250ppmという日本有数の硬度の高い仕込み水で、キレの良い食中酒「岩の井」を醸す千葉県・岩瀬酒造。同酒造が2020年にリリースしたのが、純米吟醸の「赤ラベル」シリーズです。
フレッシュな中汲みの無濾過生原酒で、それまでのクラシカルな「岩の井」のイメージを変えるこの新ブランドは、酒米の品種が異なる全7種のラインナップをそろえています。
今回は、東京・恵比寿にある日本酒ペアリングの名店「GEM by moto」の千葉麻里絵さんが酒蔵を訪問し、全7種類を飲み比べ。それぞれの味わい違いと特徴、ペアリングにぴったりな料理を提案してもらいました。
しぼりたてのフレッシュさを閉じ込めた赤ラベルシリーズ
「赤ラベル」シリーズは、岩瀬酒造が造る純米吟醸のうち、雑味が少ない「中汲み」を瓶詰めし、フレッシュさを保つためにマイナス5度の冷蔵庫で保管した無濾過生原酒です。
岩瀬酒造の代表取締役会長・庄野智紀さんいわく、この「赤ラベル」は、偶然をきっかけに生まれたのだそう。
「製造責任者の吉原が、純米吟醸の中汲みを、興味本位でマイナス5度の冷蔵庫に置いておいたんです。これを飲んだとき、私は『岩の井』史上いちばんおいしいんじゃないかと感動しました。手間は増えるけど、この味をお客さんに届けたいと思い、商品化することを決めたんです」
庄野さんは、「赤ラベル」シリーズの商品化にあたり、奈良県・油長酒造の人気銘柄「風の森」にインスパイアされたと話します。
「ミネラル分の多い硬水で仕込むと発酵力が強く、酸が出て味のキレが良くなる傾向があります。『岩の井』も250ppmという国内屈指の硬水を使っていますが、油長酒造さんも200ppm以上の硬度の水を使い、とてもフレッシュなお酒を造っています。同じようにひと口目からインパクトがあり記憶に残るお酒を、岩の井ならではのやり方で造りたいと思いました」
「岩の井」の"辛口の男酒"というクラシカルなイメージを覆す「赤ラベル」シリーズは、またたく間に売れ行きを伸ばします。
従来の「岩の井」の売り先は、地元・千葉県の酒販店が中心でしたが、「赤ラベル」はリリースとともに全国から問い合わせがあり、東京から関西にいたるまで販路を拡大。リリース2年目の2021年は、通年の販売分が夏の終わりに売り切れてしまうほどで、製造量は1年で2〜3倍にも増えました。
「赤ラベルシリーズは、これまでの『岩の井』とは異なり、日本酒に親しみがない人や、最近流行しているフルーティーな味わいが好きな人にも気に入っていただけるタイプのお酒です。生酒らしいガス感はありますが、一般的な生原酒に比べると甘さがひかえめ。そこが、『岩の井』ならではの味わいになっています」
日本酒ソムリエ・千葉麻里絵さんによるテイスティング
今回、「赤ラベル」シリーズをテイスティングしてもらうのは、日本酒ペアリングのスペシャリスト・千葉麻里絵さんです。
東京・恵比寿「GEM by moto」の店主であり、第14代酒サムライ、「最先端の日本酒ペアリング」(旭屋出版、共著)の著者として知られる千葉さんは、化学的知見に基づき、口内調味によるユニークなペアリングを提供する日本酒のスペシャリスト。
「岩の井 赤ラベル」シリーズを飲むのは初めてだという千葉さんに、酒米ごとに異なる全7種類のラインナップを飲み比べし、それぞれにぴったりな料理を提案してもらいました。
「五百万石」
庄野さんが「『岩の井』の水質に最も合う」と太鼓判を押す酒米・五百万石。酸味とキレがあり、全7種を代表する「岩の井」らしい商品です。
テイスティングコメント
五百万石を使ったお酒は、青みがあり、まだ熟していないような味わいが多いので、こんなに味が乗っているのはびっくりしました。ゴク味(味覚の要素がバランスよく調和しているために生まれる充実感)があり、チョコレートのようにほんのりとした生熟感と、米由来の苦味が後を引きます。
日本人の体に馴染むような芯のある味わいなので、和食によく合うでしょうね。ふきのとうの天ぷらのように苦味があるものや、蕎麦、海苔、寿司などが合いそうです。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 五百万石 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,650円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「美山錦」
7種類の中でも、出来上がりからすぐに味が乗りやすいという特徴を持つ美山錦。上品な香りがあり、誰にでも愛されるタイプの味わいです。
テイスティングコメント
香りが明るいですね。今回飲んだお酒のなかではいちばんライトです。果実と合わせると、美山錦らしい繊細さが引き出せるはずなので、パイナップルを入れた酢豚や、イチジクを入れたサラダ、果物の白和えやドライフルーツも合うと思います。中華料理と相性がよく、春巻などもおすすめです。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 美山錦 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:16度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,650円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「玉栄(たまさかえ)」
滋賀県や鳥取県など、関西圏で育てられることが多い玉栄。関東では珍しく、岩瀬酒造が契約している千葉県の農家が育てていることから使いはじめたお米だそう。
テイスティングコメント
玉栄は熟成すると非常に楽しいお酒で、生酒のまま冷蔵保存して、2〜3年寝かせるとどんどん品がよくなっていきます。このお酒は、まだ渋みが残っていますが、すでに味が乗っていて、大きなポテンシャルを感じますね。玉栄の生酒は珍しいので、私が買い占めようかな……(笑)。
