日本酒を知る

日本酒を楽しむ

日本酒を考える

特集

古きと新しきの融合で良酒を醸す──島根県松江市「李白酒造」を訪ねて 〜その1〜

> > > 古きと新しきの融合で良酒を醸す──島根県松江市「李白酒造」を訪ねて 〜その1〜
このエントリーをはてなブックマークに追加

島根県松江市内にある李白酒造は、創業明治15年。今年で135年目を迎える酒蔵です。

「李白」という名前は、松江市出身の内閣総理大臣であった若槻禮次郎氏が命名したもの。酒を愛し、讃えた詩で知られる中国唐代の詩人、酒仙李白に由来しています。


昭和5年当時の様子

現在、年間の生産石高は約1600石、大小15本ほどあるタンクを4回転させ、60本ほど仕込んでいます。従業員は25人、うち製造部の8人で仕込みを行っています。

昭和50年代、日本酒業界で桶売りが盛んな時期がありました。その当時、李白酒造ではいちはやく桶売りをやめ、質の高い自社の酒を造り続けました。そのこだわりが、現在の高級志向へのシフトにもつながっています。

20年以上続けている海外での啓蒙活動

李白酒造の酒を意外なところで目にするかもしれません。それは香港。

なんと、香港の高級スーパー「City Super」などで李白を購入することができるのです。

海外進出をはじめたきっかけは、平成3(1991)年に西武百貨店が香港へ初の海外出店をしたこと。その後も日本文化のひとつである日本酒を世界に広めるため、そしてより良い品質の日本酒を正しく飲んでもらうために、海外で積極的に啓蒙活動をしています。

アメリカにある輸入会社との取引をはじめ、海外での販売を促進するために、英語版の精米見本「ライスポケッツ」などの販促グッズをつくったり、酒の名前を憶えてもらいやすいように、純米吟醸には「Wandering Poet (放浪の詩人)」、特別純米のにごり酒には「Dreamy Clouds (夢の雲)」というニックネームをつけたり、精力的に活動してきました。

日本酒が海外でも広く飲まれるようになったのは、李白酒造をはじめとする、たくさん酒蔵がこのように努力したからではないでしょうか。

手仕事と機械化、それぞれの利点を取り入れた酒造り

李白酒造では社員を年間雇用し、冬の仕込み期でも蔵人が休めるような働きやすい体制づくりをしています。以前は季節雇用の職人たちが積み重ねた経験をもとに酒造りをしていましたが、限られた人数で安定した酒質が得られるような方法に変えました。

機械化・データ化をすすめながら、人の手をかけなければならないところは人の手をかけ、取引先や飲み手に安定した量を供給できるように設備投資を行っています。

たとえば、麹を造るためのこの機械。

大吟醸酒を除く酒の製麹過程では、この機械を一部に導入しました。

室に引きこんだ米は、まず人の手でほぐされます。

その後、機械中の棚へ、1枚1枚盛っていきます。機械を導入したことによって、夜中に泊まり込んで麹に手をいれる仕事がなくなり、社員が負担が減りました。

出来上がった麹

天井に開けられた無数の穴は、効率的な酒造りのため

写真手前の建物は昨年建設した大型冷蔵施設です。ここには、年間生産量の約6分の1もの酒を収容できるそう。この冷蔵設備ができたことで、瓶詰ラインの負担軽減と商品の安定供給が実現しました。酒造りは写真の後方に見える「酒仙蔵」で行われています。

この「酒仙蔵」は昭和43年から使われていて「中は3階建てだが、5階建て相当の高さ」という、なんとも不思議な建物だとか。

息を切らせながら階段で3階へ上ると、松江城を眺めることができました。3階では洗米、蒸し、製麹の作業を行っています。

手前の青い箱の中には洗米した米が準備されていました。

あたり一面に広がる、蒸し米の良い香り。

蒸しが終わったばかりの甑(こしき)。米が何段もの層になって蒸されていました。蒸米は、隣にある放冷機と酒室に運ばれます。

ふと足元を見ると、そこには大きな穴が。近づいて中を見てみると...。

階下の醪タンクにつながっていました。3階で準備した蒸米や麹を、シューターを使い、重力にまかせて上から下へと降ろします。李白酒造では、ひとつの仕込みで使う米の総量は、およそ 500kg から 2,500kg くらい。そのため、麹や蒸米の量も多いのです。

シューターが伸びる2階の様子

1階に降りて天井を見上げてみると...

ありました。やっぱり穴が。しかもあちらこちらに!

1階では、醪を搾り、貯蔵しています。

李白酒造では、醪を搾るためにヤブタと2つの槽を使っています。この槽では純米吟醸と大吟醸、みりんも搾っています。

槽はかなりの深さ。蔵人が体を"くの字"に折り曲げながら、中の醪が漏れないように袋を積んでいきます。均等に搾れるように全体のバランスをみながら、迅速かつていねいに作業を進めます。

この日は大吟醸「月下独酌」の 480kg仕込みをやっていました。これを搾るために必要な袋は約300枚。酒袋1枚1枚に醪を入れていきます。30時間くらい経ったら一度すべてを取り出し、積み替えてさらに搾ります。

長年使用されている「酒仙蔵」の中は新旧あいまった設備ですが、蔵人が動きやすく、酒造りに適したすばらしい環境になっていると感じられました。

単に増産を目指すだけではなく、安定供給を実現し、消費者の信頼を得るための設備投資。飲む人たちの信頼を得なければ後世へはつないでいけないという、李白酒造の酒造りへの姿勢が伝わってきます。

(文/あらたに菜穂)

関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加

ライター募集中!

あらたに菜穂

1980年代の地酒ブーム以前から酒販店さんと全国の酒蔵をまわり、地酒を扱ってきた父の影響を受け小さい頃から日本酒に囲まれて育つ。やるとなったらとことんやる性格のため毎年、仕込み時期の酒蔵に数日修行へ。日本酒と焼酎の唎酒師ではあるが自分の味覚と嗅覚に絶対の自信を持つために酒類総合研究所の清酒官能評価者になるまで唎酒師を名乗らないことにしている。