日本酒の容器といえば、定番なのは瓶、紙パック、カップ瓶。最近ではパウチパックやペットボトルなど、時代やニーズに合わせてその形状は年々多様化しています。そしていま、新たな容器として「ボトル缶」が注目されていることをご存じでしょうか? 従来の瓶詰めのラインアップに加え、ボトル缶の商品を販売する酒蔵メーカーが徐々に増え始めています。

ボトル缶の日本酒は、酒蔵、そして私たち消費者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか? また瓶詰めと比べて品質に問題はないのでしょうか? 日本酒向けのボトル缶開発・製造を行う容器メーカーの取り組みと、実際に日本酒が充填されている意外な現場を取材しました。

遮光、軽量、熱伝導率……ボトル缶の利便性

大和製罐株式会社が製造する「ボトル缶」。日本酒の容器としても広がりを見せている

「ボトル缶」のはじまりは2000年。当時は飲料容器としてペットボトルの普及が広まっていましたが、そこでペットボトルと同じリキャップ性をもったアルミ缶として開発された容器が「ボトル缶」です。現在ではコーヒー飲料の市場が定着しておりますが、新たにワイン・日本酒といった高アルコール飲料用に開発されたものが、本日ご紹介する大和製罐のボトル缶です。

はじめに大和製罐が着手したのは日本酒……ではなく、ワイン。ワインも日本酒と同じく瓶のイメージが強いお酒ですが、以前から缶入りワインを求める消費者の声は多く、実現は大和製罐にとっても大きな目標だったといいます。最大の問題点は、ワインの酸化防止剤として含まれる亜硫酸がアルミを刺激してしまうこと。

研究を繰り返す中で、アルミ缶の内側に特殊な加工をすることでこの問題をクリア、2008年にボトル缶に入ったワインが商品化されました。消費者の反応も良く、手ごたえを感じた同社が次に着手したのが、日本酒だったのです。

製造ラインを流れて行くボトル缶

ボトル缶の主な特長は以下の通りです。

  • 遮光性が高い(日光による内容物の劣化、変色を防ぐ)
  • 軽量のため持ち運びやすい(瓶の約1/10)
  • 瓶の様に落としても割れないので取扱いが安全
  • 熱伝導性が高い(冷えやすい)
  • 操作性が高い(飲むシチュエーションの幅が広がる)
  • バリア性が高い(酸化の原因となる酸素から中身を保護する。ペットボトルの約10倍の高さ)
  • リサイクル率が高い(9割以上。ペットボトルやスチール、瓶などほかの容器の中でも一番高い)

改めて見ると、ボトル缶は酒蔵にとっても消費者にとってもメリットが多く、日本酒との相性も非常に良いことがわかります。そして2013年、ワインでの成功体験も大きな後押しとなり、ボトル缶の日本酒が誕生したのです。

日本酒ボトル缶の充填を一手に担う老舗ワイナリー

ボトル缶飲料を製造するためには充填ラインへの設備投資が必要なため、比較的小ロットで生産する日本酒では、酒蔵の投資負担が大きくなってしまいます。そのため、大和製罐では「ボトル缶充填機レンタルサービス『FRS』」を行っているほか、充填技術のある別企業の設備を有効活用して日本酒を詰める、「ボトル缶充填サポート」にも力を入れています。

モンデ酒造の看板

現在、大和製罐のボトル缶に、酒蔵で醸された日本酒の充填を行っているのは、主に、山梨県笛吹市にある「モンデ酒造」の製造工場です。1952年の創業以来、山梨産のものを中心にこだわりのワインを醸造・販売しているモンデ酒造こそ、先述のボトル缶ワインをいち早く始めたワイナリー。2008年に「プレミアム缶ワイン」「プティモンテリア」を商品化し、2011年からは自社工場に瓶・缶両方に対応した充填設備を導入、現在まで製造を続けています。

