2018年5月、世界的なワインコンテストのひとつであるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2018「SAKE部門」の審査会および、トロフィー授賞式が山形県で開催されました。

456酒蔵から1639もの日本酒が集結した今年のIWC「SAKE部門」。例年、ロンドンの会場でその結果が発表されていましたが、今年は2016年の兵庫開催から2年ぶりとなる日本での開催になりました。

審査会には15ヵ国から59名の審査員が参加。山形県の魅力をプロモーションする体験見学会がプログラムに組み込まれるなど、コンテストの開催のみにとどまらない、新しい取り組みが行われていました。

しかし、なぜ世界最大規模のワインコンテストがわざわざ「SAKE部門」を設立し、日本の地方都市で審査会を開催したのでしょうか。そこには、国際的なコンテストであるIWCならではのねらいがありました。

「IWC」って、どんなコンテスト?

「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」は、イギリスに拠点を置くウィリアム・リード・ビジネス・メディア社が毎年開催している、世界最大級のワイン品評会です。

IWC SAKE部門で受賞した酒瓶に貼られるシール

1984年にワインマガジンの企画として始まり、その規模は徐々に拡大。今では、ワイン業界でもっとも権威のある資格「マスター・オブ・ワイン」の保持者が審査員を務めるなど、世界的な影響力をもつコンテストになりました。

そんなIWCに「SAKE部門」が誕生したのは2007年。SAKE部門の受賞酒は、"外国人の口にも合う日本酒"として国内外で注目され、2011年からは、外務省が本品評会の上位受賞酒を在外公館用に採用するなど、日本酒の海外進出における重要なイベントとしてその価値を高めています。

IWC2018でトロフィーを受賞した酒たち

2018年のSAKE部門は「普通酒の部」「純米大吟醸酒の部」「古酒の部」「スパークリングの部」などの9カテゴリーに分けられ、15ヵ国から集まった59名の審査員が、ブラインドテイスティングによる審査を行ないました。

審査結果に応じて与えられる評価は「ゴールドメダル」「シルバーメダル」「ブロンズメダル」「大会推奨酒」の4つ。さらに、ゴールドメダルを獲得した出品酒のなかで特に優れたものに対して「トロフィー」の栄誉が与えられ、その「トロフィー」を獲得したなかからたったひとつの銘柄に、SAKE部門の最高賞として「チャンピオン・サケ」の称号が授けられます。

また、ゴールドメダル受賞酒のなかで「日本での小売価格が1,000円以下」「生産量が四合瓶換算で10万本以上」という優れたコストパフォーマンスを発揮した酒に与えられるのが「グレートバリュー」。こちらも、さらにそのなかからひとつが「グレートバリューアワード」に選出されます。

IWCの目的は「エデュケーション」と「プロモーション」

IWCがSAKE部門を開設してから13年目を迎える今年。IWCはSAKE部門に何を期待し、今回の山形開催に踏み切ったのか。IWCでイベントディレクターを務めるクリス・アシュトンさんに話を伺いました。

IWCイベントディレクターであるクリス・アシュトンさん

─ IWCは、なぜSAKE部門を開設したのですか。

理由はふたつあります。ひとつは、SAKEの注目度が世界的に高まっていることです。和食が国際的に評価されるなかで、同時にSAKEが求められるようになりました。もうひとつは、酒サムライを運営する日本酒造青年協議会の存在です。日本酒を世界的なものにしたいという彼らの思いに共感し、私たちは協力関係を結びました。

─ そもそも、IWCはどんな目的で設立されたのでしょうか。

IWCは「エデュケーション」と「プロモーション」を目的に運営されています。今年の審査会は15ヶ国59人の審査員が参加し、産地や銘柄を伏せたブラインドの状態で、4,5人のグループに別れてディスカッションをしながら行なわれました。各グループにおいて、西洋と東洋、それぞれの嗜好をもつ審査員がおおよそ半々の比率になるようにしています。この方法を採ることで、文化的な味わいに敏感な人とワイン的な志向の人がお互いに主張しすぎず、かつそれぞれの感じ方について学ぶことができました。

─ 開催地として山形県が選ばれた理由を教えてください。

山形県で開催されたのは、山形県知事である吉村美栄子さんに熱く招致されたことが大きいです。山形県は2016年12月にGI(地理的表示)を取得するなど、県が一体となって、日本酒を盛り上げるための取り組みを行なっています。今回も世界各地から訪れた審査員に、県産業の体験見学会を実施し、山形県をPRすることに成功しました。彼らは、自国でSAKEを売るのに合わせて、山形県の文化そのものを紹介することができたのです。

吉村美栄子山形県知事(左)とウィリアムリード・ビジネスメディア社アンドリュー・リード社長(右)

吉村美栄子知事(左)とウィリアムリード・ビジネスメディア社のアンドリュー・リード社長(右)

─ 日本酒がさらに世界で認められるためには、何が必要でしょうか。

アルコール市場は世界中で厳しい状況に立たされていますが、日本酒には世界で伸びていく余地があります。しかし、まずは日本人がもっとその魅力に気付かなければなりません。IWCの受賞酒を世界中の人が欲しがりますが、日本では簡単に手に入れることができるので。また、スパークリング酒など、酒蔵は絶えず革新的な挑戦をすることが大事です。そうすれば、日本酒に興味をもつ日本の人々ももっと増えていくでしょう。

今年の「チャンピオン・サケ」は7月10日に発表!

IWC2018でトロフィーを受賞した蔵元の方々

輸出額が増加傾向にある日本酒ですが、ただなんとなく海外へ出るだけでは、瞬間の消費で終わってしまいます。IWCのような国際的コンテストが審査会を日本の地方で開催することで、体験見学会などを通して、海外の有力者たちが日本酒はもちろんのこと、その地の文化をまるごとプロモーションできるようになるという美しい流れが生まれつつあります。

世界一の称号ともいえる「チャンピオン・サケ」「グレートバリューアワード」は、7月10日(火)にロンドンで開催されるアワードディナーで発表されます。どんな銘柄が選ばれるのか、期待が高まりますね。

(取材・文/内記 朋冶)

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