名古屋から名古屋鉄道とバスで約50分。伊勢湾を臨む愛知県・知多半島は、かつて200以上の酒蔵に加えて、味噌や酢、醤油といった醸造蔵が軒を連ね、"醸造半島"として知られていました。
数は減ったものの、今でも伝統製法にこだわる蔵が残っています。醸造業が栄えたポイントは、海上での運送により、北にも南にも商品を供給できたことにあります。2005年には中部国際空港セントレアも開港し、海外の観光客も多く訪れる恵まれた立地です。
そんな知多半島の常滑市で1848年に創業した澤田酒造が、2019年9月7日に「発酵」をテーマとした蔵開きイベント「白老〜ハクロウ〜 秋の蔵まつり」を開催しました。醸造半島ならではの、ひと味違った蔵開きをレポートします。
醸造半島らしく、テーマは「発酵」
澤田酒造の代表銘柄は「白老(はくろう)」。近海の白身魚や赤味噌、たまり醤油など、中京圏の食文化に合うお酒です。
「日本酒は土地のものといっしょに食べるのが一番美味しい」と考えている澤田酒造。そんな思いから、2年前より秋の蔵まつりを開催しています。「発酵」をテーマとしたこのイベントは、さまざまな内容が目白押しです。
日本酒飲み比べ
ひやおろしやイベント限定の樽酒、熟成酒など、澤田酒造が醸したお酒を飲み比べすることができます。
ゆっくり味わってほしいとの思いから、試飲は有料。さまざまな種類を飲み比べて、自分好みのお酒を見つけるのは楽しい体験ですね。
発酵マルシェ
発酵マルシェとは、知多半島や西三河の発酵に関するショップ・飲食店が集まるマルシェです。発酵食品を取り入れたフードをその場で楽しんだり、お土産に購入することもできます。
店舗は以下の通り。地元の美味しいものが集まり、なんとも贅沢です。
SHOP
- 角谷文治郎商店 (みりん/碧南)
- 日東醸造(しろたまり/碧南)
- 三井酢店(酢/阿久比)
- 中定商店(味噌・たまり/武豊)
- 布土若手農家(有機野菜など/美浜)
FOOD
- 鎌倉不識庵(精進料理/鎌倉)
- りんねしゃ(調味料販売など/津島)
- みやもと糀店(味噌・甘酒ノンアル/西尾)
- おにぎりやさん(土鍋おにぎり/名古屋)
- 常滑屋(粕汁、からし漬け/常滑)
- ほうろく屋(コロッケなど/西尾)
- 出張料理 よし時(和食酒肴/春日井)
- レストラン シュバルブラン(フレンチ/春日井)
ひやおろしや限定酒を飲み比べ!
オープンする10時より前から、会場の外には行列が。入場料はたったの500円(大人1名)で、チケットが2枚付いてきます。お酒ごとにチケットの枚数が決められており、1杯につき1〜5枚ほど。5枚で500円、10枚で1,000円のチケットを追加購入することも可能です。
会場はいくつかのエリアに分かれていて、あちこちにお店が並びます。飲食コーナーがあるので、発酵マルシェで購入したフードを気に入った日本酒と合わせて楽しむのも楽しいですね。
会場に漂うのは、発酵食品の美味しそうな香り。外のイートインスペースには酒樽のテーブルが用意されており、お客さんは青空の下でお酒とフードを楽しんでいました。
蔵の中に設置された飲み比べコーナーの入り口では、澤田酒造の6代目社長・澤田薫さんが「楽しんでいってくださいね」と、お客さんを笑顔でお出迎え。地元ならではの、心温まるおもてなしです。
飲み比べコーナーでは、お客さんがなにを飲もうか吟味中。イベント限定の樽酒から秋ならではのひやおろし、限定のうすにごり生原酒、普段は出回らない熟成酒、少量生産した日本酒もあります。これだけ種類が豊富だと、つい目移りしてしまいますね。
プラカップ1杯(約40ml)につき、チケット1枚(100円)から楽しめます。気になるお酒を少しずつ飲み比べして、好みのお酒を見つけられるようにしたのだそう。たっぷり飲みたい人には、大きなプラカップ(約90ml)も用意されていました。
