フランスでの日本酒の普及と地位向上を目的に、フランス人によるフランス人のためのフランスで行う日本酒コンクール「Kura Master」がパリで始まったのは2017年のこと。

第3回目となる2019年は、271蔵元から720銘柄が出品。「純米酒部門」「純米大吟醸酒部門」「スパークリング Standard部門」「スパークリング Soft部門」の4カテゴリで厳正な審査が行われ、プラチナ賞と金賞が選ばれました。

プラチナ賞のトップ14銘柄は以下の通りです。

◎純米大吟醸酒部門

  • 「勝山 純米大吟醸 伝」仙台伊澤家勝山酒造株式会社(宮城県)
  • 「セブン 純米大吟醸」白瀧酒造株式会社(新潟県)
  • 「玉柏 純米大吟醸」合資会社山田商店(岐阜県)
  • 「作 槐山一滴水」清水清三郎商店株式会社(三重県)
  • 「櫻正宗 金稀 純米大吟醸四〇」櫻正宗株式会社(兵庫県)

◎純米酒部門

  • 「陸奥八仙 赤ラベル」八戸酒造株式会社(青森県)
  • 「セトイチ 音も無く」株式会社瀬戸酒造店(神奈川県)
  • 「天狗舞 山廃仕込純米酒」株式会社車多酒造(石川県)
  • 「臥龍梅 純米吟醸 山田錦」三和酒造株式会社(静岡県)
  • 「ナルトタイ 純米原酒 水ト米」株式会社本家松浦酒造場(徳島県)

◎スパークリング Standard部門

  • 「陸奥八仙 Natural Sparkling Premium」八戸酒造株式会社(青森県)
  • 「スパークリング酒 好」土佐酒造株式会社(高知県)

◎スパークリング Soft部門

  • 「吉乃川 酒蔵の淡雪」吉乃川株式会社(新潟県)
  • 「八鹿 スパークリング Niji」八鹿酒造株式会社(大分県)

「Kura Master2018」の審査風景

7月9日(火)には、「プレジデント賞」と「Kura Master審査員賞」の発表と授賞式が、パリ市内にあるOECD日本政府代表部大使公邸にて行われました。

「Kura Master審査員賞」は、プラチナ賞トップ14銘柄の中から、審査委員会により各4部門ごとに最高の1銘柄に贈られる賞。「プレジデント賞」は、審査委員長のグザビエ・チュイザ氏が選出する、出品された720銘柄の頂点に与えられる賞です。

見事、「プレジデント賞」を受賞したのは、宮城県・仙台伊澤家勝山酒造の「勝山 純米大吟醸 伝」でした。

「勝山純米大吟醸 伝」

「Kura Master審査員賞」を受賞したのは、純米酒部門「臥龍梅 純米吟醸 山田錦」(三和酒造株式会社/滋賀県)・純米大吟醸酒部門「櫻正宗 金稀 純米大吟醸四〇」(櫻正宗株式会社/兵庫県)・スパークリング Standard部門「スパークリング酒 好」(土佐酒造株式会社/高知県)・スパークリング Soft部門「吉乃川 酒蔵の淡雪」(吉乃川株式会社/新潟県)の4銘柄です。

今回は、パリの日本酒関係者・ジャーナリスト・スポンサーなどが招かれて開催された、表彰式や講演の様子をお伝えします。

パリで開催された式典の様子をお届け

受賞蔵の発表に先立ち、OECD日本政府代表部の大江博特命全権大使より、フランス語で受賞者への祝辞、Kura Masterがフランスで日本酒の普及活動に大きな役割を果たすことに対する期待と感謝、日本政府の日本酒輸出促進の取り組みについて述べられ、「素晴らしい日本酒の世界を心ゆくまで楽しんでほしい」と締めくくりました。

Kura Master運営委員長の宮川氏に順番にエスコートされ、進み出たプラチナ賞トップ14の受賞酒の蔵元。やや緊張した面持ちながら、上位に入賞してパリまで来ることができた喜びと感謝、そして部門最高の賞に選ばれた栄誉に対する感動を言葉にしました。

