「日本酒造りは力仕事」というイメージをもっている人は少なくないでしょう。

今回は、酒蔵の蔵人たちが運んでいるモノが実際にどのくらいの重さなのか、計測します。

米袋

酒米が積まれている写真

まずは、日本酒の主原料である米が入った米袋。米の基準単位である「一俵」は60kgなので「半俵」は30kgです。抱えたり、肩に担いだりして運びます。昔の蔵人は一俵の米を楽々と運べたようなので、半俵も運べない人はタイムスリップできませんね。

P箱

P箱の写真

米袋の次に蔵人がよく運ぶものといえば、酒瓶でしょう。一升瓶の内容量は1.8リットル。瓶を入れるプラスチックのケースは「清酒専用通箱」という名前がついていますが、一般的には「P箱」と呼ばれています。6本入る「6P」と、8本入る「8P」の2種類が主流のサイズです。

さて、8Pに一升瓶を入れてみると......

P箱(緑)の写真

約24.8kg!かなり重いですね。このP箱を何段も積み上げる作業は本当に大変です。高く積み上げる場合、人力のみでは限界があるので、フォークリフトや電動アームを使用することもあります。これなら、腰を痛める心配はありません。

P箱が流通したのは昭和48年からだそうで、それ以前は一升瓶が10本入る木箱が使われていました。

木箱の写真

これがまた重い。計量してみると、31.5kgもありました。

とても重い上に、木片が手に刺さったり洗いにくかったりするため、少しずつP箱に取って代わられていきました。焼印で押された酒蔵名がレトロで良いのですが、今ではほとんど使われていません。

タメシ桶

タメシ桶の写真

酒蔵では、バケツの代わりに「タメシ桶」という取手のある桶が使われています。ステンレスやプラスチック製が主流で、水や酒を運ぶときに使用します。容器の重さは2.5kgです。

容量はおよそ一斗(18リットル)といわれていますが、水を入れると何kgになるのでしょうか。

タメシ桶を量っているところの写真

内側の線まで水を入れると、約19kg。これも重いですね。

全体の8割くらいまで水を注ぐと、なんと27kgにもなります。手から下げて運ぶにはかなり重いです。台車を使って運びたいところですが、熟練の蔵人は階段の多い酒蔵のなかをすいすいと運びます。

タメシ桶を担ぐイラスト

右手で取手を、左手で底を持ち、脚と体幹を使って一気に持ち上げるのがポイントです。そのまま、左手を寄せるようにして肩にタメシ桶を乗せます。右手は右耳をかすめるように後ろへ回します。蔵人感のある運び方ですね。

暖気樽

元気な酵母を育てるには、酒のもととなる酒母の温度管理が必要不可欠。温度が高すぎても、低すぎてもダメなんです。

管理の方法は酒蔵によってさまざまですが、暖気樽(だきだる)という湯の入ったアルマイトやステンレス製の水筒を直接入れて、その熱でじんわりと温める方法があります。この暖気樽が、なかなか重いんです。

暖気樽の写真

空の状態で約5kg。湯を入れてみると、30kgを越えます。

これを酒母タンクの中に入れたり、タンク中の暖気樽を掴み上げながら酒母をかき混ぜたり、タンクから出して中身を氷に入れ替えたりと、酒母造りは相当な力仕事です。

ポイントは、身体全体を使うこと

酒蔵の仕事は腰への負担が大きいもの。湿布を貼ったり、コルセットを巻いたりしている人もいます。そのなかで、先輩の蔵人から代々教わる、腰を悪くしないようなコツがあります。

それは、身体全体を使ってモノを持ち上げるようにすること。足先、ふくらはぎ、太腿と順々に力を入れ、体幹を使うように意識します。

持ち上げ方のコツイラスト

特にP箱を運ぶときには、蔵人ならではの前掛けやズボンのベルトが活躍します。前掛けの結び目に箱を引っ掛けるようにすると、腕だけでなく下半身も使って運べるのです。

軽さを求めて......

一升瓶の写真

酒瓶の重さは、トラックや飛行機で輸送する際に大きなコストとなって現れます。同じ1,000リットルの酒を運ぶとしても、容器が重いと全体の重量が増すため、そのぶん輸送コストも増加します。

最近、ある運送会社がクール便で15kg以上の荷物は受け入れないという通達を出しました。一升瓶6本をP箱に入れると、18.6kg。5本でも15.8kgなので、段ボールに入れ替えてようやく制限をクリアできます。

P箱で出荷していた酒を段ボールに入れ直したり、60本送るときに10個口で済んでいたのが12個口になったりと、ちょっとした手間がかかるようになってしまいました。

しかしそれは、これまで配送業者に大きな負担がかかっていたということでもあります。大手の酒造メーカーを中心に、紙パックや缶容器が開発されている背景には、"重さ"の改善という観点もあるでしょう。もちろん、従来の瓶も少しずつ軽量化されてきています。

今回は、酒蔵で使用されているモノの重さを量ってみました。蔵人の力持ちっぷりがわかっていただけたでしょう。酒蔵見学に行った際には、蔵人の方々にお願いして、気になる道具をちょっと持たせてもらうのも良い体験になるかもしれません。

(文/リンゴの魔術師)

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