和食のみならず、実はさまざまな料理に幅広く合わせられる日本酒。もちろん、各国の料理も例外ではありません。
今回は日本酒とフレンチの組み合わせに挑戦し、新しい味わいを発見してみましょう。ペアリングのコツについても紹介します。
用意した日本酒は、千葉県・飯沼本家の夏酒「純米吟醸 きのえねアップル」。リンゴを思わせる瑞々しい酸味が特徴です。フルーティーな香りと軽やかな甘味をもち、後味はすっきりと爽やかな印象。夏の暑い日に、冷やして飲むのがおすすめの一品です。
ラベルやボトルのデザインも涼しげで、ホームパーティーなどのちょっと特別なシーンでも、気分を盛り上げてくれそうですね。
ペアリングに欠かせない「酸味」
「きのえねアップル」に合わせるフレンチを考案していただいたのは、ビストロ「イレール人形町」の島田哲也シェフ。
23歳で渡仏し、パリの三ツ星レストランで修行を積み、日本でフレンチレストランをオープンした経験をもっています。5年前に現在の場所へ移転した「イレール人形町」では、旬の食材を使ったボリュームのある料理と自然派ワインを楽しむことができます。
「イレール人形町」の斜向かいにある姉妹店、日本酒バー「3bis」のオーナーシェフでもある島田さん。日本酒とフレンチの意外な組み合わせが味わえるため、日本酒ファンだけでなく、ワイン愛好者からも注目されています。
そんな島田さんに、まずは「きのえねアップル」を試飲していただきました。
「しっかりとした酸味があって、果実味もある。米から造られたとは思えない味わいですね。ワインで例えると、ソーヴィニヨン・ブランのような。果実味とシャープな酸味、そしてあとから甘味がやってきます。甘味と酸味のバランスが良く、とても上品です」
フレンチとの相性はいかがでしょうか。
「フレンチにかぎらず、お酒と料理を合わせるときに、酸味は欠かせない要素です。『きのえねアップル』には豊かな酸味があり、他の一般的な日本酒よりもフレンチに合わせやすそうですね。シンプルな味わいのなかに旨味や苦味が感じられるので、青々しい野菜との相性が良いと思いました」
さっそく、「きのえねアップル」と合わせる料理を作っていただきましょう。
見た目も華やかな、3皿のフレンチ
1皿目は、目にも美しい「野菜のテリーヌ」です。
「テリーヌ」とは、四角く細長い「テリーヌ型」と呼ばれる容器で固めた料理のこと。チャービルやディルなどのハーブがふんだんに散りばめられ、彩りが鮮やかです。ブロッコリー、オクラ、インゲン、赤いパプリカ......夏の野菜とともに、ホタテや鶏のささみ、しいたけが包まれています。
テリーヌの上にかけられているのは、ハチミツとシークワーサージュース、グレープシードオイルでつくられた甘酸っぱいソース。オレガノで味付けした黄色いコリンキー、ドライトマト、クミン入りの人参ソースが付け合わせとして添えられ、一皿で多彩な味わいを楽しむことができます。
「ラベルがすごくオシャレな印象だったので、料理も華やかで楽しいほうが良いと思いました」と、島田さん。「きのえねアップル」と合わせると、清涼感や爽やかな甘味など、口に入れるたびに表情が変わるような新鮮さがありました。
続いて、2皿目は「鴨の燻製」。塩漬けに1日半、それを焼いて乾燥させるのに1日、そして燻製に4~5時間と手間をかけられた鴨肉には、旨味がしっかり凝縮されています。爽やかさをプラスするために、リンゴが添えられました。
「燻製のポイントは、香りと塩味。塩味はお酒の甘味を盛り上げてくれるので、さらにリンゴの酸味を合わせて、全体のバランスをとっています」
塩辛いものと日本酒。言わずもがなの組み合わせですが、この燻製は塩辛さの加減が絶妙で、お酒の甘味をより際立たせてくれました。