式の最後は、Kura Masterの最高賞である「プレジデント賞」の発表です。

伊澤さんとグザビエ氏

蔵元である父親の代理で出席したという仙台伊澤家勝山酒造の伊澤優花さんが表彰状を受け取り、「フランス人によるコンクールで認められ、このような栄誉ある賞を受賞できたことは大きな励みになります。美味しい日本酒を造る努力を続けていきたい」と感謝を述べました。

審査員長のグザビエ氏

審査委員長のグザビエ・チュイザ氏は、コンクールの出品酒の品質が毎年上がっていると感じているそう。審査員のコメントもより具体的になり、新設されたスパークリング部門の評価も高かったと締めくくりました。

授賞式の後は、トップ14の受賞酒と、awa酒協会の金賞・プラチナ賞受賞酒の試飲会です。

試飲会の様子

会場には、最高級の酒米といわれる山田錦の産地であることをアピールする、Kura Masterエメラルド・スポンサーである兵庫県のブースも。ほかにも、ヨーロッパではアペリティフとして定番の生ハムや熟成ソーセージと日本酒との相性の良さを紹介するブースなどがありました。

審査員の教育、審査会の採点はどうなっている?

審査委員長のグザビエ・チュイザ氏にお話を伺いました。

Kura Masterの審査員数は、2017年は32人、2018年は58人、2019年は93人と年々増えています。第1回は、グザビエ・チュイザ氏が声をかけて構成。第2回は応募があったため、インタビュー面談を実施。第3回となる今年は、認知度が上がってきたためか、多数の審査員希望者がいたようです。

日本酒を扱った経験がある審査員希望者は半数程度。コンクールの趣旨が「フランス人の感性で評価する日本酒」であるため、卓越したワインの知識、テイスティング能力、サービスの経験を備えていることが重要でしたが、全員がその条件を満たしていたとのこと。

日本酒の研修は、日本酒造組合中央会理事で、日本酒の香りや味の品質評価の研究・基準づくりを進めている宇都宮仁氏に協力を依頼。審査会の2週間前にパリで講習会を行い、審査会に臨んだそうです。

研修の様子

また、2019年1月にはKura Masterの出品蔵募集の告知のため、審査員代表数人が来日しました。その際に、和歌山・兵庫・広島・大分・福岡の酒蔵を周り、米や造りについて学んだそう。陶芸にも挑戦するなど、日本酒文化全般を吸収できる機会だったといいます。

審査当日の会場では、7人ほどのテーブル毎に2人の経験者をリーダーとして配置し、手順をまとめるように配慮したそうです。

審査方法は日本での鑑評会とは反対に、フランスのワインコンクールでは一般的な加点方式を採用。配点は、外観(10点)・香り(30点)・味わい(40点)・料理との相性のポテンシャル(20点)の合計100点満点です。ワインと日本酒、審査の対象は異なっても、フランス人審査員が戸惑うことはなく、飲みたいと思うほど品質の良い銘柄が高く評価されます。

「Kura Master2018」の審査風景

今後、日本酒教育の強化案としては、イギリスにある世界最大のワイン教育機関である「Wine & Spirit Education Trust (WSET)」の日本酒講座(Level3)を、2019年9月からプロフェッショナル向けに開始する予定とのこと。さらに、日本酒サービス研究会・酒匠研究連合会(SSI)による、国際きき酒師の資格も導入するそう。ソムリエを目指す若者が通うソムリエ学校にも日本酒のカリキュラムを導入する準備を進めるなど、具体的な対策が進んでいるようです。

コンクール以外の形でも、日本酒をフランスに広げるプロモーション活動は進んでいます。

たとえば、2018年11月~2019年2月には、パリを中心に開催される大規模な複合型文化芸術イベント「ジャポニズム 2018」の枠組みの中で「日本のお酒試飲の夕べ」と題した、各県の日本酒を紹介するイベントを開催。Kura Masterのメンバーは、一般消費者が日本酒への関心を持つような機会づくりに協力したそうです。

awa酒協会によるセミナーと試飲会も開催

Kura Master授賞式に先立ち、7月8日(月)には、パリの高級住宅街のひとつである16区の5つ星ホテル「Sofitel Baltimore」で、Kura Masterスパークリング酒セミナーとプレミアム試飲会が開かれました。主催は、Kura Master運営委員会と一般社団法人awa酒協会です。

