愛知県の知多半島は、海運の便が良く古くから醸造業が盛んな土地柄です。最盛期には200以上の酒蔵に加えて、味噌、酢、たまり醤油といった醸造蔵が並んでいました。数こそ激減したものの、今でも伝統製法にこだわる蔵が残っています。

今回ご紹介する澤田酒造は、そんな知多半島にある1848年創業の老舗酒蔵。主要銘柄は清酒「白老(はくろう)」。近海で採れる白身魚や、赤味噌やたまり醤油といった発酵調味料といった中京圏の食文化にあう地酒として、料理を引き立てる日本酒を造っています。

澤田酒造の蔵人たち

澤田酒造の酒が愛知県外ではあまり知られていないと日頃から感じていた6代目社長の澤田薫さん(写真:前列右から2人目)は、蔵元の代替わりを機に、これまで以上に販路の開拓や積極的な情報発信などを始めました。

そのひとつが東海エリアの良いヒト・モノ・コトを集め、「好き」「おいしい」「面白い」など驚きの発見や感動ができる体験プログラムを配信する「大ナゴヤツアーズ」とタッグを組んだ酒蔵見学ツアーです。

今回はその酒蔵見学ツアーに参加し、澤田酒造の歴史から酒造りの現場、日本酒への想いなどをうかがいました。

酒米農家は同じ想いを持つ同志

澤田酒造の外観

名古屋鉄道常滑駅からバスに揺られて約10分。「白老」の大きな看板が見えてきました。蔵は1850年代の建物で、こちらは二代目の酒蔵です。もともとは伊勢湾に面した海沿いにあったそうですが、1854年の東南海地震で被災したために現在の場所に移転しました。

昔使っていた保管用の蔵から見学ツアーがスタートです。

澤田酒造の見学ツアー

まずは酒造りに使うお米について。参加者に配られたのは小さなおにぎりは、澤田酒造が使っている酒米「若水」を蒸したもの。

酒米をそのまま食べる機会はなかなかないので貴重な経験ですね。食べてみると、普段食べているごはんより水分が少なく、どちらかというとモソモソして固めな印象。でも噛み続けると徐々にお米の甘さが口の中に広がっていきます。「この酒米から造るお酒が飲めるんだ!」と思うと何だかワクワクします。

澤田酒造の酒米でつくったおむすび

6代目のお婿さんで副社長の澤田英敏さんが、酒米を種類ごとに比べながらそれぞれの特性や生産に向く地域などを話してくれました。稲穂の長さや実の付き方だけでも、違いがよくわかります。稲穂を実物で見比べる機会はあまりないので面白いですね。

澤田酒造・杜氏の澤田英敏さん

次に話してくれたのは酒米を仕入れるまでのお話です。

酒米は契約農家から仕入れますが、いきなり買いにいってもすぐに売ってくれるものではありません。酒蔵は自分たちが造っている日本酒の味や目指す姿を酒米農家に理解してもらい、農家もどんな想いで酒米を作っているかを酒蔵へ理解してもらう。そのようなやりとりを通して、ようやく取引が始まります。

澤田酒造の杜氏・澤田英敏さん

酒米に強い想いを持つ澤田酒造は、それを行動で示すように酒米の田植えや稲刈りなど、実際のお米作りの手伝いもするそうです。兵庫のとある酒米農家と一緒に日本酒が造りたくて、田植えや稲刈りの手伝いに4年間通い詰め、ようやく一緒に酒造りができる関係になったのだとか。

ビジネスとして成立させることももちろん大事ですが、日本酒への同じ想いを共に持てるかということも重要なんですね。

澤田酒造では、酒米を生産する農家さんの跡取りやお酒を楽しむ酒器をつくる若手の陶芸家が修行に来ていました。若いうちから自分の進む道がどのように繋がっていくのかを、実体験を含めて学んでいるというのが印象的でした。