バターとの相性が抜群ですね。パンの穀物感も合うので、焼いたバケットにバターをたっぷり乗せて、燗酒にして口の中で溶かすように合わせると、とてつもなくおいしいはずです。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 玉栄 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,650円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「雄町」
昨年から新たに追加されたという雄町は、一般的な雄町で醸した日本酒の芳醇なイメージに比べるとキレよく仕上げられています。
テイスティングコメント
余韻が長く、甘味、苦味、旨味の味わいのバランスが絶妙。一本あったらゆるゆるダラダラと飲み続けられる食中酒です。こういう味は、みんなで飲んでいるときに、会話を邪魔しないんですよね。常温からぬる燗くらいで、モツ煮やシチュー、おでん、肉じゃがなどの煮込み料理に合わせたいです。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 雄町 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,650円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「総の舞(ふさのまい)」
総の舞は、千葉県生まれの酒造好適米。基本的に9号酵母で醸す赤ラベルシリーズの中では、酒米の特徴に合わせて唯一、香りの出やすい18号酵母を9号酵母にブレンドしています。
テイスティングコメント
フルーティーで日本酒が苦手な人でも飲みやすいような今風の味わい。キンキンに冷やして、バニラアイスや、味わいの濃いハンバーグなどの料理、雲丹やいくらなどの磯の香りがするものと合わせると良さそうです。冷凍庫に30分ほど入れておいて、凍る手前のシャリシャリの状態で飲むのもいいですね。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 総の舞 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,650円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「山田錦 速醸仕込み」
米の品種違いなら外せないという定番の山田錦は、兵庫県産の高品質なお米を仕入れて使っているのだそう。
テイスティングコメント
山田錦は優等生で、こうして飲み比べると、きれいにまとまっているのがよくわかりますね。甘味と酸味の輪郭がくっきりしているので、お酒単体で楽しめます。よく冷やして、細いフルートグラスに注いだり、うすはりに氷を入れてロックにしたりすると、さらに味が引き締まりそうです。ペアリングで楽しむなら甘酢漬けやピクルスなどの酢の物がいいでしょう。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 純米吟醸 山田錦 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:50%
- 販売価格(税込):1,848円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
「山田錦 山廃仕込み」
「岩の井」が得意とする山廃酛で仕込んだお酒。山廃・純米吟醸・無濾過生原酒という珍しい組み合わせで、日本酒ファンにも愛される商品です。
テイスティングコメント
めちゃくちゃおいしいですね!輪郭がはっきりしていて、メリハリがあります。余韻が長いので、出汁が効いた料理をきちんと受け止めてくれそうです。私なら、これを苺やチョコレートを使ったデザートに合わせます。お酒自体のテクスチャーがしっかりしているので、ふわふわのケーキよりも、ガトーショコラのように硬い食感のものがぴったりです。
◎商品情報
- 商品名:「岩の井 赤ラベル 山廃 純米吟醸 山田錦 中汲み無濾過生原酒」
- アルコール度数:17度
- 精米歩合:55%
- 販売価格(税込):1,870円(720mL)
- 購入リンク:岩瀬酒造公式オンラインショップ
硬い仕込み水が酒米ごとの違いを生む
「岩の井」と聞くと、昔ながらの辛口酒のイメージがあったと話す千葉さん。7つの利き猪口を交互にテイスティングしながら、「印象が7種類ともまったく違う!」と、初めて飲む「岩の井 赤ラベル」シリーズに感心した様子でした。
「酵母で違いを出すと香りに引っ張られがちですが、スペックをほぼ揃えての米の品種違いでの飲み比べは改めて面白かったです。米の品種を変えているだけで、余韻やテクスチャーに至るまで、わかりやすく違いを出しているのはすごいですね。硬水で仕込むと酵母が活発で発酵力が強くなるので、酒米ごとの特徴が出やすいのだろうと思います」
「岩の井」ならではの山廃造りの山田錦や、定番ながらも味が乗った五百万石、地元・千葉県産の総の舞、関東では珍しい玉栄など、酒米の豊かなバラエティを体験できるシリーズ。千葉さんがお話しするように、その繊細な違いを鮮やかに表現できるのは日本屈指の硬い仕込み水だからなのかもしれません。
これまでのクラシカルな「岩の井」のイメージを覆す「赤ラベル」シリーズは、初めて日本酒に触れる人はもちろんのこと、日本酒ファンにとっても酒米と造りの違いを楽しめる商品です。千葉さんの提案するペアリングメニューを用意して、気になるお米から試してみてください。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
◎関連リンク
sponsored by 岩瀬酒造株式会社