ジャン・リュック・ジャムロジック氏

そこには、パリ・イルド・フランスソムリエ協会会長のジャン・リュック・ジャムロジック氏の姿もありました。

スパークリング日本酒についてのセミナーを行ったのは、2016年に発足した一般社団法人awa酒協会の理事長で、永井酒造社長の永井則吉氏。

永井理事長は、協会の設立目的を「ワイン伝統国におけるワイン法のように、品質向上と維持を徹底するための厳格な基準づくりのため」と説明します。

永井則吉氏

awa酒協会に認定されるためには、以下の商品開発基準と品質基準を満たしている必要があります。

◎商品開発基準

  • 米(※1) 、米こうじ及び水のみを使用し、日本酒であること
  • 国産米を100%使用し、かつ農産物検査法により3等以上に格付けされた米を原料とするものであること
  • 醸造中の自然発酵による炭酸ガスのみを保有していること(※2)
  • 外観は視覚的に透明であり、抜栓後容器に注いだ時に一筋泡が生じること
  • アルコール分が10度以上であること
  • ガス圧は20℃で3.5バール(0.35メガパスカル)以上であること(※2)
  • ※1 純米であることや精米歩合については規定しない
  • ※2 二次発酵についてはタンク内でも瓶内でも規定内とする

◎品質基準

  • 常温で3ヶ月以上は香味、品質が安定していること
  • 火入れ殺菌を行っていること
  • 炭酸ガスは、配管及び容器内のガス置換の目的で使用するものを除く

これらについて、フランス語で用意した資料を使いながら詳しく解説していました。また、シャンパーニュとの主な違いを「日本酒は酸化防止剤の添加、澱引きの際の補糖が禁じられていること」と説明しました。

2019年のKura Masterでは、前回までの「にごり酒部門」に代わり、「スパークリング Standard部門」と「スパークリング Soft部門」が新設されました。このようなセミナーを通して、フランスのワインや食のプロフェッショナルたちが正しい知識を持ち、スパークリング日本酒の伝道師としての役割を果たしてもらうことが期待されます。

参加者の様子

永井理事長が特に強調していたのは、ワインの大量生産・消費国のフランスで、日本酒がワインやスパークリングワインと競合するのではなく、同じテーブルに共存して、フランスの食事とともに楽しんでもらうという将来像です。

協会設立に至るまでの10年近く、永井理事長は納得のいくスパークリング酒を造るため、フランス・シャンパーニュ地方を熱心に訪れたそう。泡の品質向上と管理について、シャンパーニュ生産者から教えを受けながら、試行錯誤を繰り返してきたといいます。品質に手応えを得た今は、フランス人にスパークリング日本酒を提供する、具体的な形を模索・研究しています。

Kura Masterの授賞式より数日前にawa酒協会のメンバーは渡仏。シャンパーニュ地方ランス市に赴き、最高級銘柄のひとつであるKrugやRuinartなどのメゾンを訪問しました。

そのとき、フランスを代表する最高級ホテル「レ・クレイエール」のエグゼクティブシェフであるフィリップ・ミル氏に、あらかじめ届けておいた協会メンバー13銘柄のスパークリング日本酒にあう料理を依頼。ペアリングランチを開催し、現地生産者やホテルの上顧客の方に体験してもらったそうです。

メニューは日本人の味覚に合わせずに組み立ててもらったものの、素晴らしい相性だったそう。新たな発見や学びが大いにあり、今後の展開につなげていきたいとのことでした。

パリ市内では、フランス人の食に欠かせないチーズや最高級のアペリティフであるキャビアのレクチャーを受け、ペアリングも体験し、フランス人の食習慣に対する理解を深めたそうです。

シャンパンと牡蠣

セミナーの後はプレミアム試飲会。蔵元の紹介がスクリーンに映し出されると、各々がフランス語で挨拶し、試飲会に移りました。用意されたのはawa酒協会の受賞酒と、それ以外のカテゴリーのトップ14の受賞酒です。

