日本酒の輸出先として、輸出金額と輸出量がともに1位のアメリカ。そのアメリカ西部に位置するネバダ州・ラスベガスでも、じわじわと日本酒の人気が高まっています。
ラスベガスは、カリフォルニア州のように大きな日系コミュニティがあるわけではなく、日本の企業も少ない都市です。そんな場所で、なぜ日本酒が人気なのでしょうか。
本記事では、現地で開催されている日本酒テイスティングイベントを通して、ラスベガスの日本酒事情をお伝えします。
和食人気が広がるラスベガス
ラスベガスは世界有数の観光都市。観光客が世界中から集まるため、ホテルはカジノ以外のエンターテインメントも充実させるようになりました。なかでも、最近力を入れているのが食の分野です。
ベラージオ・ホテル・アンド・カジノ、シーザース・パレス、ウィン・ラスベガス、ヴェネチアン・リゾートホテル・カジノなどの豪華ホテルには人気シェフのレストランが並び、食事とお酒に惜しみなくお金を使う観光客を引き寄せます。
和食系レストランのメニューにはプレミアム日本酒がラインナップされ、なかには日本酒に精通したソムリエがいるレストランもあります。日本酒に詳しくなくても、ソムリエに相談しながら好みの日本酒を楽しむことができるのです。「Junmai(純米)」「Ginjo(吟醸)」「Daiginjo(大吟醸)」という言葉もすっかりおなじみになりました。
ここに集まるのは観光客だけではありません。地元住民でも、他州から移り住んできた人が多いのがラスベガスの特徴。そのためか、新しいものや未経験のことでも抵抗なく受け入れる土地柄のようです。
ここ数年、ラスベガスで和食が広がっていることも日本酒人気のけん引役です。日本から空輸した魚介類を扱うレストランや「OMAKASE(おまかせ)」スタイルの和食の店が増えてきたり、和食をアレンジした繊細な料理を作るシェフが人気になるなど、賑わいを見せています。
知って、体験して、ファンになる
テイスティングイベントはラスベガスの日本酒ブームに欠かせません。一般向けのイベントでは、まず日本酒そのものを知り、体験してからファンになってもらうのが目的です。そのため、日本酒だけではなく、フードペアリングもいっしょに楽しめるようになっています。人気レストランの料理を味わえることも、テイスティングイベントの大きな魅力なのです。
イベントに参加するのは、20代からシニアまで幅広い年齢層。友だち同士やカップル、夫婦で参加して、料理と日本酒のペアリングを楽しんでいます。そんな日本酒テイスティングイベントのなかから、人気の高い3つをご紹介します。
Sake Fever(酒フィーバー)
まずは、毎年4月に開催される、ワイン&フードフェスティバル「UNLVino」です。
ネバダ州大手の酒類ディストリビューターが主催するファンドレイジングのイベントで、今年で45回目というラスベガスの伝統行事。集まった資金は、ネバダ州立大学ラスベガス校(UNLV)の学生の奨学金に充てられます。
テイスティングイベントが3日間にわたって行われ、その2日目に「Sake Fever(酒フィーバー)」と呼ばれる日本酒テイスティングの日が設けられています。会場には、地元の人気レストランが工夫を凝らしたフィンガーフードも。お酒の輸入・販売業者とレストラン、それぞれ20店ほどが会場であるホテルのプールサイドに集まりました。
用意された日本酒は、「出羽桜」や「越乃寒梅」など日本ではポピュラーなものから、初めて目にする銘柄まで約60種類。にごり酒やスパークリング酒、ココナッツやフルーツが使われているお酒なども並び、日本酒に飲み慣れていない人でも楽しめるラインナップです。
見逃せないのが、「Sake Fever」恒例のパフォーマンス・約140kgのマグロ解体ショーです。見応え十分、マグロも食べ応え十分。見ているだけでもお酒が進みます。
生産地や精米歩合、アルコール度数、おすすめの温度帯などが書かれたカードを用意していたブースも。日本酒を初めて飲む人にとってはわかりやすいですね。
おつまみは和食だけでなく、ベトナム料理やタイ料理を扱う、地元で人気のレストランが腕をふるった一品も勢ぞろい。市内の老舗タイレストランでは、タイ風に味付けされたマグロのポキが用意されていました。
「Ringing in Reiwa」
次は、新しい元号「令和」を祝うイベント「Ringing in Reiwa」。高級ブティックホテル「NOBU Hotel」の最上階にあるペントハウスで開催されました。
集まったのは、和食レストラン関係者を中心に80名ほど。「出羽桜」の鏡開きを皮切りにイベントが始まりました。
令和を祝うイベントということもあり、配られたお酒は金箔入りです。枡は持ち帰り可能なので、参加者は大喜びでした。
日本酒は、「真澄」や「奥の松」など11種類が並びます。レストラン「NOBU」が作る、魚を中心とした12種類のおつまみとのペアリングも楽しめました。
「NOBU」は、全米No.1のレストランガイド「ザガット・サーベイ」のレストラン部門で1位を飾るほどの有名店。ニューヨークやロンドン、東京など世界の各都市に約30店舗を構えており、会場である「NOBU Hotel」と同じく、日本人シェフ・松久信幸さんが経営しています。
人気だったのは、スパイシーツナが添えられたクリスピーライス。カリカリのご飯とマグロの食感がなんとも楽しい一品です。
新潟県佐渡市・北雪酒造が造る、「NOBU 純米大吟醸」も試飲できました。レストラン「NOBU」を経営する松久さんが北雪酒造のお酒を高く評価したことから、北雪酒造と「NOBU」は日本酒納入の独占契約を結んでいるのだそう。
限られた機会でしか味わえない、貴重なペアリングを体験することができました。
「Sake Pavilion」
最後にご紹介するのは、「ラスベガス秋祭り」です。日系コミュニティのボランティアスタッフによって毎年10月に開催されている一大イベントで、9回目の開催を迎えた昨年は約15,000人の参加者で賑わいました。
お神輿や盆踊りのほか、日本食レストランによる屋台も並び、日本のお祭りのような雰囲気が特徴です。
そのなかの目玉となるのが、「Sake Pavilion(酒パビリオン)」という名の日本酒テイスティングイベント。ラスベガスでの日本酒人気の高まりを受けて、昨年に初めて企画されたものです。
テイスティング会場には50種類ほどの日本酒が並び、枝豆やひじき、野菜スティックなどのおつまみも用意されています。来場者は約100名ほどで 、日本酒について熱心に質問をしている人が多く見られました。
寄せられた質問に答えるのは、普段は和食レストランで働いている日本人。海外のイベントを日本人が縁の下の力持ちとして支えているのは、同じ日本人としてなんだか誇らしいですね。
和食とともに、日本酒が親しまれる
ラスベガスで開催されるさまざまな日本酒テイスティングイベントにおいて、和食は欠かせない存在でした。その人気が日本酒の人気にもつながり、日本酒を楽しむ層が増えているようです。
日本酒と和食。両者がお互いに引き立て合いながら、ますますラスベガスで広がりを見せていくことでしょう。
(文/石川葉子)