ソースはクルミ、カシューナッツ、アーモンド、黒ゴマを混ぜ、ゴマ油、ハチミツ、ワインビネガーなどで味付けしたもの。オイリーな味わいのなかにコクがあり、カリッとした食感も楽しいです。これだけでつまみになりそうなソースですね。
伝統的なフレンチは、皿に盛り付けられたメインの食材に付け合わせとソースを加えた3つの組み合わせで味が決まるのだそう。ここでは、日本酒にない塩味の要素が料理にしっかりと入っているため、とてもバランスの良いペアリングになっています。
3皿目は「鶏肉の白ワインの蒸し煮」。チキンブイヨンや生クリームを加えたオリジナルのソースが、メインの鶏肉を囲みます。ソースの中には、細かく砕いたキュウリが入っているのだそう。
付け合わせに添えられたのは、キュウリとイクラ。まろやかでクリーミーなソースに、キュウリの青々しさとイクラの旨味が合わさって、コクがあるのに爽やかな味わいです。
ソースの独特な甘味は、"ういきょう"からできたお酒を使用しているため。お酒を入れることで、甘味に深みを加えているのだとか。フレンチでは、砂糖をほとんど使わない代わりに、さまざまな種類のお酒を料理に使用します。どのようなお酒を選ぶのかは、ペアリングを考えるうえでとても重要です。
淡白な鶏肉にクリーミーで豊かなコクと清涼感のあるソース、キュウリの青々しさ、イクラの塩味。インパクトのある一品でした。「きのえねアップル」のミネラル感や瑞々しさが引き立ち、夏にぴったりの一皿です。
シェフが教える、ペアリングのコツ
島田さんは、ワインと料理のペアリングを考えるとき、ワインの欠けている部分を見つけて、その要素を料理によって補っていくように意識しているのだとか。たとえば、お酒そのものに酸味が少なければ、料理にその要素を取り入れていくようなイメージです。
「日本酒はワインほど味わいのスキがなく、幅広くさまざまな料理に合わせることができるため、逆にベストマッチのペアリングを考えるのが難しい」と、島田さんは語ります。
「日本酒とのペアリングで意識しているのは、料理に季節性を取り入れること。それは、ワインでは表現しにくい部分でもあるんです。夏酒、ひやおろし、しぼりたてなど、季節ごとに旬のお酒があるので、食材も旬のものを使うと合わせやすいし、なによりも楽しいですよね」
また、自宅でペアリングにチャレンジしたいときは、お酒を飲んでイメージした食材や調味料などから、似たような味のものを探していくと失敗が少ないそうです。
イメージするのが難しい場合は、とにかく作ってみて、実際に食べてみることが大事。意外な好相性が見つかる可能性もあるので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。
ペアリングの可能性を広げる「きのえねアップル」
ハーブやスパイス、ビネガー、リキュールなどを使った味付けは、和食にはないフレンチらしい技法のひとつ。ひとつの料理にさまざまなエッセンスが入ることで、合わせるお酒の味わいにも深みが増していきます。
皿の上に絵を描くような、色鮮やかな盛り付けもフレンチの魅力です。視覚的な満足を与えてくれるのは、フランス料理ならではかもしれません。
「フレンチは、基本的にコースで提供されるので、たっぷりと時間をかけて、お酒と料理をいただきます。食事をする場は、ただ空腹を満たすだけではなく、会話をする場であり人が集まる場なんです」と、島田さん。
日本酒とフレンチのペアリングを通して、それぞれの食文化がもつ魅力にも触れることができました。フレンチとの相性もぴったりな「純米吟醸 きのえねアップル」は、日本酒ペアリングの可能性を広げてくれる1本。食事の時間が楽しく豊かにしてくれるこのお酒を、ぜひ試してみてください。
(取材・文/橋村望)
sponsored by 株式会社飯沼本家