「日本酒と魚料理が合うのは当然。では、ピザはどうなんだろう。ピザと日本酒を合わせてもいいんじゃないの?」
こんな素朴な疑問に正面から向き合うイベントが、アメリカ・マサチューセッツ州のワインスクールで開催されました。この記事では、ピザをおつまみとした日本酒のテイスティングイベント「Sake and Pizza」の模様をレポートします。
日本酒の楽しみ方を広げる試み
このイベントを主催したのは、アメリカ・マサチューセッツ州の中心部、ハーバード大学のすぐ近くにあるワインスクール「Commonwealth Wine School」。このスクールでは、10名以上の講師陣が、ワインを中心としたお酒の講座やイベントを開催しています。
「Sake and Pizza」の進行を担当したのは、講師のマリナ・ジョルダーノ(Marina Giordano)さん。マリナさんはワインの資格はもちろん、「Wine & Spirits Education Trust (WSET)」の日本酒コースも修了した、まさにお酒のエキスパートです。
「マサチューセッツでは日本酒が広がりつつあるとはいえ、まだまだ日本食レストラン以外で提供されるまでには至っていません。多くの人が、『日本酒は寿司と一緒に楽しむもの』という認識をもっているのが現状です。
しかし、日本酒にはさまざまな食材と合わせられるポテンシャルがある。そこで、アメリカの定番の食べ物であるピザと日本酒のペアリングを、ワインスクールのみんなで試してみることにしたんです」と話すマリナさん。
こうして、ワインスクールの生徒のみなさんを対象に、「Sake and Pizza」の開催が決まりました。
5種類の日本酒とピザのペアリング
イベントの進行は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ZOOMを使ったオンライン形式。受講生のもとには、吟醸酒・にごり酒・純米酒・古酒・原酒の5種類が入ったテイスティングキットが事前に送られました。それぞれ、ラベルが貼られた小瓶に入れられています。
- 吟醸酒:「Joto Ginjo "The Pink One"」
(茨城県産・アルコール度数 15.5%)- にごり酒:「Joto Nigori "The Blue One"」
(広島県産・アルコール度数 15.5%)- 純米酒:「Shichi Hon Yari(七本槍) Junmai」
(滋賀/冨田酒造・アルコール度数 17%)- 古酒:「Yuho(遊穂)"Rhythm of the Centuries" Kimoto Junmai」
(石川/御祖酒造・アルコール度数 15.9%)- 原酒:「Kikusui(菊水) "Funaguchi" Honjozo Nama Genshu」
(新潟/菊水酒造・アルコール度数 19%)
ピザは、受講生各自で好みのものを用意しました。私が選んだピザは、スイートバジルの香りがさわやかな、マルゲリータとキノコの味が楽しめる「マッシュルームとトリュフのピザ」です。
テイスティングキットと和らぎ水も用意して、準備は万全。モニターの前でイベントの開始を待ちます。
時間になると、最初に自己紹介と自分が選んだピザの説明が行われました。イベントには12名の受講生が集まり、男女比は半々。みなさんが用意したピザは、ペパロニ・シーフード・野菜・BBQ・フルーツ・チーズ・スパイシーなど、多種多様なラインナップです。
「日本酒を自由に楽しもう!」というコンセプトのもと、いよいよイベントが始まりました。
まずは日本酒の基本的な知識から。日本酒の構成要素や分類など、マリナさんのわかりやすい説明に引き込まれます。
続いて、テイスティングキットの日本酒の紹介です。
それぞれの日本酒の概要を説明し、次に造っている酒蔵、酒蔵がある地域の特色といった順番で進みます。マリナさんは日本で酒造りを学んだこともあるそうで、地域についての説明も説得力があります。
最初のテイスティングは、吟醸酒の「Joto Ginjo "The Pink One"」。すっきりとした飲み口が野菜のピザと合うと好評です。アサリのピザと合わせた参加者も大満足の様子。
2番目は、にごり酒の「Joto Nigori "The Blue One"」です。にごり酒特有のクリーミーな味わいに驚く参加者も。マルゲリータピザとの相性が良いとの意見があり、私もこれには大賛成でした。
3番目は、純米酒の「Shichi Hon Yari Junmai(七本槍)」です。味の複雑さと旨味が、どんなピザと合わせてもお互いの良さを引き立たせるようで、感想を言う際には一番の盛り上がりを見せました。
4番目は、古酒の「Yuho "Rhythm of the Centuries" Kimoto Junmai(遊穂)」です。やや黄色味を帯びたお酒の熟成香を楽しみつつ、ピザと合わせます。こちらはフルーツピザとの相性が抜群だったよう。
最後は、生原酒の「Kikusui "Funaguchi" Honjozo Nama Genshu(ふなぐち菊水一番しぼり)」です。今回のテイスティングキットの中では、最もアルコール度数が高い19%。肉系のピザやニンニクが効いたピザと合わせた参加者からの反応が良く、しっかりとした味わい同士がマッチしたようです。
「日本酒はピザにも合う!」
ピザに舌鼓を打ちつつ、5種類の日本酒を味わった「Sake and Pizza」。各々が自由に感想を話し合い、活発な議論が交わされていたのが印象的でした。
特に、受講生のみなさんはワインの愛好家だけあって、ワインと日本酒の比較で盛り上がりを見せました。
何度も議論に挙がった、「ワインよりも日本酒のほうが酸味が少なく旨味は多いため、食材と競うのではなく、食材に寄り添うようなニュアンスになるのではないか」との分析は、ワインに対する豊富な知識があってこそ。この分析と実際のペアリングから、みなさんは「日本酒はピザにも合う!」と口をそろえ、とても満足した様子でした。
イベントの最後には、「次はチョコレートとのペアリングを試したい」といった要望も。日本酒の新たな魅力を発見する試みは、まだまだ続くようです。
(取材・文:浜田庸/編集:SAKETIMES)
◎取材協力
- Commonwealth Wine School
- Address: 35 Dunster St Cambridge, MA 02138
- e-mail: info@commonwealthwineschool.com