また、常滑市が世界に誇る常滑焼で作られたおちょこを持参すると、おちょこ1杯ぶんのお酒がいただけるサービスも。地元愛を感じる特典です。
現役大学生がお燗番
続いて、お燗コーナーに行ってみましょう。こちらを担当するのは、なんと名城大学の日本酒研究会に所属する現役大学生。冷めやすいプラカップに注ぐことを考慮して、少しだけ温度を高めにする配慮が素敵です。温度管理や味わいについても、ていねいに解説してくれました。
お燗でいただけるお酒は2種類。いずれも、地元の方々に愛されている定番品です。
「若水純米 7号酵母火入れ」(左)
愛知県の酒米「若水」で醸したお酒を2年熟成させたもの。ラベルが目を引く一本です。個性的な酸味とほのかに漂う熟成香が、お燗にするとまろやかに引き立ちます。
「純米吟醸熟成酒 豊穣」(右)
全国熱燗コンテスト2019にて、最高金賞を受賞した話題のお酒。やわらかなお米の甘みと、しっかりとした熟成感がある味わい。お燗にすると、名前の通りに豊かな香りが広がります。燗冷ましは味の輪郭がはっきりとする印象。デザート感覚で、食後にいただくのも良さそうです。
さらに、初となる梅酒BARも設置されました。澤田酒造は梅酒も有名な酒蔵。梅酒を通じて、10年以上も親交がある札幌の梅酒BAR「SOUL COMPANY」が出店しました。
こちらでは、日本酒や梅酒を使ったオリジナルカクテルを提供。独創的なカクテルが並んでいました。
日本酒×発酵食品の食べ合わせを楽しむ
今回の楽しみ方のひとつとして、日本酒と発酵食品の食べ合わせをしてみました。
「若水うすにごり純米吟醸 限定酒」×「辛子なす」
まずは、秋限定のうすにごり生原酒。「若水」で醸した、秋の蔵まつり限定のお酒です。
少しだけ澱が見える、淡い色合いのお酒を一口。生原酒ならではの甘み、濃いお米の味わい、しっかりとした酸味が先行し、爽やかな後味を楽しめます。
合わせるのは、常滑市でカフェギャラリーを営む「常滑屋」が漬けた辛子なす。辛味が効いており、乳酸の酸味がお酒とよく合います。
「樽酒」×「酒粕入り豚汁」
次は樽酒をいただきます。こちらも、秋の蔵まつり限定の貴重な生酒です。杉の香りがふわっと立ち上り、お米の優しい甘みが広がります。生酒独特のとろりとしたテクスチャーで、後味は長め。
こちらに合わせるのは、「常滑屋」の豚汁。澤田酒造の酒粕がふんだんに使われていて、目にも舌にも美味しい一品です。野菜と酒粕の甘みに、濃いめの味噌がぴったりです。
「冷やおろし」×「レバー揚げ照り焼き」
最後は、西尾に店を構える「ほうろく屋」の「ほうろく菜種油といさむ・ポークのレバーで作った揚げ照り焼き」をいただきます。見た目は素朴なレバーですが、揚げ照り焼きにすることで、中までやわらかいまま火が通っています。
しつこくないけれど、しっかりと香りが感じられるレバーに合わせるのはひやおろし。レバーの濃厚さと相まって、ひやおろしの旨味が口に広がります。どちらもしっかりとした味ながら、また飲みたい、また食べたいと思える美味しさでした。
知多半島をたっぷり味わえるイベント
お客さんが美味しいお酒と発酵食品を楽しんでいる姿を、微笑みながら眺めているひとりの男性。澤田酒造の副社長・澤田英敏さんに、イベントへの思いを伺いました。
「地元でこのようなイベントを開催することができ、たくさんの方が知多半島の魅力、醸造の魅力を知ってくれて本当にありがたいです。存分に楽しんで、『また来たい』と思ってくれたらうれしいですね」と、澤田さん。
知多半島が誇る発酵食品といっしょに、日本酒を楽しむ秋の蔵まつり。発酵が生み出す深い味わい、そして、地元ならではの心温まるおもてなしで、日本酒はより美味しさを増していました。
今後のイベント情報は、澤田酒造の公式Facebookから確認することができます。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
(文/spool)