「ボトル缶ワインの大きなメリットというと、やはり非常に遮光性に優れていて、瓶と比べて軽量、リキャップ・リシール(繰り返し開栓)できるということ。飲み切らなくても持ち歩けるというのは、アウトドアシーンで活躍することが期待できます」

そう話すのは、モンデ酒造代表取締役の蒲田英昭社長。特に若い女性の購入者が多いというデータが売上に現れていることからも、軽量で持ち運びに便利なボトル缶のワインは、瓶と比べてより気軽に手に取りやすい商品として受け入れられていったと語ります。

「そしてワインの充填技術を、日本酒や他のアルコール飲料のボトル缶充填にも有効活用していこうと、大和製罐と一緒に考えていたところ、日本酒を醸造している酒蔵にボトル缶の導入を提案してくれたんです。充填の工程はワインとまったく同じで、若干の設備投資で日本酒は問題なく受け入れることができました。軽量性・熱伝導性・品質保持など、ボトル缶のメリットは、日本酒にも応用することができたのです。2013年から日本酒充填を開始し、現在では酒蔵十数社のボトル缶製品を充填しています」(蒲田社長)

2017年春には、スパークリング日本酒の人気の高まりを受けて、日本酒に炭酸ガスを充填する(加工する)資格も取得。ますますバリエーションに富んだ商品の生産が可能になり、今後のボトル缶商品の拡大にも期待が高まります。

「ワイン同様に日本酒ボトル缶もこれまでなかった容器なので、まずはより多くの人に認知してもらいたい。私自身、ワイナリーをやっていますが、実は日本酒も大好きなんです(笑)。美味しいものを造るお手伝いをさせていただけるのは嬉しいですし、これからも楽しく飲めるお酒を造っていければと思います」(蒲田社長)

人気銘柄のボトル缶充填現場に潜入!

蒲田社長のお話しを伺った後、私たちはモンデ酒造の製造工場に移動。実際にボトル缶に日本酒が充填される様子を見学させてもらいました。商品は、白瀧酒造(新潟)の「上善如水 純米 ボトル缶」。日本酒の受け入れから梱包まで、その工程をご紹介します。

1.受け入れ

朝、コンテナで納品されてきた日本酒(1000L)。まずはアルコール度数や日本酒度など、酒蔵側から提供されたデータを確認し、配管を通してタンクに移します。

2.分析

タンクに受け入れた日本酒を分析にかけ、酒蔵から指示されたとおりの数値を指しているか(納品時と受け入れ時で酒質に変化はないか)をチェックします。

3.充填

リンサーの写真

分析が完了し、数値に問題ないことが確認できたら充填機(フィラー)で充填を開始します。ボトルにお酒を注いだら、すぐにLN(液体窒素)を充填、キャップを巻き締め、密封します。詰め初めにキャップクロージング、缶の重量、缶内圧力をチェック。LN充填は、薄く柔らかいアルミ缶の内部に窒素を充満させ凹みを防ぐ、ボトル缶製品の特徴的かつ必要不可欠な工程です。

4.殺菌

液体窒素充填(LN充填)

瓶詰めの日本酒と異なり、ボトル缶は常温で充填。日本酒の風味が逃げない様、容器内にしっかり閉じ込めてから加熱殺菌を行い、酒質に影響がないかデータをチェックしながら進めます。

5.シュリンク、梱包

モンデ酒造のシュリンクラベラー

殺菌が終わったボトル缶は内容量や缶内圧などを検査機でチェックした後、ペットフイルムのラベルで本体の外側をシュリンク。「上善如水 純米 ボトル缶」は盃型カップが付属している商品なので、カップを乗せた上からラベルで覆われます。シュリンクが完了したら商品が完成! 24本単位で段ボールに箱詰めし、出荷されていきます。

