門が「我が家はまもなく大学の工学部出た息子が帰ってくるがんでのう。酒造りももっと科学的にやったら、と思うているが」と、問いかけると、杜氏はこう答えます。

「蔵のなかに字はいりまへん。本を見もって造る酒やなんて、旦那、売りもんにはならしまへんがな。酒造りは体、体、体におぼえささんならん」

大正から昭和初期において、酒造りの現場では科学的な知識よりも、長年の伝統と体に染みついた技術が大事にされていたことがよくわかるシーンですね。描かれているのは、現代とはやや異なる「酒造りの現場」ですが、この時代があったからこそ現代の酒造りがあることを強く実感できる作品です。

高倉健の主演で映画化も!山口瞳『居酒屋兆治』

次にご紹介するのは『居酒屋兆治』。モツ焼き屋を営む兆治と、その周辺の人間模様が描かれた作品。こちらも映画化されており、広く知られています。

この作品で登場するのは、そう高い日本酒ではありません。モツに合うような、決して高価ではない日本酒の美味しさが描写されています。ストーリーは淡々と進みますが、香りや音まで想像できる文章の美しさがあり、昭和の安くて美味い居酒屋の様子がしっかりと描かれているという点でオススメです。

高倉健の主演で作られた映画も原作のもつ”ほの暗さ”に加えて、さらにストーリーが強く感じられるため、ぜひ合わせてご覧ください。

こんな酒場があったらいいなぁ!秋川滝美『居酒屋ぼったくり』

最後にご紹介するのは『居酒屋ぼったくり』

「旨い酒と旨い料理、そして正直な商い。居酒屋にとって必要なのはそれだけだ。他はあとからついてくる」を信条に、父が始めた「居酒屋ぼったくり」を継いだ娘・美音の様子が描かれています。

寒い雨の降る日、ひとりの男性が店を訪れる場面。体の芯まで冷え切り疲れていた彼に、店主の美音は燗酒を出します。安い燗酒は後に残るからと少し迷った男ですが、その燗酒の美味しさに驚きます。

男は、今度は酒だけを口に含む。
「この酒も……旨いな。なんていう酒?」
「𠮷乃川の厳選辛口です」
「それって……」
(中略)新潟の酒特有のすっきりとした辛口で、良くも悪くも万人向け。旨い酒には違いなかったが、他を凌駕するほどではないと思っていた。その厳選辛口が燗にするとこんなに印象を変えるなんて知らなかった。(中略)あっけにとられている男を面白がるように女店主は説明を続けた。
「はい、数ある𠮷乃川の中では庶民派代表みたいなお酒ですが、お燗にするならピカイチです。燗で飲むなら、同じ𠮷乃川の特別純米ですら、これには敵わないと言われるほどです。」
「燗上がりってこういうことを言うのか……ものすごく納得した」

日本酒がお好きな方なら、こういった経験をした方も多いでしょう。先の男は、この燗上がりの経験と「居酒屋ぼったくり」について、次のように振り返っています。

『ぼったくり』なんて恐ろし気な店名のくせに、採算すれすれじゃないかと思うような食材を使っている。あくまでも客の舌を満足させることに主眼を置いている店らしい。(中略)方向違いのプライドで、吟醸酒といわれる酒を乱暴に燗にして出す店もあるのに、あの女店主は、一升二千円を切るような安い酒をゆっくり温めて香りを立たせ、冷えた体に心地よい温度で差し出した。猪口に注いだときに下がる温度まで計算してあるようだった。

こういうお店に出会えると、いつもの何倍も帰路が幸せになる。そんなお店の様子が生き生きと描かれています。

また、この作品には、作中に登場した日本酒や料理について画像付きで紹介するページが設けられています。「飲みたい!」と思った日本酒をさらに詳しく知ることができるのはうれしいですよね!

造り手やお酒を提供する人の視点で物語を読むことで、酒蔵やお店が取り組んでいる、美味しく飲んでもらうための濃やかな工夫を改めて知ることができます。手間や思いがかけられたものだからこそ、美味しく楽しく飲みたい!とさらに思えますよね。ぜひこの機会に、本を開いてみてください。

<参考文献>
宮尾登美子『蔵』上下巻ともに1998年 / 角川文庫
山口瞳『居酒屋兆治』2015年 / 小学館
秋川滝美『居酒屋ぼったくり』2014年 / アルファポリス

(文/梅山紗季)

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梅山紗季

大学で文学を専攻しています。イベントやライブのレポートを書いていたため、日本酒×文学をはじめ、映画、音楽、落語、美術など文化的な要素と日本酒を見る記事を発信したいと思ってます。次の一杯をさらに美味しくする、読む方に寄り添う記事を目指しています。よろしくお願いします!