パック酒を中心に、全国のスーパーやコンビニで見かける機会の多い日本酒ブランド「日本盛」。銘醸地として知られる兵庫県の灘に本社を置く、業界大手のメーカーです。
100年以上の歴史を持つ銘柄「惣花」をはじめとした定番商品のほか、近年は「生原酒ボトル缶」や「JAPAN SODA」など、日本酒の新しい価値を提案する商品も展開しています。
全国各地に安定した美味しさを届けている日本盛では、どんな人がどんな思いで酒造りをしているのでしょうか。今回は、酒造りの現場を統括する杜氏と、定番商品の安定した美味しさを支えるブレンダーを取材。酒造りにかける思いを語ってもらいました。
チャレンジ精神が、技術を向上させる
日本盛の製造責任者(杜氏)を務める中根永敏さんは、1991年に入社して以来、酒造りの現場で働いています。杜氏に就任したのは2016年。先輩杜氏の後を継ぐ形で現場を任され、現在は、日本盛の酒造りをひとりで統括しています。
伝統の技術を継承しながら、糖質ゼロ・プリン体ゼロの日本酒や、アルミボトル缶に詰めた生原酒など、“業界初”の商品を生み出し続けている日本盛。中根杜氏も「チャレンジ精神のある酒造りこそが、日本盛のスタイルです」と語ります。特に大きなチャレンジとなったのは、2015年に発売された「生原酒ボトル缶」だったのだとか。
「それ以前は、香りが穏やかな商品が中心だったのですが、特に『生原酒大吟醸ボトル缶』は香りが華やかな酒質を求められていたため、苦労したことを覚えています。新しい商品を開発する時は、営業や研究の担当者から『こういう香りや味わいの日本酒を造ってほしい』という依頼があるのですが、酒米や酵母などの組み合わせは無限なので、大変なんですよ(笑)」
「生原酒大吟醸ボトル缶」を開発した時は、加盟している丹波杜氏組合で、他の酒蔵の杜氏にアドバイスをもらえたことも、課題をクリアできた要因のひとつだったと振り返ります。
中根杜氏の「非常に大変でしたが、『生原酒大吟醸ボトル缶』のチャレンジを通して、私自身の酒造りの幅が広がったと思います」という言葉からは、難題を前にしてもあきらめない真摯なチャレンジ精神こそが、日本盛の酒造りの技術を向上させ、さらなる美味しさにつながっていることがわかります。
「どんな日本酒を美味しく感じるかは、人の好みによってさまざまです。日本盛の商品は種類が多く、自分の好みを見つけやすいのが良いところだと思います。チャレンジ精神から生まれた幅広いラインナップを楽しんでいただきたいですね」
また、2021年に新設された小仕込みの設備「SAKARI Craft」の存在も、日本盛の技術向上に役立っています。この「SAKARI Craft」では、一般企業からの依頼を中心に、フルオーダーメイドの日本酒を製造しています。
通常、日本盛は大型の機械を活用した大規模な酒造りがメインですが、「SAKARI Craft」は手作業が中心。お客さんからの注文だけでなく、全国新酒鑑評会などのコンテストに出品する日本酒も、この設備で造られています。手造りの作業から得られた知見も、日本盛全体の技術向上につながっているのです。
日本盛の美味しさは「チームワーク」がつくる
杜氏として仕事をする上で大事にしていることを尋ねると、中根杜氏は「チームワークです」と答えてくれました。「蔵人のチームワークがしっかりとしていなければ、美味しい日本酒は造れません」と断言します。
「酒造りの工程ごとに担当者が決まっているので、彼らをひとつにまとめるのが、もっとも大事な仕事です。ひとりでも考えが違ってしまえば、ひとつのものを造り上げるのは難しくなります。現場で働くみんなの様子を見ながら、プライベートの話も交えて会話をするようにしています。良い関係をつくることで、お互いに相談しやすい雰囲気になっていると思います」
信頼関係ができているからこそ、ミスがあればきちんと指摘し、その都度しっかりと指導しているという中根杜氏。いっしょに働く仲間の中には、次代の杜氏を目指している人もいるため、後継者を育てるという点でも指導に力が入ります。
そんな中根杜氏ですが、入社したての頃は、酒造りのおもしろさに気付いていなかったのだとか。当時、季節雇用で働いていた蔵人とともに、杜氏のもとで酒造りを学んでいく中で、「酒造りには正解がない」という点に魅力を感じていったそうです。
