日本酒の輸出量第3位を誇る台湾(『酒類食品統計月報』2017年4月号より)は、親日としても知られています。台湾から日本への旅行者も多く、2016年は416万人。台湾人のおよそ6人に1人が来日しているのです 。

そんな台湾で、日本酒がどのように親しまれているのか、実際に現地を訪れて取材してきました。

ラーメン、牛丼、寿司......日本料理が浸透している台湾

台湾の人口は約2,300万人。しかしその面積は、およそ140万人が住む奈良県とほぼ同じ大きさです。年間を通して温暖な気候で、冬でも平均気温が15℃を下回ることはないのだそう。

日本との時差は1時間。成田空港から桃園国際空港までは4時間弱とアクセスも良く、空港から台北市内への移動も、2017年2月に開通したMRT(電車)のおかげで簡単になりました。

映画の舞台にもなったノスタルジックな街並みが楽しめる九份や、美味しいご飯がリーズナブルにたくさん食べられる夜市、台湾のヴェネツィアとも呼ばれる淡水など、見所が盛りだくさんの台湾。

中枢都市である台北市内には、驚くほど多くの日本料理店が軒を連ねていました。ラーメンや牛丼、回転寿司、焼き肉、定食屋......日本でも見慣れた老舗デパートからコンビニエンスストアまで、歩いていると必ず日本語の看板が目に飛び込んできます。

台湾に根ざしている外食文化

台湾では、家で料理を作るよりも外食する人が多いのだそう。日系の牛丼チェーン店では、日本円で1杯550円前後、レストランでは前菜1品が約740円~。日本に比べると少し高いようです。地元の人が日常的に食事をするのは屋台が中心。提供される料理が約180~250円と安いことが大きな理由になっています。屋台が立ち並ぶ夜市に行ってみました。

活気のある屋台が立ち並び、美味しそうな香りが漂います。日本の夏祭りに似た雰囲気ですが、日本では必ず目にするものが販売されていません。それは、ビールなどのアルコール類。

台湾では、食事と飲酒を別々に楽しむのが一般的なのだとか。食事をするときはお茶などの冷たい飲み物で喉を潤し、バーなどでお酒を楽しんだり、友人同士で集まったりするのは食後が多いようです。

お酒はどのようなものが好まれているのでしょうか。

台湾におけるアルコール消費のシェアを見ると、約50%のシェアを誇るビールに次いで、ウイスキーや「高梁酒」と呼ばれるとうもろこしやじゃがいもを原料とした蒸留酒が続いています。アルコール度数の高いものが好まれているようですね。

さらに驚いたのは、みんなで乾杯をしたグラスはすべて飲み干すのが基本だということ。「〇〇さん、乾杯しましょう!」と名指しで何度も乾杯をし、どんどんお酒を飲み干していました。お酒を楽しみながら、たくさん飲む文化なのかもしれません。

日本酒は地元のレストランでも人気!

高いアルコール度数のお酒に慣れているせいか、日本酒に対しては「飲みやすい」という声が多いそうです。日本酒は、どのような人がどのように楽しんでいるのでしょうか。

日本酒を提供している地元の台湾料理店「金稻子餐廳」を訪ねました。台湾の社会人に人気のお店です。店長の劉(リュウ)さんは、親しみのある笑顔でお客さんの様子について話してくれました。

「お客様から『日本酒を飲みたい』という要望をいただいて、日本酒を置くようになりました。人気メニューの鍋を囲んで、大勢で日本酒を飲んでいますよ」

店内で見つけたのは、台湾企業「TTL(Taiwan Tabacco & Liquor Co/臺灣菸酒股份有限公司)」が醸造している清酒「玉泉」。台湾清酒市場において、およそ60%ものシェアがあるのだそう。やわらかい味わいのお酒で、現地料理に特有の油っぽさをさらりと洗い流してくれました。日本に統治されていた時代に日本人が改良してつくったジャポニカ米「蓬莱米」を原料としています。

