長野県佐久市にある、武田信玄の二十四将のひとり「原虎胤」がルーツだという千曲錦(ちくまにしき)酒造。1681年に佐久市岩村田で酒造業を始め、1962年に現在の場所へ移転したそうです。広大な敷地には、長野県では珍しい精米蔵や3階建ての仕込み蔵がありました。
大量の仕込みにも吟醸造りにも対応できる酒蔵
まずは精米蔵。
長野県内の酒蔵の多くは大町市にあるアルプス搗精(とうせい)工場に精米を委託していますが、千曲錦酒造は大きな精米機を所有しているため、自社で精米をしています。
続いて、大きな「千曲錦」の看板がひときわ目立つ建物へ。
こちらは仕込み蔵です。
仕込み蔵は3階建てで、上の階から順に洗米、仕込み、貯蔵を行います。
仕込みの量が多いため、大きな連続式蒸米機が導入されていました。ここで蒸された米の一部は麹室へ。
大量の蒸米を大きな切り返し機でまとめて麹にしていきます。
酒母タンクもたくさんありました。取材時はまだ本格的な仕込みの時期ではありませんでしたが、造りが始まるとこの酒母タンクがフル稼働するそうです。
搾りはヤブタ式。2台ありますが、現在は1台しか使用していないとのこと。急ピッチで仕込み前のメンテナンスをしているところでした。
どの貯蔵タンクも非常に大きく、驚かされます。銘柄の数が多いため、広い敷地の中に無数のタンクがびっしりと並んでいました。
焼酎の製造も手がけている千曲錦酒造。焼酎の貯蔵場にも案内していただきました。うっとりするような樽の香りが充満していて、神秘的な空間です。場内にクラシックが流れているのは、「焼酎がリラックスしてまろやかに熟成していく」ためだそう。
焼酎の出荷もあるため、瓶詰め場はほぼ毎日稼働しています。
これだけ生産効率の良い設備を持っていながらも、吟醸酒は昔ながらの手作業で造られているのだとか。そのため、小さいサイズの甑が使われていました。
麹造りも、蓋を使って少しずつていねいに行われます。
千曲錦酒造はシステム化と手造りが混在している蔵なんですね。
杜氏に聞く、千曲錦の酒造り
佐久エリアにある13蔵のうち、3階建の蔵を持っているのは千曲錦酒造のみ。
杜氏の重田さんに、上から下へ進んでいく仕込みは効率が良いのではと問いかけると、「千曲錦酒造に入社してから、ここでの酒造りしか経験してきませんでした。ただ、横に広い酒蔵で、すべてに目が行き届くような酒造りもやってみたいですね」と話していました。
「千曲錦」一筋の重田さんが手をかけ心を込めて醸したお酒は、その誠実さが伝わってくるようです。特に「吉田屋」シリーズは、旨味が強く、酸とコクのバランスが良いため食事と合わせやすいでしょう。
無農薬栽培の「いのちの壱」を使った、低精米のお酒にも注目。精米歩合90%は初めての挑戦だそうで、麹造りからたいへん苦労したそうです。
低精米でも雑味は少なく、米の旨味をしっかりと感じられるため、熟成させても美味しく変化するでしょう。これから造りの回数を重ねるごとに、酒質も上がっていくと思います。今後が楽しみになるお酒でした。
地元目線のお酒を醸す
代表の鎌田さんは、もともと営業の出身。千曲錦酒造のブランド「帰山」を首都圏でも目にすることができるのは、鎌田さんの営業力によるものでしょう。「今までは東京を強く意識していましたが、今後は地元の農家と協力し、地元目線のお酒を造っていきたいと思っています」とのことでした。
鎌田さんと重田さんが特に力を注いでいるのが「千曲錦」。立科町の契約農家が栽培した美山錦を使っている純米酒で、地元のみに流通している商品です。価格はなんと一升瓶で2,000円。地元の方々も、晩酌用に購入していくのではないでしょうか。
見学できる箇所は一部ですが、一般の見学も受け付けているのだそう。敷地内には、試飲が可能な広々とした売店もありました。
一度に何種類もの銘柄を試せるのはうれしいですね。気に入った銘柄があれば、その場で購入も可能です。佐久市の近くを訪れたときは、ぜひ千曲錦酒造に寄ってみてはいかがでしょうか。
(文/まゆみ)