「ある時、杜氏さんが酛(酒母)を担当している蔵人さんに『中根に仕事を覚えさせたいので、中根に酛造りを担当させてやってくれないか』と頼んでくれました。酛造りはとても大事な工程なのですが、杜氏さんも蔵人さんも快く任せてくれたんです。もう20年以上も前のことですが、本当にうれしかったんですよ」
その時に「自分も杜氏になって、こういう人たちといっしょに酒造りを極めたい」と感じたのだといいます。
30年以上もの間、酒造りに携わってきた中根杜氏ですが、全国に流通する“変わらない味”を造り続けることに対して、常にプレッシャーを感じているといいます。そのぶん、完成した商品は我が子のように愛おしく、お客さんに褒められることが何よりもうれしいと話します。
「蔵開きなどのイベントでお客様に飲んでいただき、目の前で『美味しい』という声を聞くのが、自分にとっては最高の瞬間です。長い酒造りの苦労が報われたような気がするんです。杜氏冥利に尽きますね」
しかしその一方で、最近は“日本酒離れ”を実感する機会が増えているそうで、さまざまな場で日本酒の魅力をアピールしていきたいと語ります。そのために、「日本酒を好きになるきっかけとなるような、さらにその後も飲み続けたくなるような商品を造っていきたい」と、中根杜氏はこれからの意気込みを話しました。
“いつもの味”を支える、ブレンドの技術
全国流通の商品が中心の日本盛にとっては、醸造の技術だけでなく、酒質を安定させるためのブレンドの技術が欠かせません。中根杜氏が「搾った後の日本酒のことは任せている」と信頼しているのが、生産管理部でブレンダーの仕事をしている尾関貴博さんです。
尾関さんは、パック酒などのレギュラー商品を中心に、各タンクに貯蔵された原酒の香味や熟成具合を毎日チェック。加水などの調整やブレンドの比率を担当者に指示する業務を担っています。
「毎朝、その日に瓶詰めする原酒のチェックから、業務がスタートします。レギュラー商品は4〜5種類の原酒をブレンドしているので、各タンクに貯蔵した原酒のサンプルをテイスティングして、全体のバランスを考えながら、ブレンドのレシピを組み立てていきます。タンクごとの個性を掛け合わせて、商品ごとの“いつもの味”をつくる仕事です」
尾関さんが担当しているのは、リーズナブルな価格で、スーパーやコンビニなどで手に入りやすいレギュラー商品。日々の晩酌で飲んでいる人が多いからこそ、“いつもの味”をつくることの大きな責任を感じているといいます。
「自分が異常を見逃してしまったら、お客様のもとに意図していないものが届いてしまいます。それは絶対に避けなければいけません。何か異常があれば製造ラインをすぐに止めて、生産をストップすることもあり得ます。自分の仕事が社内・社外に大きな影響を与えるかもしれないという意識を常に持って、この仕事をしています」
そんな尾関さんは、テイスティングの能力を高めるため、日本醸造協会や酒類総合研究所のきき酒セミナーに参加するなど、研鑽を欠かしません。普段から、刺激の強い食事を避けるなど、繊細な味覚や嗅覚を研ぎ澄ませるために努力しています。それもすべて、日本盛の“いつもの味”を守りたいという責任感からきているのでしょう。
「蔵開きなど、お客様と直接お話しする時に『いつも美味しいお酒をありがとう』と言っていただけると、本当にうれしくなります。お客様の中には、数十年以上もの間、愛飲してくださっている方もいらっしゃって、日本盛のブレンダーとして高い品質を維持し続けなければならないと、身の引き締まる思いですね」
尾関さんに仕事の楽しさを尋ねると「世の中に出る前の個性的な日本酒を味わえたり、想像していなかった香りや味に出会えたりするのが楽しいです」と声を弾ませます。日本盛に入社したきっかけも「美味しい食事に合う、自分が美味しいと思う日本酒をお客様に届けたい」と思ったからなのだとか。食を愛する尾関さんにとって、ブレンダーは天職なのかもしれません。
中根さんと尾関さんへのインタビューを通して、いつでもどこでも安定した美味しさを提供し続けている日本盛だからこそ、“いつもの味”を求めているお客さんの期待に応えたいという思いが伝わってきました。
そして、ふたりとも、お客さんとの会話を振り返る時のうれしそうな表情が印象に残ります。日本盛の“いつもの味”を支える人たちの仕事は、飲み手の「美味しい」の笑顔に支えられているのです。
(取材・文:芳賀直美/編集:SAKETIMES)
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