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現役蔵人が教える"酒造りの道具" 〜何に使うのでしょう?〜 <その2>

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酒造りには様々な道具が使用されます。

形や名前が独特であることが多く、さらに同じ道具でも、地域や杜氏流派によって呼称が違ってくるのも興味深いところ。さらに方言も関係しているので、北海道出身の私が秋田の酒蔵で働きはじめたころは苦労の連続でした。

「タンクかしげるのさバンコでねぐドンコロコかえへぇ!」
「へぐサシ持って来い!」

さぁ、私は何をすべきなのでしょう?

ヨクタガリ(用途:麹をならす)

野球グラウンドで使うトンボのような道具で、麹をならすために使います。

製麴は麹の温度が重要で、約30度の麹を42~45度に何時間で推移させるか、というところが作業の肝。麹菌がじゅうぶんに繁殖していない場合は、温度を保つために麹を寄せ集め、表面積を小さくする。その後、麹菌の繁殖とともに麹をならし、表面積を大きくして温度が上がりすぎないようにします。盛方(麹を床から別の場所に移す作業)の最中はできるだけ早く・厚く・なだらかに麹をならす必要があるので、「ヨクタガリ」を使用します。

リーチが長いため、たくさんの麹を手前に引き寄せることができます。すべての麹を盛った後は手作業で、もしくは板を使って丁寧にならしていきます。

この「ヨクタガリ」という言葉は、秋田など東北の方言で「欲張り」という意味だそう。

ドンコロコ(用途:タンクを傾ける)

タンクを傾けるための脚にする木を「ドンコロコ」と呼んでいます。主に酒や水を、タンクから完全に出す際に使用します。

タンクが沓石(くついし)の上に乗っている場合はジャッキを使いますが、大きくないタンクの場合は「ドンコロコ」を使った方が効率的でしょう。

この呼称も方言に由来しており、きちんとした酒造用語ではありません。他にも薄い板が「バンコ」と呼ばれていたり、金具の位置合わせに使う木を「バカ棒」と呼んだり、由来があやふやなものは多くあります。

ハキ(用途:酒を吐き入れる)

「ハキ」とは「吐き」のこと。唎き酒をするときに、酒を飲み込まないために吐き入れる容器です。全部飲んで、酔っ払ってしまうことを防ぐために使用します。

綺麗に吐くのがスマートな唎き酒のコツ、なんて言われることもありますね。

一方、蔵の中で「ハキ持って来い!」と言われたときに求められているのは、容器としての「ハキ」ではありません。この場合はホウキのことを指しています。

違う道具なのに、呼称は同じ。状況によって持ってくるものは違ってきます。

検尺棒(サシ)(用途:タンク内の液体量を計る)

タンク内の液体の量をはかるためのものです。正しくは検尺棒というようですが、「サシ」と呼ばれます。

タンク内の酒に突っ込んで、その水面とタンクの天井の距離を測定するために使用します。そのためには、あらかじめ何ミリメートルが何リットルに相当するのかを把握しておく必要があります。

タンクの容積は、水を満杯まで入れて流量計で検定します。
そして、何リットル払い出したら、何センチ水面が下降したかをタンク毎に計測。私の蔵ではさらに、2ミリメートルあたり何リットルかを算出し、2ミリ表というものにまとめています。

酒が満水面から何ミリメートルの位置にあるのかを「サシ」によって測定することで、内容量を調べることができるのです。

「ものさし」みたいだから「サシ」と呼ばれているようですが、ややこしいことに「サシ」と「ものさし」を併用する場合があります。開放タンクを使う場合などに、中央部分で「サシ」を当てるために「ものさし」を使うのです。ものさしは「定規」と呼ばれますが、見た目は「ドンコロコ」のような角棒。酒造りの道具は難しいですね。

このように、道具の名前は実に様々。酒造期間がそろそろ終わるので、片付けに入ります。秋に何がどこにあるかわかりやすいように、道具は整理整頓しましょう。箱に道具の名前も書いておけばバッチリですね。

※今回ご紹介した酒造りの道具は、蔵によって呼称が異なることもあります。

(文/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。