突然ですが、日本酒好きの皆さんは酒蔵ツーリズムという言葉を耳にしたことはありませんか?
酒蔵ツーリズムと言えば、観光庁の「酒蔵ツーリズム推進協議会」の発足など、 国も力を挙げて勧めている、酒蔵解放や酒蔵体験の事業です。 現在、日本に観光でやってきている外国人数は1300万人/年間を超え、 2020年までには2000万人を目標としています。
その目標実現のために、日本酒業界としても酒蔵ツーリズムの重要性は高まる一方です。 今回は、若干26歳にして酒蔵ツーリズムで事業展開を行う株式会社アンカーマンの和田直人さんに お話を伺ってきました。
蔵元と海外をつなぐ架け橋になりたい
株式会社アンカーマン代表和田直人さん(以下和田さん):
「アンカーマンは2014年5月に創業したまだ2年目のベンチャーです。 事業は主に酒蔵ツーリズムの自社開催、蔵元の輸出支援です。 これまでに20の蔵元へ海外旅行客を中心としたお客様をご案内し、 観光庁の公認事業者の認定もいただいています。また、近年増加し続ける外国人観光客・滞在者向けに日本酒を広めるイベントを多数開催するなど、日本酒文化体験をご提供しています。
都内の高級外資系ホテルやユースホステルなどと提携し、各ホテルのバーラウンジへアンカーマンから日本酒を卸しています。バーラウンジのコンシェルジュが日本酒を海外のお客様にご提供し、興味を持たれた方に向けてオプショナルとして酒蔵ツーリズムをご提案しています。
これは、実際に日本酒を味わっていただき、その後、その日本酒の醸造元へ足を運んでいただくというルートをご提供することで、海外の方の日本酒そのものへの理解に一貫性をもたせることを狙いとしています。舌だけでなく、五感で日本酒を体験していただくことで日本酒の多方面からの魅力を知っていただけるのではないでしょうか。
そして、まだまだ海外での日本酒に対する理解度は低いと感じています。これは笑い話なんですが、今年2月にメキシコを訪れた際に、日本酒の試飲会の席でメキシコの方から『テキーラと日本酒ってどっちがアルコール度数高いの?』と聞かれたんです。笑
もちろん、海外の方の中にも日本酒に詳しい方はいらっしゃいますが、それは本当にごく一部で、まだまだ日本酒は世界に浸透していないんだと実感しました。」
証券マンの時に感じた日本酒の可能性に架けたいと思った
(株式会社アンカーマン代表 和田直人さん)
和田さん:「僕は2013年までは証券会社に勤務していました。 上野エリア担当だったのですが、浅草や下町が近いこともあり、外国人観光客の方が多数訪れていました。
震災後の2011年は、外国人観光客数は622万人にまで減少していましたが、 昨年2014年は1,342万人と倍以上の増加を見せていました。また、アベノミクスに伴う株価の急激な上昇も手伝い、このような機運の中でなにか新しいことをやるならこの流れに乗じたいと考えていました。
僕は、当時から日本酒がとても好きだったのですが、日本酒の国内需要は下降の一途を辿っていました。一方で、海外への日本酒輸出額に関しては和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、上昇傾向にありました。
そんな当時の世情と日本酒とを絡めてなにかできないか。それには日本酒を海外の方々にもっと飲んでいただくわかりやすい仕組みをつくり、日本酒を広く世界へ発展させたい、そう考え、まずは輸出業での起業に至りました。」
多くのお客様を案内して気づいた可能性
(酒蔵ツーリズムの様子。酒蔵で日本酒を通じて異文化交流!)