台湾風にアレンジされた日本料理が提供されている居酒屋にも訪れました。

「焼鳥串道」というお店は、焼かれる前の串と値段表を見比べて店頭でオーダーするという変わったスタイル。鶏肉に限らず、牛肉や海鮮など豊富なメニューが並んでいました。

「当店では、180mlの小瓶に入った日本酒を多く用意しています。見た目がかわいいので、女性にも人気ですね。お猪口に氷を足して飲む人が多いです」と、オーナーの許(チェス)さんは話します。

日本酒の仕入れは、許さん自身が試飲して決めるそう。「獺祭(旭酒造/山口県)」や「賀茂鶴(賀茂鶴酒造/広島県)」は日本酒に詳しくない人でも知っている、人気銘柄なのだとか。

濃い味わいの料理に合わせて日本酒をオーダーするお客さんが多いようで、串焼きをつまみにお酒を楽しむたくさんのお客さんでにぎわっていました。

現地のスーパーやコンビニで気軽に買える日本酒

続いて、地元のスーパー「頂好Welcomeスーパー」をのぞいてみましょう。ドリアンなどのフルーツが山盛りで売られているところが台湾らしいですね。

酒売り場には、紹興酒などと並んで「玉泉」や日本酒が販売されています。台湾で醸造されている「玉泉」は約600円ともっともリーズナブルで、月桂冠(京都府)のお酒も780円前後の比較的手に取りやすい価格で提供されていました。この月桂冠のお酒は、現地企業と共同で製造している清酒なのだそうです。

地元のコンビニエンスストア「Hi-Life」のお酒売り場には、小さなスペースにたくさんの種類のお酒が並んでいました。

右下には赤いカップ酒、中央上部には清酒の瓶が並んでいます。店長の話によると、カップ酒は主に若い人が、瓶は年配層が買っていくのだそう。ウイスキーや「高梁酒」の品揃えが多い点にも、台湾の飲酒文化が現れていますね。

なんと、日本酒専門店もありました。その名も「SAKAYA(サカヤ)」

オーナーは日本酒学講師会の台湾代表を務める謳(オウ)さん。輸入代理の仕事も行っているそうです。謳さんがデザインしたという内装はとてもおしゃれで、地酒といっしょに、酒器や日本酒をベースにしたコスメも販売されています。

店長の呉(ゴ)さんに、お店のこだわりについて話をうかがいました。

「他のお店では手に入りにくいような、バラエティーに富んだお酒を揃えています。商品の入れ替えも頻繁に行っており、最近では『獺祭(旭酒蔵/山口県)』や『真澄(宮坂醸造/長野県)』『風の森(油長酒造/奈良県)』『水芭蕉(永井酒造/群馬県)』『醸し人九平次』(萬乗醸造/愛知県)』『鈴鹿川(清水清三郎商店/三重県)』などのお酒が人気ですね」

酒類の関税が40%もある台湾では、日本から輸入されたお酒は約3700円~と高価です。そのためか、旧暦の正月にギフト用として購入されるお客さんが多いとのこと。

幅広い層が来店するという「SAKAYA(サカヤ)」。特に最近は若いお客さんも増えてきているようで、果実酒なども人気だそうです。

台湾でしか飲めない清酒を求めて

たくさんの量を飲み、仲間とともに酔いを楽しむ台湾の飲酒文化。コストパフォーマンスの観点からも、少量ですぐに酔うことができる高アルコール度数のお酒が好まれる台湾では、まずは現地醸造のお酒や普通酒などの経済酒が、台湾の清酒市場を牽引していくのかもしれません。

「玉泉」や月桂冠が現地代理店と共同開発した清酒は、台湾でしか飲めないお酒です。やわらかな味わいで飲みやすく、油っこさをさらりと洗い流してくれるので台湾料理との相性も抜群。台北市内のスーパーやコンビニ、日本酒を置いているレストランであればどこでも目にすることができるので、台湾へ行った際には、ぜひ一度試してみてください。

(取材・文/古川理恵)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます