台湾在住のライター謝ひかりです。「どラブ日本酒」な視点から、台湾文化のあれこれを紹介しています。
「元来、百人が食べて百人ともうまいと感ずるものは案外愛着を覚えないもので、八方美人に生命を賭ける愛人が現れないようなものである。すべて異味珍味と呼ばれるものには一種のクセがある。本当にウマイものはもともと誰にも好かれる性質のものではなくて、むしろ逆に多くの敵を持つものであろう」
これは80年代のバブル期に「株の神様」と呼ばれ食通としても鳴らした台湾出身の直木賞作家、Qさんこと故・邱永漢(きゅう・えいかん)氏のおことば。
日本の酒肴でいえば、鮒ずし、ほや、へしこあたりか・・・。
台湾の食べ物にも「日本人の口にはちょっと・・・」というのは少なくありませんが、Qさんがいみじくもいったように段々と
「このクセがたまらないの、とりわけお酒とあわせると・・・!!!」
と身悶えするほど好きになっちゃう(かもしれない)クセモノが存在するのは確か。
年末年始といえば海外旅行シーズン。親戚やご友人、はたまたご自分で台湾まで足をのばされる方も多いことでしょう。
とうわけで、いちどはお試し頂きたい「日本酒にあう台湾みやげ」をご紹介いたします。
台湾皮蛋(台湾ピータン)
アヒルの卵を熟成させたピータン。
なかでも表面に松の葉模様ができるものは「松花皮蛋」と呼ばれ、高級品として重宝されています。台湾産のピータンのほとんどがこの松模様をもっていて、黄身はとろりと半熟状。日本では比較的高価で手に入りにくいおいしい台湾ピータンを、ぜひ買ってかえっていただきたいものです。
イチオシは羅東地方の農協が作っているオーガニック・シリーズの「養生皮蛋」。
この地方に湧く豊富で清浄な地下水に育まれたピータンは、筆者がこれまで試してきた数々のメーカーなかでも味はピカイチ、また台湾畜産試験場及び台湾大学畜産学部の研究協力により伝統的な製造法上で問題視されてきた「鉛中毒」の問題を完璧にクリア。ピータン好きにはたまらない逸品です。
オーガニック食品店のほか「松青スーパー」や「台湾大学購買」にて販売中
◎養生商品
豆腐乳(豆腐よう)
日本酒バーなどの酒肴でおなじみとなった沖縄の「豆腐よう」。
もともとの名は「豆腐乳(ドウフールー)」= 豆腐を麹で発酵させた発酵食品で、明の時代に中国から琉球につたわりました。
台湾人にとっての「白がゆ×豆腐乳」は、日本人にとっての「炊きたてごはん×生卵」的な鉄板アイテム。おススメは台湾産のオーガニック豆腐乳(スーパーや有機食品店で購入可)。
チーズの味噌漬けのようなヒネた香りを嗅ぐと「のむっきゃナイ!」という気持ちになってきます。
豬肉紙(薄型ポークジャーキー)
台湾にきてまず、おいしいとおもったのは鶏肉、そして豚肉。
とくに豚肉は旨みがどっしりとして、アブラ部分も香ばしいのです。そんな台湾豚で作られた、紙のようにペラペラになったポークジャーキーが「豬肉紙」(豬とはイノシシではなく北京語で豚の意)。
これ、最初は慣れない香辛料の匂いにクセをかんじますが、食べ慣れるとハマっちゃうおいしさ。肉好きなら、いわずもがな。
すっきりしたお酒のぬる燗で舌を洗いながらパリパリ食べてよし、旨み系を冷やでガッツリいくもよし。
鉄蛋(鉄卵)
台北の郊外、海辺の街「淡水」の名産品。うずらや鶏の卵をエンエンと醤油でひたすら煮込んだ後に乾燥させたもの。
まずこの黒さがインパクト大で見るからに珍味。
最初は消しゴムみたいな歯ざわりですがお味は意外にあっさり素朴、ぐりぐり噛んでいると燻製のような旨みがジワッと口の中にひろがります。淡水までいかずとも、スーパーで真空パックも売っており日持ちもします。酒のアテとして是非お試しいただきたいです。
烏魚子(カラスミ)
日本酒のまさに「無二の親友」ともいえるカラスミは、塩漬けにしたボラの卵巣を天日干したもの。
日本国内の産地では長崎なども有名ですが、一説によるとボラは台湾沖に回遊してくる頃あいでいちばん卵巣が成熟するとか。その真偽はともかく、日本産にくらべて安価でネットリした歯ざわりが特徴です。
おいしいカラスミを選ぶコツとしては
・大きめのもの(値段は高くなるが脂がのっている)
・乾いておらず、色味の良いもの(黒っぽいのは血抜きがうまく出来ていない)
・身からうっすら脂が染み出しているもの(脂がのっている)
冒頭で紹介したQさん(邱永漢氏)の御父上は、台湾の古都・台南の裕福な商人でいらしたそうですが、大の酒飲みで肴には相当うるさかったよう。
その御父上が殊に愛されたのが、このカラスミ。
わたしの座右の書である、邱永漢・著「食は広州に在り」にはこう記されています。
「炭火をカンカンにおこした上で、パリパリと音がたつほど焼くのであるが、まずその前に、カラスミの薄皮をとることと、熱度の高い火であることがコツで、表面はきれいに焼けて香ばしくなりながら、中は熱くなった程度でならなければならない。それを一分(いちぶ)ぐらいの厚さに切って生にんにくの白いところを薄く刻んだものとつけ合わせて食べるのである。これがカラスミのいちばんうまい食い方であるが、日本では大料亭でも生のまま出す所が多いらしい。私たちに言わせると、高価なものをほんとうにもったいないと思う。」
写していると、吟醸の冷酒でも1杯という気分で鼻息が荒くなってきました。
炭火がなければ焼き網かフライパンでもOK。芳ばしく焼けてプチプチとした表面を噛みしめると、ゆらゆらと海の薫りが立ちあがり酒欲をそそります。
株・不動産投資に成功し日本にはじめてコインランドリーを開業、晩年は中国雲南でコーヒー畑を開くなど、アジアを股にかけた実業家・作家・美食家と多彩な顔をもっていたQさん。
2012年に88歳でこの世を去るまで、人生を貪欲に走り抜けたその生き様のダイナミズムは、「台湾」の数奇な歴史やパワフルさとイメージがかさなり、折にふれ残された言葉が蘇ってきます。
ただ惜しむらくはQさんが酒飲みではなかったこと。
もしお酒好きだったらどんな面白い酒エッセイを書いてくれただろうと思うと、すこし残念な気もするのです。
◎引用元
・邱永漢(1975)食は広州に在り/中公文庫
・邱永漢(1975)象牙の箸/中公文庫
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