かつて、地酒専門店は「全国の美味しい地酒を発掘し、みずからの地域でその魅力を紹介する物流拠点」としての役割を担っていました。もちろん、今もその役割は変わりません。しかし、ネットショップや大手小売店での地酒の販売が拡大するなかで、専門店には、単に良い酒を仕入れて売るだけでなく、日本酒のファンを増やすための魅力的な店づくりが求められています。
連載「そうだ、町の酒屋へ行こう!」では、実際に酒屋で働いている目線から、酒屋の"人"にフォーカスし、その魅力的な店づくりについて、紹介します。
「お客様に納得していただくことが大事」
今回紹介するのは、世田谷区にある「朝日屋酒店」です。小田急線の経堂駅から徒歩8分、閑静な住宅街で3代にわたって酒屋を営んできました。
全国各地の約150蔵から400種類の日本酒と300種類の焼酎が集まる、地域に根差した地酒専門店です。3代目の小澤和幸さんは1980年生まれ。大学卒業後から店で働き始め、2018年11月に先代・祥男さんの後を継ぎ、代表取締役社長に就任しました。
─ 店の歴史について、教えてください。
創業は約50年前ですね。当初は八百屋から始まって、ミニスーパー、酒屋、地酒専門店と業態を変えてきました。地酒専門店になったのは約30年前、私が小学生の頃でした。"地酒"という商品を専門的に扱うことで他店と差別化し、競争を避けることで商売を続けてきたんです。
ただ、インターネットが普及した現代では、商品を差別化するだけでは競争を避けられません。飲酒人口が減っていく状況も考えると、お客様にどうやって楽しんでもらうかという、店そのものの差別化が重要だと思います。
─ 仕入れの際に、重視していることはありますか。
美味しいことはもちろん大事ですが、「蔵のコンセプトに共感できるか」「人間としていっしょに協力関係を構築できるか」を重視しています。蔵との関係を大切にしているので、他店では扱っていないような限定の酒も多く取り扱っています。
また、醸造学科のある東京農業大学と近いこともあって、酒蔵を継ぐ予定の農大生がアルバイトとして働いています。彼らが蔵へ戻って造った酒は、特に気持ちを込めて販売しています。
─ お客さんに楽しんでもらうために心がけていることや取り組みを教えてください。
納得して買っていただくことを心がけています。だからこそ、「実際に飲んで試せること」「情報という付加価値を付けること」を大切にしています。どんな酒蔵のどんな酒なのかという情報はもちろん、「試飲会で人気の高かった酒」「プロが美味しいと選んだ酒」「スタッフのイチオシ」など、当店ならではの情報を付け足しています。
また、年に1回のペースで、取り扱い銘柄の味わいを知ってもらうことを目的とした「美酒銘酒きき酒会」を開催しています。イベントそのものを楽しんでもらうだけでなく、今後の来店につなげてもらえるように取り組んでいます。
特別な1本を見つけるお手伝い
朝日屋酒店の店内には、本当にたくさんの酒が並んでいます。地方から上京してきた人にとって、地元の酒と再会することができる、安心の場所にもなっているのだそう。
入ってすぐ左の冷蔵庫には、試飲用の酒がなんと約100種類。セルフで試飲できるスペースが設けられています。実際に飲んでみて、納得したうえで購入してほしいという思いでつくられたコーナーです。
壁一面の冷蔵庫には、季節の酒が並びます。初めて来店されたお客さんに対しては、合わせる料理を話題にすることが多いのだとか。地元の酒屋ならではのフレンドリーな距離感で、おすすめを紹介してくれます。
ひときわ目を引くのは、奥の棚。左上から右下に向かって、北から南の順に全国の地酒が並びます。
取材を終えて
朝日屋酒店の事務所スペースには「経営理念:朝日屋酒店をブランド化する」という張り紙があり、店としての魅力を高めることを常に考えている様子でした。たくさんの美酒のなかから、スタッフとの会話や手書きのPOPを参考に、自分にぴったりな1本を選ぶ楽しさ。これこそが、朝日屋酒店の魅力かもしれません。
(文/小林健太)
◎店舗情報
- 「朝日屋酒店」
- 住所:東京都世田谷区赤堤1-14-13
- 電話:03-3324-1155
- 営業時間:10:00〜19:30
- 定休日:毎週水曜
- アクセス:小田急線 経堂駅から徒歩8分
- 取扱銘柄:獺祭、〆張鶴、黒龍、伯楽星、田酒、鳳凰美田、くどき上手、玉川、久保田、裏月山縁など
- 常時試飲:あり(季節商品や定番商品を合わせ、常時100種類以上)
- 全国発送:可能
- クレジットカード:不可
- 電子マネー:不可
- ホームページ:あり
- オンラインショップ:あり
- Twitter:あり
- Facebookページ:あり
- ブログ:あり
- イベント:
・「美酒銘酒きき酒会」(年1回開催)
・「Professional Sake College」 (年1回開催) ※業界関係者のみ参加可能
※掲載情報は、取材時(2018年8月)の情報です。