酒造りの工程には、酒瓶や米袋などをはじめとした「モノ」を運ぶ作業も多く含まれています。
かつては人の手で運んでいたものの、今や効率よく運べる運搬機器を使うのが一般的。今回は、実際に酒蔵で使われている道具をご紹介します。
酒瓶の運搬にぴったりな「台車」
どの酒蔵にもあり、大量の酒瓶を運びやすい道具といえば「台車」です。台車をじっくり見る機会もなかなかありませんが、よく見てみると面白い道具だとわかります。
2輪や4輪の台車をはじめ、ハンドル部分が折りたためたり、積載物の落下を防ぐためにハンドルが前後に付いていたりと、そのタイプはさまざまです。
少ない労力で酒瓶を運べる身近な道具。しかし荷物を積んだとき、コロコロと動きやすいことに気をつけなければいけません。
酒瓶を入れるプラスチック搬送用箱(通称:P箱)を積んだまま台車から手を放してしまうと、傾斜がわずかでも動き出してしまうのです。そのまま側溝にはまって、倒れてしまうこともよくあります。
ストッパーがある台車が望ましいですが、ストッパーがない場合は、木材を車輪にかませるなどの工夫が必要です。
また、空瓶を運ぶときは「瓶台車」を使います。スリットの間に瓶を差し込むと、洗ったあとの瓶を乾かしながら置いておける優れもの。P箱で保管する場合と比べても場所をとりません。充填するときには、瓶台車を引っ張って作業場まで運びます。
パレットを運ぶなら「フォークリフト」
パレット単位で酒瓶を移動させるときは、「フォークリフト」を使います。フォークリフトにはいくつかの種類があり、一般的なのは座って操作する「カウンターリフト」です。また、狭いところでも荷物を上げ下げできる「リーチリフト」も多くの酒蔵で使われています。
カウンターリフトは、ツメを延長できる「さやフォーク」という鞘をツメにかぶせることが可能。これにより、さらにツメの長さを伸ばし、大きなパレットを運ぶことができます。一方、リーチリフトはフォーク部分が縦に伸び縮みするぶん、小回りが効くのです。
酒蔵で働く場合、フォークリフトの免許を持っているかどうかは重視されます。酒蔵に興味を持っている人は、あらかじめ取っておくといいでしょう。免許は全国共通で、取ってから更新する必要はありません。
パレットに積まれたP箱を、フォークリフトでトラックに載せます。このP箱の積み方は、P箱のサイズやパレットの大きさで変わるので、本数計算は慎重に。
一升瓶が6本入るP箱の場合、P箱15ケースで1段とし、これを3段積み重ねます。そうすると、1パレットで運べる一升瓶の本数は、6本×15ケース×3段で270本。崩れないよう、紐やクリップなどで縛ってから運びます。
ほかにも、タンクや米袋を運んだり、設備の上げ下げにもフォークリフトが使われます。
フォークリフトはとても便利な道具です。しかし、これも重機のひとつ。扱いを間違えれば、商品を傷つけてしまうどころか、人命に関わる事故にもつながります。焦らずに落ち着いて、どこに運ぶのかをよく考えて運転することが求められます。
フォークリフトの手動版「パレットリフト」
こちらは、フォークリフトの手動バージョンともいえる「パレットリフト」。パレットトラックとも呼ばれます。ジャッキが付いているため、パレットを数センチ浮かせて運ぶことが可能です。
人力で動かす道具でありながら、500kgほどの荷物でも軽々運べます。後輪で曲がる方向を決めるので、最初は扱いに戸惑うかもしれません。また、多くのパレットリフトはブレーキが付いていないので、止めるときも人力です。
ハンドルに付いているレバーを握るとパレットが下がる仕組みですが、下り坂で速度が出てしまったとき、ついレバーを握って荷台を下ろしてしまうミスもよくあります。すると、パレットに載せた荷物が落ちてしまうので、坂道は不得意です。
スムーズにP箱を運べる「ねこ車」
一輪や二輪の運搬車のことを「ねこ車」と呼びます。二輪運搬車は酒販店で配達に使われていることも。決まったサイズの荷物をたくさん運ぶのに便利で、主にP箱の移動に使います。
使い方は、てこの原理でP箱を持ち上げて運ぶというもの。バランスをとりながら進み、ゆっくりとP箱を降ろすと、そこにP箱の列ができあがります。台車と比べると積み降ろしの手間が少ないため、移動はねこ車のほうがスムーズです。
しかし、バランスを崩しやすいので、段差や傾斜がある場所では慎重に運ばなければなりません。
このほか、ベルトコンベアやエアーシューター、ユニッククレーン車、ターレットトラックなどを使っている酒蔵も。蔵人は力仕事が多くありますが、重いものを扱うからこそ、それらを効率よく運べる道具や機材も豊富です。これらを使いこなせてこそ、一人前の蔵人といえるかもしれませんね。
(文/リンゴの魔術師)