日本国内でもっとも歴史のある日本酒品評会「平成29酒造年度 全国新酒鑑評会」の結果が、先日発表されました。今年の出品酒には、どのような傾向があったのでしょうか。5月下旬に開催された、今年の全国新酒鑑評会に出品された全850本の酒が関係者向けに公開される「製造技術研究会」に潜入し、2018年のトレンドを探りました。

6年連続で金賞受賞数トップを記録した福島県

今年、金賞の受賞数がもっとも多かったのは、福島県と兵庫県。それぞれ、19もの金賞を獲得しました。福島県の金賞受賞1位はこれで6年連続。これは、全国新酒鑑評会が始まって以来の大記録です。蔵元や杜氏、蔵人はもちろん、福島県ハイテクプラザをはじめとする研究機関の努力が実っています。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の出品酒

同じく1位となった兵庫県は、安定した酒造りをする大手蔵を中心に数を伸ばしました。新潟県や長野県の入賞数も多く、秋田県や山形県も健闘しています。

全国の酒造関係者が集う情報交換の場

全国新酒鑑評会の審査と製造技術研究会が開かれるのは、広島県東広島市。酒類総合研究所があり、酒蔵の煙突が並ぶ町です。前日には酒類総合研究所の講演が開催され、"酒都"が酒造関係者でにぎわいます。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の行われた東広島市の風景

この日に合わせて遠方から前日入りする関係者も多く、東広島市や広島市の町中では、各所で懇親会が行われます。1年間の苦労をお互いに振り返り、情報交換をしながら、広島の美味しいお酒で乾杯。この"前日鑑評会"をがんばりすぎると、当日疲れてしまうので要注意です。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の参加者の行列

朝8時の段階で、会場のまわりには大行列ができていました。二日酔いの眠い目をこすりながら、入場待ちの列に向かいます。並んでいるのは、日本酒の製造に携わる蔵元・杜氏・技術者・試験場や大学の先生など。およそ1,000人ほどが並んでいます。早い人は6時台から並んでいるのだそう。

久しぶりに会う方々との情報交換も欠かせません。今年は全国的に寒い冬だったようで、豪雪や異常低温で悩まされた地域があったようです。水道やボイラーの管が凍結破損したり、例年よりも硬い米に対応したり、仕込み温度の調整に難儀したり......いろいろな話があちこちから聞こえてきます。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の様子

会場内は集まった人たちの熱気で蒸すような暑さ。予定よりも早く開場するやいなや、早くも東北地方のブースに大行列ができました。一番人気は福島県ですが、世界的なワインコンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」SAKE部門の開催地になった山形県のブースも注目度が高いです。行列に並んでから実際にきき酒をするまで、30分以上待ちました。

2018年のトレンドは、"華やかでライト"

個別に配布されるプラスチックのカップに、スポイトで3mlほどを採ってきき酒をします。香りや味の良い点・悪い点を数秒で判断します。味がわからなくなってしまいますので、飲み込むことはしません。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の出品酒

香りを嗅ぎ、口に含んで香味を判断し、酒を吐器に出したら、キレ味や後味を感じながら短評をメモします。1日で200~500点をきき酒し、全体の傾向や各蔵の技術を感じて、自分の酒造りにフィードバックするのです。きき酒にもスタミナが必要なんですね。

福島県勢は、安定した酒質のなかに蔵ごとの個性が出ています。山形県は軽やかな酒が多く、フレッシュさを感じるものもありました。時間が経つにつれて、兵庫県をはじめとする関西勢の行列が長くなっていきます。同時に、新潟県や中国地方の列も長くなりました。兵庫県や京都府は大手蔵を中心に、甘味と吟醸香がしっかりしている、王道の出品酒と呼べるような酒がメインです。

きき酒をしてみると、華やかなカプロン酸エチルが主体となる1801系やM310系の酵母が多数でした。しかし、エリアによっては、酢酸イソアミル系でライトな酒に挑戦したり、酵母をブレンドして酒母を造ったりしている蔵が増えたような印象です。

酒母造りのトレンドは、酵母を混ぜて、香りをより複雑にすること。酵母のブレンドは菌の増え方に特徴があります。一方が増えすぎると、他方が極端に少なくなってしまったり、酒母の湧き方をコントロールしにくくなったりするのです。香味のバランスを見定めるのは至難の業ですが、上手な蔵はそれでも良い酒を造っています。

酒質の軽い出品酒の入賞率が高いようですが、金賞を獲得するには、ある程度の香りが必要です。極端なクセのある酒は以前よりもグッと減り、ハイレベルな闘いです。

日本酒の火入れの様子

フレッシュ感を保つための貯蔵管理はどの蔵でもしっかり行なわれているようで、鑑評会までの間に味が落ちてしまった酒も少なかったと思います。日本酒がフレッシュな状態で店頭に並ぶのが当たり前になりつつあるなか、酒蔵は鮮度を落とさない工夫を考え続けなければならないでしょう。

同じ銘柄が並んでいるのはなぜ?

出品酒を見てみると、同じ銘柄が複数並んでいる場合があります。全国新酒鑑評会では、ひとつの酒蔵につき、選びぬかれた1本しか出品することができません。小さな蔵も大きな蔵も、最高の1本を出します。実際に醸造をしている酒造場がそれぞれ1本ずつの出品資格をもっているため、瓶詰め作業のみを行なっている工場などからは出品できません。

平成29酒造年度全国新酒鑑評会の金賞受賞酒

同じ銘柄が複数並んでいるケースは、その銘柄を造る工場が複数あるということ。大手の酒蔵になると、同じ銘柄が3本以上並ぶこともあります。異なる工場で金賞が獲れるということは、会社全体で高い醸造技術をもっていることの証です。

探している銘柄が見当たらないこともあります。蔵の方針で、鑑評会に出品していない場合ですね。出品資格があっても、本醸造酒や熟成酒のみに注力していたり、「お客さんに美味しいと言ってもらうのが一番」という思いが強かったり......さまざまな理由があります。

出品酒を楽しんでみよう!

金賞を獲った酒蔵が「金賞受賞!」などのキャッチコピーや首かけをつけて、受賞酒を販売し始めるころになりました。しかし、すべての金賞受賞酒を手に入れるのはなかなか難しいもの。6月16日(土)に、東京・池袋サンシャインシティで開催される「日本酒フェア2018」では、全国新酒鑑評会の入賞酒と金賞受賞酒が一堂に会し、そのすべてをきき酒することができます。

製造関係者のほかに酒販店や飲食店の関係者も来場しますが、もちろん一般の方でも入れます。きき酒の勉強として、日本酒選びの参考として、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

(文/リンゴの魔術師)

◎イベント情報

  • イベント名:日本酒フェア2018
  • 期日:2018年6月16日(土)
  • 会場:池袋サンシャインシティ
  • 時間:
    「平成29酒造年度全国新酒鑑評会 公開きき酒会」
    第1部 10:00~13:00 (入場は12:00まで)
    第2部 15:30~18:30 (入場は18:00まで)
    「第12回全国日本酒フェア」
    第1部 10:00~14:00 (入場は13:30まで)
    第2部 15:30~19:00 (入場は18:30まで)
    ※ 完全入れ替え制
  • 入場料:
    「日本酒フェア2018」両イベント共通券
    前売り券:3,500円 (オリジナルお猪口・冊子付き)
    当日券 :4,000円 (オリジナルお猪口・冊子付き)
    「第12回全国日本酒フェア」のみ参加の場合
    1,500円 (当日券のみ)

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