創業から290年の歴史を誇る埼玉県の酒蔵「藤﨑摠兵衛(そうべえ)商店」が新天地に新しい酒蔵を建設し、4年ぶりに酒造りを再開しました。
秩父地方の人気観光地・長瀞(ながとろ)町に酒造りの設備を移し、30歳の若い蔵人を杜氏に抜擢。純米酒に特化した美酒造りを極めようとしています。目指しているのは、"人気・実力ともに埼玉県ナンバーワンの酒蔵"。完成したばかりの新しい蔵に足を運び、その意気込みを聞きました。
新天地・新体制で挑戦する新しい酒造り
藤﨑摠兵衛商店は、経営不振を理由に2014年で酒造りを休止し、翌年、鹿児島県の濵田酒造から事業支援を受けました。
「蔵の再建を図るためには、新蔵の建設が必要でした。そこで、もともと蔵があった寄居町よりも、多くの観光客が訪れる長瀞町を拠点にしたほうが、心機一転の再スタートには望ましいと考えたのです」と、社長の尾坂茂さんが移転の理由を話します。
長瀞町の熱心な誘致もあって、町全体を見下ろす高台に適地を確保することができました。2018年1月に地鎮祭を行ない、仕込み棟と販売棟がすでに完成しています。
酒造りは20代から40代までの4人で取り組むそうで、製造責任者には、まだ30歳の穐池崇(あきいけ・たかし)さんが抜擢されました。
穐池さんは大学卒業後に藤﨑摠兵衛商店へ入社。最初は営業職に就きましたが、「営業のためには、酒への理解を深めなければならない」と造りに携わったところ、そのおもしろさにのめり込み、酒造りに専念するようになります。
今回の抜擢について、「尾坂社長からは、やりたいように自由にやっていいと言われています。立ち上がりは酒質を安定させることに集中しますが、いずれはいろいろなことに挑戦し、蔵の評価を高めていきたい」と話してくれました。
目指すのは、長瀞の清流を思わせる酒
新蔵で造る日本酒の銘柄名は「長瀞」。以前から、藤﨑摠兵衛商店が商標を保有していましたが、限定的にしか使っていませんでした。今回、長瀞町へ移ることをきっかけに、新しいデザインのラベルも作成しました。
造るのは、純米吟醸や純米大吟醸を含む、純米酒が中心。さらに、さけ武蔵を始めとした埼玉県産の米のみを使用し、名水として評判の高い長瀞町風布地区の湧き水を仕込みに使い、埼玉の地酒として、強くアピールしていくようです。
目指す酒質について、穐池さんは「長瀞の清流を連想させる、さらりと流れるようなすっきりとした酒を目指しています。香りは穏やかで、みずからが強く主張するのではなく、料理に寄り添っていくようなイメージです」と、語ります。
長瀞には、年間270万人以上の観光客が訪れるため、当面の販売は、蔵での直売のみに専念する予定なのだそう。そのため、仕込み棟に隣接した、立派な販売棟も建設しました。
販売棟と仕込み棟は渡り廊下でつながれ、訪れた観光客がガラス越しに造りの様子を見学できるようになっています。「いずれは、体験教室のような企画もやりたい」と、尾坂社長は話しています。
販売を取り仕切る店長・田嶌ひろみさんは「多くの特産品や工芸品などがある地域なので、『これぞ!』という商品を発掘して、店頭で取り扱っていくつもりです。日本酒を含め、長瀞の特産品の店として評価していただくことが目標ですね」と、意気込んでいる様子でした。
9月5日(水)にオープニングセレモニーが開催され、同日午後から販売棟で「長瀞」がお披露目となるようです。大自然や社寺を観光しに長瀞を訪れた際には、必ず立ち寄りたい酒蔵ですね。
(取材・文/空太郎)
◎酒蔵情報
- 藤﨑摠兵衛商店
- 銘柄:「長瀞」
- 住所:〒369-1305 埼玉県秩父郡長瀞町1158
- 電話:0494-69-0001
- 営業時間:10:00〜17:00
- 定休日:火曜日