仕込水は知多半島の伏流水

澤田酒造の仕込水

いよいよ普段は見られない仕込蔵の見学です。

澤田酒造で使っている仕込水は、蔵からおよそ2km先の知多半島丘陵部(新水谷)から引いてきた伏流水。これは江戸時代から自家水道として使っている軟水で、ふくらみのあるまろやかな酒質をつくりだします。この水に別で用意した超硬水を合わせることで、おいしいお酒が生まれます。解説には英語も併記されているので、外国の方でも安心です。

昔ながらの道具を使った酒造り

澤田酒造の蔵人は平均34歳とかなり若め。杜氏は40代ですが、それ以外は20~30代が中心です。

最近では若い方々が最新の電子システムやコンピューターを柔軟に使いこなし、日本酒の味を進化させている蔵もありますが、澤田酒造の造り手は若いながらも伝統的な酒造りのやり方を踏襲。すべての酒を昔ながらの道具を使って醸しています。

澤田酒造の甑

昔ながらの道具のひとつが、「甑(こしき)」。

酒米を蒸すための大きな桶のことです。現在では金属製の甑が主流ですが、澤田酒造では木製の甑を使っています。強い蒸気で蒸すことができるため、酒米の種類によって調整がしやすく、木が余分な水分を吸収してくれます。このような大きな木製の甑を製作できる職人は、今では少なくなってきているのでとても貴重なのだそうです。

澤田酒造・麹づくり

もうひとつが「麹蓋(こうじぶた)」。

写真の四角い木枠がそれです。温度と手の感覚で昔ながらの手段で少量ずつ麹を造っています。麹蓋を使うことで、均質で麹菌の深い破精込み(はぜこみ)を可能とし、米のうまみをお酒の中に十分に溶け込ませることができます。

「甑」と「麹蓋」、このふたつをつかって酒造りを行っているのは全国的にも数蔵しかないそうです。昔ながらの道具を使い、手間ひまかけることが澤田酒造が造る酒のおいしさの秘密なんですね。ホームページでは、昔ながらの製法を工程ごとに詳しく解説してあるので、初心者でもわかりやすいです。

今回の見学ツアーでは、麹蓋を使った「仲仕事(麹に空気を入れ整える作業)」を体験できました。麹菌をまとった酒米にそっと手を入れると、じんわりと温かい。麹菌が発酵していることを直に感じることができました。

澤田酒造・麹づくり体験

作業は、お手本を見せていただいてから見よう見まねで体験。麹蓋を左右にゆすったり、手で整えたりします。ですが、杜氏のようにスムーズには動かせず、熟練の技を目の当たりにした思いでした。

10月から翌年3月まで酒造りの期間中は、4時間毎に麹の状態を確かめながら全ての麹蓋で同じ作業を行うそうです。麹のお守りは大変です。

郷土のおつまみとともに美酒をいただく

澤田酒造・試飲のラインナップ

酒蔵見学の締めはなんといっても飲み比べ。澤田酒造が醸す美酒を、知多半島のおいしい干物や豆みそ、エビせんべい、焼のりなどのおつまみとともにいただきます。醸造文化が豊かな土地でつくられたおつまみは澤田酒造のどのお酒とも本当に合います。

澤田酒造・見学ツアーのおつまみ

おみやげには、副社長おすすめの「豊醸」を購入しました。副社長曰く「今すぐ飲んでもおいしいけれど、開封から少し日をおいてから飲むと味の変化が大きく出てまたおいしい」なのだそうです。

澤田酒造・杜氏の澤田英敏さん

2/24(土)・25(日)には蔵開きが、そして、4月中旬には大ナゴヤツアーズの酒蔵見学ツアーが開催されるそうです。みなさんも足を運んで見てはいかがでしょうか。

(文/spool)

澤田酒造 第30回「酒蔵開放」

  • 日時:2/24(土)・25(日)10:00~1500
  • 会場:澤田酒造(愛知県常滑市古場町4丁目10)
  • 入場料:500円

大ナゴヤツアーズ
「常滑の老舗酒蔵『澤田酒造』6代目蔵元がご案内!こだわりの日本酒ツアー」

  • 日時:4月15日(日)13:30~15:30
  • 会場:澤田酒造(愛知県常滑市古場町4丁目10)
  • 参加費:3,500円(5種試飲・おつまみ、300ml瓶お土産付、保険料含)

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