フルーツ王国としても知られる山梨県のお酒と言えば、ワイン。そう思っている人も多いかもしれません。しかし、自然豊かな山梨県には、きれいな水や美味しい米があります。それはつまり、山梨県にも魅力的な日本酒があるということでしょう。

山梨県内にある酒蔵の数は14。他県と比べるとそれほど多くありませんが、それぞれの酒蔵が力を合わせて、個性ある山梨清酒を発信しています。

地域の子どもたちが集まる酒蔵

山梨県南アルプス市は、日本で初めての"カタカナを使った市名"としてニュースになりました。この地に、今年で創業140年を迎えた酒蔵、太冠酒造株式会社があります。昔ながらの集落に佇む蔵は、近所の小学生が学校帰りに立ち寄るような、地域に根ざした古き良き場所。

「小さな蔵だから、できることも限られちゃうよね。いろいろなところへ足を運んで持ち帰ってきて、まずはできることからチャレンジしていく。その繰り返しかな」

優しい笑顔で力強く話してくれたのは、太冠酒造株式会社の社長を務める大澤慶暢さん。

取材に訪れたこの日は、蒸し暑い梅雨の時期。蔵は休みに入っていました。蔵の中はひんやりと静かで、外の暑さを忘れてしまうほどでしたが、寒い季節がやって来て酒造りが始まると、この場所も活気に満ち溢れるのでしょう。

どんな香りが立ち込めるのだろうか。この機械はどんな風に動くのだろうか。好奇心を駆り立てられます。

太冠酒造は、山梨県産の山田錦を使用した「太冠」が代表銘柄。その他に、女性の心をくすぐるような商品も造っています。

こちらは、南アルプス市の特産品であるソルダムを純米酒に漬け込んで熟成させたリキュール「ソルダム」。フレッシュな香りと酸味、甘みが感じられる上品なお酒です。ソルダムの風味をより感じやすい、ロックで飲むのがおすすめだとか。

地元にある「黒富士牧場」の放牧卵と山田錦の純米大吟醸でつくったパウンドケーキ「清香芳」は、日本酒の風味をほんのりと残した大人気のケーキです。しっとりとした味わいで、日本酒に抵抗のある女性でも美味しくいただけますよ。スイーツで日本酒デビューというのも良いですね。

地元に伝える、日本酒の魅力

「山梨県産の美味しい酒米をつくろう!」という思いから、大澤社長は8年前に新たな活動をスタートさせました。県内の園児や小学生、若者たちといっしょに、遊休農地を活用して山梨県産の山田錦を栽培するプロジェクトです。

園児とともに田植えや稲刈りをしたり、発表会の授業に参加したり、甘酒をつくったり...さまざまな企画を通して、その活動は広く知られていきました。

「アルコール離れが進んでいる今、日本酒についてもっと重要なところから話すべきでは?と考えるようになりました。米を無駄なくいただくことの大切さなど、若いときに学んだ経験はいずれ大人になったときの日本酒愛にも繋がるはず。時間の許す限りで、地域の方々とさまざまな活動に参加しています。おもしろいですよ!」

と、次世代へつながる酒造りについて語る大澤社長。

「昔、お酒は地産地消のものと思われていました。でも今は、そうとも言い切れません。時代の流れとともに日本酒のスタイルも大きく変わってきているんですね。そのなかで、私たちができることをきちんとこなしていくことが大事でしょう。小さな酒蔵だから難しいときもあります。それでも、みんなで力を合わせてやっていく。その思いが大切ですよね」

次世代へつながる酒造り

「山梨県は東京から近く、富士山もあるので、海外からの観光客が多い県です。日本酒は海外でも人気が出てきているので、もっと広い視野でPRしていきたいですね。若い女性たちにももっと気軽に日本酒を楽しんでもらえたらうれしいという気持ちもあります。昔から日本酒は神聖なお酒と言われてきましたが、近年その姿が変わってきました。日本酒の魅力を女性から発信してもらうことで、今までの視点では見つけられなかった新しい発見ができそうですね」

大切にしていることを守りながらも、次世代への期待も忘れない大澤社長。日本酒だけなく、山梨県のこと、これからの子どもたちのこともしっかりと見つめていました。

(文/堀内 麻実)

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