ワインで培った高い品質管理を日本酒に応用

ワイン一筋で半世紀以上続いてきたモンデ酒造。ただでさえ徹底した品質管理が求められる飲料の製造現場において、同じお酒とはいえカテゴリの異なる日本酒のボトル缶充填受託を手掛けるにあたり、どれだけ大きなプレッシャーがかかっているかは想像に難くありません。工場見学後、同社の方々にお話を伺うと、常に品質管理を強く意識している企業の姿勢が見えてきました。

「充填の際、一番気をつけているのは朝の商品受け入れ前に行っている充填機材の殺菌・洗浄工程。約90℃の高温殺菌を使用して機材全体に対して行います。缶は中が見えないうえに、アルミなので金属探知機も使えない特殊な充填であり、異物混入にも非常に注意を払っています。製薬の現場でも使用している高性能のフィルターを充填室全体に使い陽圧管理をおこなうことで、虫やホコリが飛んできても中に入れません。空間ごとクリーンルーム化しています」(モンデ酒造 製造部 仲澤副部長)

「現場の人間や管理職だけでなく、従業員一人ひとりに安全・安心への意識を常に高く持ってほしい。社内には我々品質保証部門があり、部署や役職関係なく会社を常に客観的に見る体制を整えています。抜き打ちで、従業員の持ち物や爪の長さをチェックすることもあります。そして何より大事なのが、手洗いをきちんとする、靴を履き替える、危険なものを持ち込まないなど、基本的なことを毎日実施すること。製造の様子を一般のお客さまに見ていただく工場見学も年中行っていますが、"見られている"という意識を常に持つことで、従業員の間に良い意味での緊張感が生まれていると思います」(同 品質保証部 石田部長)

モンデ酒造 品質保証部 石田部長

同社は2013年にISO22000:2005(食品を安全に保つための体制づくりに関する国際規格)を取得。安全・安心への意識が高くなるのも当然といえそうですが、「特別に"ISOをやっている"という意識ではなく、当たり前のこととして取り組んでいる」(石田部長)と強調します。

そしてそれは社内だけではなく、ボトル缶充填を受け入れている酒蔵様に対しても同じ。自分たちの醸したお酒が安心して出荷されることを望む酒蔵様に対し、モンデ酒造は細かな要望にも可能な限り応えられるよう努めているといいます。

「酒蔵様が一番気にされているのが、お酒のフレーバーに変化がないか、ということ。ですから、実際に製造現場に杜氏さんをお招きして、チェックをしていただくことも多いです。工場内はいろんな酒蔵のいろんな菌が集まる場所ですから、間違っても混在しないよう、殺菌・洗浄は徹底して行わなければいけません。現場を見ていただいて、我々がどれだけ細心の注意を払っているかということをわかってもらうのが一番だと思っています」(同 取締役 水谷内工場長)

モンデ酒造 取締役 水谷内工場長

これまでワインで培ってきた高い品質管理があるからこそ、日本酒の充填も自信を持って受け入れることができる。モンデ酒造の存在は、ボトル缶の導入を考える酒蔵にとって、とても頼もしいパートナーになっているようです。

「私たちにも自社商品がありますから、『美味しいものを美味しい状態で市場に出したい』という酒蔵様の気持ちはよくわかります。今後も安全性をできるだけ高めるための設備投資をしたり、酒蔵様から菌の管理を学んだりしながら、ボトル缶をはじめ高い品質での製造を続けていきたいですね」(水谷内工場長)

酒蔵との"信頼関係"を何よりも大切に

酒蔵にとって、お酒は手塩にかけて育てた我が子同然の存在。それだけ大切なものを託すというのは、よほど相手を信頼していなければできない。モンデ酒造は徹底した品質管理と製造現場をオープンにすることで、その信頼を得てきました。酒蔵とワイナリーの信頼関係で成り立っている日本酒ボトル缶には、「良いお酒をもっと多くの人に、もっと楽しんで飲んでほしい!」という両者の強い思いが込められています。

(取材・文/芳賀直美)

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