参加者は、ブルターニュ地方から取り寄せた新鮮な生ガキと日本酒との相性を試すことができました。

シャルキュトリ(食肉加工品全般のフランスでの総称)

フランス・シャルキュトリ(食肉加工品全般のフランスでの総称)協会は、日本での普及活動と、フランスでの日本酒のペアリングに注力していくそう。受賞酒の試飲会という素晴らしい機会に、日本酒とシャルキュトリの相性を試してもらおうと、フランス人がアペリティフとしてよく食べるおつまみを提供しました。

スパークリング日本酒への扉を開く

7月10日(水)には、パリ日本文化会館で「日本酒スパークリングとフレンチ食材のアバンチュール」と題したシンポジウムと試飲会が開催されました。こちらは一般向けのイベントで、参加者の多くが外国人でした。

第1部では、最初に一般社団法人awa酒協会の理事長である永井則吉氏が登壇。次に、今年からKura Masterに新設されたスパークリング部門の審査を取り仕切ったフィリップ・ジャメス氏による講演が行われました。続いて、審査委員長であるグザビエ・チュイザ氏とのパネルディスカッションや参加者との質疑応答が行われました。

永井理事長は、一般の参加者に向けてawa酒協会設立の目的や、協会メンバーに認定されるための原材料・製法・外観などの厳しい基準を説明。スパークリング日本酒とシャンパーニュ、スパークリングワインが、フランスで同じテーブルに共存して発展していくことへの希望と可能性について語りました。

フィリップ・ジャメス氏は、シャンパーニュ地方で25年間ソムリエに従事し、そのうちの19年はシャンパーニュ地方を代表するホテル「レ・クイエール」のシェフ・ソムリエを務めたスパークリングワインのスペシャリストです。

「スパークリング日本酒は、たいへんな手間をかけて複雑な製法によって生み出される、混じり気のない純粋なもの。ゆえに、自分自身が絶大な信頼を持って飲めるものである」と語りました。

特に、ワインと比べて人工的なものがなにも入っていない点、原材料の米や水と、自然との関係について繰り返し触れていました。「自然と人とをつないでくれる存在」と感じているそうです。

フィリップス氏

フィリップ・ジャメス氏と日本酒との出会いは、4年前に初来日したときのこと。スパークリング日本酒は、2018年10月に「レ・クイエール」で永井理事長と面会したときに初めて飲んで、その透明性・控えめな塩味・苦味・ミネラル感・水の味わいを面白いと感じたそうです。

スパークリング日本酒と相性の良いフランス料理についての質問には、「混じり気がなく泡が生き生きとしているので、驚くほど幅広い組み合わせで通用できます。さっぱりしたシーフードから鴨のような肉、しっかりした味付けの付け合わせ、スパイスやエキゾチックな風味のものにも合わせることができる」との回答。塩味や脂が強いものでも、泡がより美味しくしてくれるのだそう。

さらに参加者からは原料である米についての質問もあり、味わいの違いをもたらす要因などについての説明もありました。

兵庫県副知事の金澤和夫氏

講演会の最後には、兵庫県副知事の金澤和夫氏が、兵庫県とそこで造られる日本酒の魅力をアピールしました。

第2部では、イベントスペースに用意されたKura Masterのプラチナ賞受賞酒や金賞受賞酒、awa酒協会のスパークリング日本酒を試飲することができました。

パリ日本文化会館で開催された試飲会

講演会・試飲会の取材を終えて

今回の取材を通して、フランス人とフランスのマーケットに向けた審査基準を採用しているKura Masterと、これまでの日本人の目から見た日本酒の飲み方から踏み出し、フランス人の食文化と味覚を理解して現地の食生活に浸透していこうとするawa酒協会の試みが、同じ方向に向かっていることを強く感じました。

海外では、「イベントで人を集めることができても、その日本酒を買える環境が整っていない」「ブランドを覚えてもらえない」「受賞酒は日本で飛ぶように売れるが、海外での販売増には直接つながらない」といった苦労をよく耳にします。しかし、このような課題を解決するため、より多くのフランスの有識者や現場を巻き込みながらフランスで定着していこうという、強い意気込みが伝わってくる取材でした。

(文/中大路えりか)

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