日本酒業界に大きなインパクトを与えた、白鶴酒造の若手社員による「別鶴(べっかく)」プロジェクトから3年。

その第2弾として、新商品「そよ風のクローバー」「お日様のしゃぼん玉」が発売されました。日本酒ビギナーに向けたスタイリッシュで新しい味わいのお酒という世界観は踏襲しながら、第1弾発売後に得たユーザーの声や市場の変化を反映して開発されました。

この記事では、「別鶴」プロジェクトの歩みを振り返りながら、第2弾商品の魅力を紐解きます。

「これまでの白鶴とは違ったお酒を造りたい」

「別鶴プロジェクト」の商品

「別鶴」プロジェクトによって誕生した「木漏れ日のムシメガネ」(左)、「陽だまりのシュノーケル」(中央)、「黄昏のテレスコープ」(右)

白鶴酒造が立ち上げた「別鶴」プロジェクトは、「日本酒の新しい世界を覗こう」をテーマに始まりました。

メンバーは当時20~30代だった若手社員のみで構成され、「これまでの白鶴とは違ったお酒を造りたい」「だれも味わったことのない"別格"のお酒を造りたい」との思いで開発に臨みました。

400を超える白鶴酒造の酵母ライブラリーの中から酒質に合わせて使用する酵母を選定し、原料米は自社で開発した白鶴錦を使用。およそ2年半の開発を経てできあがったのが「木漏れ日のムシメガネ」「陽だまりのシュノーケル」「黄昏のテレスコープ」という3本の日本酒です。

ネーミングのおもしろさも目を引きますが、味わいもそれぞれ個性的で、酸味や甘みが際立った従来の日本酒とは一線を画する仕上がりに。しかも純米酒規格でありながらアルコール度数は11~13度と低く、日本酒を飲みなれていない人にも親しんでもらえるようラベルデザインにもこだわりました。

発売前にはテストマーケティングも兼ね、クラウドファンディングにも挑戦。3ヶ月で目標の5倍を超える532万円を獲得し、日本酒ファンのみならず幅広い支持を集めることにも成功します。「まる」に代表されるレギュラー酒のイメージの強かった白鶴酒造の異例の取り組みには業界内からも注目が集まり、大きな話題となりました。

プロジェクトの成果と見えてきた課題

そんな「別鶴」プロジェクトのリーダーとして、チームを牽引したマーケティング本部の佐田尚隆さんは、「タイミングも運も良かったですし、当初、思い描いていた以上の反響がありました」と、当時を振り返ります。

白鶴酒造 マーケティング本部の佐田尚隆さん

白鶴酒造 マーケティング本部の佐田尚隆さん

「『若い人たちの頑張っている姿に元気をもらえた』や『大手はやっぱりすごい』といった声が印象に残っています。プロジェクトメンバーからも『これまでお客さんの顔が見えにくかったけれど、近くに感じることができた』という意見もあって、仕事のモチベーションも上がったようですね」

また、白鶴酒造の採用試験を受けに来た学生から「別鶴」プロジェクトの話が出たり、普段、白鶴酒造の商品の取り扱いがないお店から問い合わせがあったりした点でも「認知の広がりを実感した」と語る佐田さん。特に地酒専門店や百貨店の日本酒売場のバイヤーなど、プロからも良い評価を得られたことは、自信に繋がりました。

「味わいやパッケージも含めて、お酒としての新しさやおもしろさを感じてもらえたのはうれしかったですね。いただいた評価は大事にしていかなければと感じました」

一方で、見えた課題もありました。たとえば、四合瓶で2,493円(税別)という価格設定では、日本酒初心者が試しに購入するにはハードルが高く、販売店も限定されてしまいます。

また四合瓶サイズでも「ひとりで飲むには多すぎる」との声が寄せられたそうです。「別鶴」プロジェクトの商品は、ホームパーティーなど人が集まる場で楽しんでもらうことを想定したもの。それゆえの価格や容量でしたが、コロナ禍ではそのような機会が失われてしまい、意図を充分に浸透させることは難しかったと分析します。

ユーザーの声に向き合った、第2弾の新商品開発

「別鶴」プロジェクトの第2弾の構想が本格化したのは、2020年初頭。前回の反響も出揃い、メンバーの中でもそろそろ次の一手を考えようという機運が高まっていたころでした。

開発風景

スーパーやコンビニでの販売も視野に入れた商品を考えてほしいという会社からの後押しもあり、新たな企画に着手します。さまざまな案が出るなかで、新商品開発のヒントとなったのは「別鶴」プロジェクトで運用しているSNSでした。

「味やパッケージ、世界観はあくまでこちらが思う表現。それをブラッシュアップしていくためにはユーザーの声やニーズを積極的に取り入れたほうが良いものができると、実際にSNSでコミュニケーションを重ねるなかで気づきました。こだわりの部分は変えずに、いかに飲みたいと思われるものを作るかがテーマでした」