和田さん:「2014年の5月から現在までで20の蔵元へ数多くのお客様をお連れしてきました。国でいえばアメリカやフランス、ドイツをはじめ欧米の方やオーストラリアの方々が多いですね。もちろんアジア圏の方々も多くいらっしゃいます。 その中で感じたことは、やはり「日本酒はおいしい」ということ。
これまでは物珍しさで飲まれていた印象でしたが 特に和食とのマリアージュにおいて、日本酒の持つ「旨味」は世界中の方に評価される 素晴らしいものだと気づきました。
ツーリズムを終え、帰国する際に見学した蔵元の日本酒をおみやげで持って帰るような動きも作っており、 実際に蔵元を見学された方の80%が商品を購入し、本国へ帰られています。 このように、アンカーマンの事業は蔵元を知り、体験し、ファンになる、という過程を 短期間で完成させることのできるものだと更なる可能性を感じています。
僕は、日本酒が好きなのはもちろんなのですが、日本酒の裏側にあるストーリーにとても興味があります。心を鷲掴みにされるというか。もともとすごく好奇心が強いタイプなので、特に好きな日本酒に関しては日本酒のどんなことにでも知識欲が止まらないんですね。
全国いろんな酒蔵をまわりましたが、どの酒蔵の方に聞くお話にもそれぞれのロマンがあり、それぞれの感動がありました。それをみなさんに直に知って体験していただきたいと考えています。そして、そこにいたるまでの過程をアンカーマンがつくりたい。国内外みなさんの酒蔵イメージを「酒蔵=訪れる場所」に再定義したいですね。」
アンカーマンの今後
(6月29日開催の英語で学ぶ日本酒ワークショップ終了後に参加者のみなさんと。)
和田さん:「訪日外国人は年間でのべ1300万人が訪れており、リピーター数も増加傾向にあります。そのため、海外の方々向けの日本酒事業にまだまだ伸びしろはあると感じています。
先日、とある業界セミナーでお話しする機会をいただきまして、日本酒蔵元の酒蔵ツーリズムを生かしたビジネス展開についてお話しさせていただきました。 直後に蔵元からの問い合わせが多かったこともあり、この流れで来年までに案内蔵を100。 延べ動員数は1000人を目指していきます。
そして現在、復興庁、ダイヤモンド・ビッグ社(「地球の歩き方」を運営)、そしてアンカーマンの3者で、復興×日本酒×インバウンドとして、東北での訪日客向け酒蔵ツーリズムのプロジェクトを進めています。
また、和食が世界遺産に登録されて1年が経過しました。これを機に、食を始めとした日本文化への関心は、世界的に大きな熱を帯び始めています。2020年の東京オリンピック開催も決定し、これから日本に来る外国人はますます増える見込みです。
そんな中、日本酒を海外の方へおすすめするシーンも多々あることと思います。とは言っても、日常会話レベルの英会話ができたとしても、日本酒を英語で説明するのは難しいですよね。
そんなみなさまのために、アンカーマンでは、英語で学ぶ日本酒ワークショップ を5月から開催しています。
このワークショップの目的は、"英語で日本酒を説明できるようになること"です。
外国人観光客の方々にもっと日本酒を楽しんでいただき、そして、伝え手の私たち日本人も日本酒の魅力を臆さず的確に伝えていくことが今後の普及につながるはずです。そのためにも、こういったワークショップを開催することで日本酒の魅力を発信するということの裾野を広げていければと思っています。
最後にSAKETIMES読者へ一言
「実は僕も1人のユーザーとしてSAKETIMESさん結構読んでいまして、こんな形で取り上げていただいて光栄です。SAKETIMESさんは、王道の情報からかゆいところに手が届く情報まですごく範囲が広いんですよ。きっとこれからも有益な情報をどんどん発信してくれると思うのでユーザーとして楽しみです。」
編集後記
日本酒業界といえば、古くからの職人の世界かと思われる方も多いかもしれないが、 証券会社からの日本酒業界という異例の転身を遂げた和田さんのお話を伺うにつけ、 日本酒業界こそ、現在最も注目すべき、可能性のある市場なのではないかと感じた。 訪日外国人へのビジネスが国内で加速するなか、国と連携した動きを作っているアンカーマンの動きは今後も注目していきたい。
ちなみに!
7月の中旬にはイベントを開催されるそうなので、是非チェックしてみてくださいね。
あなたも国際交流の達人!英語で学ぼう日本酒ワークショップ 初級編
【オトナの社会見学編】これで国際交流の達人!外国人と行く日本酒酒蔵
関連記事