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新酒と古酒では酔い方が違う!? 江戸時代から親しまれていた古酒 ― 古文献に見る熟成古酒の歴史<4>

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「足あぶる 亭主に問へば 新酒かな」 其角

酒を飲んだ家の主人が、火鉢に足をかざして炙っているところへたまたま訪ねてきた客が、一杯飲んだと見える主人に「ご機嫌だね」と声をかけると、「新酒は頭ばかり酔っぱらって、足は冷たくていけねえ」と、あわてて居住まいを正す、そんな姿が目に浮かぶ句です。

江戸時代前期の俳諧師、宝井其角はよほどの酒好きとみえ、これ以外にも

「年酒の 樽の口ぬく 小槌かな」
「酒を妻 妻を妾の 花見かな」

など、酒を楽しむ句を多く残しました。その晩年には

「大酒に 起きてものうき 袷かな」
「酒ゆえと 病をさとる 師走かな」

など、どうもアルコール依存症の症状が見られるほどの酒好きだったようです。

新酒の酔い方は物足りない?

表題の句の面白さは、単に「酒を飲んだ」と言わずに、わざわざ「新酒を飲んだ」と言い訳をしているところです。この句からもわかるように、江戸時代の人たちは新酒と古酒の酔い方の違いをよく知っていたのではないでしょうか。

江戸中期の書物『訓蒙要言故事(くんもうようげんこじ)』の「祇園会」の中には、以下のような記述があります。

「京童が言うに、古酒を祇園會(ぎおんえ)と云い新酒を御霊祭(ごりょうさい)と云。なんとなれば、古酒は味が濃くて、体全体がうるおうように酔う、ちょうど祇園大社の祭が上京、下京共に賑わう様子と似ている。新酒は味が薄くて、頭ばかり酔って体は全然酔わない。御霊の小社の祭が上京ばかり賑わって、下京は寂しいのと同じだ」

古酒は味に深みがあるばかりではなく、体全体がうるおうように気持ちよく酔うのに対し、新酒は味が薄い上に頭しか酔わないとし、その違いを、京都の人たちには非常に身近な祇園祭と御霊際に例え、わかりやすく表現しています。

なぜ新酒と古酒では酔い方が違うのか?

酔いの正体は、酒に含まれるエチルアルコールの働きによるものです。「新酒と古酒では同じ酒なのに、その酔い方がなぜ違うのか」という問題は、アルコールの科学的な研究から、その理由が証明されています。

新酒に含まれるアルコールは、アルコール分子と水の分子がそれぞれ単独で存在するのに対し、古酒になるにしたがって、アルコール分子と水の分子が分子結合を起こして、その香りや味だけではなく、アルコールとしての機能性が変わります。

ウイスキーやブランデイなどの蒸留酒が、長い熟成期間を経て、樽による熟成の効果も加わって味や香りの深みが増し、素晴らしい飲み物になるのもこの現象のひとつとされます。

江戸時代の新酒と古酒の定義

『古今和歌集』にこんな歌があります。

「年の内に 春は來にけ 一年(ひととせ)を 去年(こぞ)とやいはむ 今年とやいはむ」

旧暦の春=新年は元旦と前後してやってくるので、その年によっては元旦の前に新年となってしまうため、新年と元旦の間の数日間を去年と言えばよいのか、今年と言うべきかという意味ですが、江戸時代に詠まれた以下の句はそれを取り入れたものです。

「春たてる 年の内田の 一徳利 古酒とやいはん 新酒とやいはん」
※「年の内田」は”年内”という意味と、その当時江戸でよく知られた小売り酒屋「内田屋」との掛詞です。

今年は元旦の前に新年がやってきたので、今、内田屋が徳利で売っている酒はもう古酒と言うべきか、まだ新酒と言へばいいのだろうかという、言葉の遊びです。この句から、当時の新酒と古酒の違いは、新年になる前に搾ったか、新年になってから搾ったかによっていたようです。

日本酒の新年度は7月1日から

私が酒造会社へ入社した昭和40年代ころの酒造りは、3月31日を年度末とし、4月1日から新年度に入りました。ところがその後、四季醸造が普及し、年中酒を造る蔵が増え、実態との乖離が大きくなったため改定が行われます。

現在の酒税法では6月30日を年度末年とし、7月1日からは新年度となります。したがって、6月30日までに搾り終え、その量を確認した酒は7月1日には古酒ということになり、6月末に搾り終えたほやほやの新酒が、翌日には古酒になっているという珍現象が起こります。

(文/梁井宏)

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梁井 宏

金沢の創業1625年の老舗酒蔵で、40年余りにわたり、酒造管理、商品開発、市場開拓などに携わってきました。同社を退職後は、酒関連の情報収集と併せ、現役時代からこだわってきた、「熟成古酒」の啓蒙活動に力を入れています。