まず、課題として意識したのは「小容量」「低アルコール」「リーズナブル」の3点です。その上でブランドとしての世界観を壊さない商品設計を模索していきました。

見えてきたのが「そよ風のクローバー」と「お日様のしゃぼん玉」というふたつの方向性です。

「そよ風のクローバー」

「そよ風のクローバー」は、「木漏れ日のムシメガネ」のレモングラスのようなさわやかな香りを生かしつつ、「陽だまりのシュノーケル」の酸味と「黄昏のテレスコープ」の甘みを取り入れ、容量は290mlとひとりでも気軽に試せるサイズの純米酒です。アルコール度数も第1弾よりさらに低い7%まで下げました。いわば第1弾の良いとこ取りであり、進化系とも言えます。

「お日様のしゃぼん玉」

一方で、「お日様のしゃぼん玉」は、日本酒をより自由で創造的な飲み物とするための新しい提案です。SNSで目にした「日本酒に興味はあるが、お酒に弱いから不安」という声にジュース割をすすめたところ、大きな反響があったことから開発がスタート。

「そよ風のクローバー」の原酒にレモンフレーバーを加えてスパークリングリキュールとしました。アルコール度数は3%、容量も255mlと飲みきりサイズを採用しています。

それぞれに工夫した点を佐田さんはこう語ります。

「『そよ風のクローバー』は、第1弾よりも低いアルコール度数に挑戦しました。アルコール度数を下げようとすると酒質が水っぽくなってしまう場合がありますが、『別鶴』の商品はもともとかなり個性的な酒質のため、アルコール度数を下げても、味が薄くならないという利点がありました。白麹を使ったのもポイントで、酸味はもちろん、苦味などを含めた複雑な味わいを表現できたと思います。これは白鶴酒造の定番商品である『まる』の酒質設計からもヒントを得ています。

『お日様のしゃぼん玉』はよりRTD(「Ready to Drink」の略で、缶チューハイなどそのまますぐ飲める商品のこと)を意識した商品。今まで日本酒のカクテルはこだわったものが多かった印象ですが、ジュースやサイダーで割るような気軽さのほうが身近に感じてもらいやすいのではと考えました」

課題としていた価格も「そよ風のクローバー」が400円(参考小売価格・税別)、「お日様のしゃぼん玉」が300円(参考小売価格・税別)と手に取りやすい設定に。チューハイなどのRTD商品と比べても高すぎないよう、ワンコイン(500円)以下に抑えています。ネーミングやパッケージデザインは、新しい時代を感じて欲しいと"風"にちなんだものが選ばれました。

白鶴酒造 マーケティング本部の佐田尚隆さん

どちらもユーザーの声に真摯に向き合い誕生した商品です。地道なコミュニケーションの賜物ともいえますが、"別鶴らしさ"が失われる不安はなかったのでしょうか。

「私たちの使命は、『日本酒がおいしくて、新しくて、楽しくて、若い人も気兼ねなく飲めるもの』というのを伝えること。こだわるところは造り方ではありません。日本酒にはこういう楽しみ方や可能性があるんだということを親しみやすい形で発信したかったんです」

理想のお酒をかたちにすることから、たくさんの人に手に取ってもらえる、社会が求める商品づくりへ。飲み手の意見を柔軟に取り入れて即座に開発に活かせる点は、若手主体の「別鶴」プロジェクトならではともいえます。

第1弾の開発時、佐田さんは「『日本酒が一番好き』という人を増やしたい」と考えていました。しかし、コロナ禍や時代の変化による市場のあり方を目の当たりにし、現在抱いているのは「一番でなくてもいいから好きと言ってほしい」という想いです。押し付けすぎず、いつもそばにいるような立ち位置のブランドであり、メーカーであることが、飲み手の裾野を広げるには重要と感じ始めています。

「そよ風のクローバー」「お日様のしゃぼん玉」

それは、「時をこえ 親しみの心をおくる」という白鶴酒造のスローガンの考え方そのもの。先鋭的な取り組みの先で、意外にも酒蔵の原点に立ち返っていたのかもしれません。

白鶴酒造の「別鶴」プロジェクトは、次世代の新しいメンバーによる企画も進行中。まだ手探りながら、先輩たちに負けない"別格"な商品づくりにチャレンジしています。SNS隆盛の時代に沿った商品開発により生まれた新たな"別鶴"が、どのような反響を巻き起こすのか、今から楽しみです。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

◎商品概要

  • 商品名:白鶴酒造「そよ風のクローバー」
  • 特定名称:純米酒
  • アルコール度数:7%
  • 精米歩合:78%
  • 容量:290ml
  • 価格:400円(税別)
  • 商品名:白鶴酒造「お日様のしゃぼん玉」
  • 品目:リキュール(発泡性)①
  • アルコール度数:3%
  • 容量:255ml
  • 価格:300円(税別)

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