日本酒を詰めるための容器といえば、ガラス瓶が主流です。これまで、日本酒の容器について強く意識されることはありませんでした。

しかし、飲用シーンによっては大活躍する魅力を秘めた容器もあります。軽量で持ち運びに便利なアルミ缶もそのひとつ。

今回、焦点を当てるのは、飲料容器における業界最大手の金属製品メーカー・東洋製罐(とうようせいかん)株式会社。日本酒専用のアルミ缶「日本酒缶」を、設備投資不要・小ロットで生産できるサービス「詰太郎」を展開しています。

日本酒缶と「詰太郎」とは、どのような魅力を持っているのか。そして、容器の進化が日本酒にもたらすものとは。秋田県大仙市で開催された「全国花火競技大会・大曲の花火」での事例とあわせてご紹介します。

日本酒専用の容器「日本酒缶」

軽量で持ち運びがしやすく、熱伝導率に優れているアルミ缶。紫外線を100%カットし、酸化も防げるため、日本酒を長い間フレッシュな状態に保つことが可能です。さらに、日本酒専用の容器として開発された日本酒缶にはさまざまな工夫があります。

東洋製罐の営業本部・落合正樹さんと平岡一哉さんにお話を伺いました。

東洋製罐の営業本部・落合正樹さん

東洋製罐の営業本部・落合正樹さん

「日本酒缶で特徴的なのは、フルオープンタイプの蓋。開けたときに、香りも楽しめるような形状になっています。また、日本酒は火入れした後の温かい状態で詰める『ホットパック』といった充填方法のため、冷ましたときに減圧されます。そのため、ビールなどの炭酸飲料と比べ、へこまないように材質が肉厚になっているんです」(落合さん)

破損のリスクは少なく、飲み切りサイズでコンパクトなため持ち運びもしやすい。お土産としてもぴったりです。

「秀よし 花火缶」

鈴木酒造店「秀よし 花火缶」

そんな日本酒缶の歴史は長く、新潟県・菊水酒造が造る「ふなぐち菊水一番しぼり」が第一号。それから約40年、日本全国の酒蔵で使われてきました。現在は、26蔵50商品に東洋製罐の日本酒缶が採用されているそうです。

「詰太郎」で日本酒缶をより身近に

多くのメリットがあるアルミ缶ですが、瓶ほどに流通していないのはなぜでしょうか。

「日本酒缶に充填するためには、数千万円もする大掛かりな設備を導入するか、手間暇かけて手詰めするかの2択しかなかった。導入するハードルが高かったんです」(落合さん)

そこで東洋製罐が考えたのが、レンタル可能な「詰太郎」という小型の充填機でした。持ち運びできる充填機を開発し、導入するハードルを下げて日本酒缶を活用してもらおうというアイデアです。

レンタル日本酒充填機「詰太郎」

レンタル日本酒充填機「詰太郎」

「詰太郎」のサイズは、長さ3m・幅1.2m・高さ2.25mと一般的な充填機に比べて非常にコンパクト。充填部分は透明なボックス状になっていて、内部の圧力が外気圧よりも高い微陽圧の状態に。液体を充填するフィラーにはきめ細やかなフィルターが付いているため、ゴミや虫が入るのを防ぎ、瓶のように目視で異物混入をチェックできない点もカバーしています。

注文があればトラックで蔵まで運ばれ、充填作業が終わったら洗浄して、回収用のトラックに乗せて返却するだけ。大掛かりな設備投資をすることなく日本酒缶を導入できる、画期的なサービスです。1日単位で借りられることも魅力です。

東洋製罐の営業本部・平岡一哉さん

東洋製罐の営業本部・平岡一哉さん

「酒蔵さんに用意していただくのは、タンクからお酒を送るポンプとホースだけ。電気接続や配線は派遣された技術スタッフが行い、取り扱いの説明もします。日本酒缶には興味を持っていただけることが多かったので、レンタルという形態であれば導入しやすいのではないかと考えました」(平岡さん)

花火×日本酒が生んだ「秀よし 花火缶」

新たなサービスとして昨年からスタートした「詰太郎」。短期的なレンタルも可能なことから、地域のイベントにあわせたコラボ商品の開発にもぴったりです。秋田県大仙市で「秀よし」を醸す鈴木酒造店では、同じく大仙市で8月31日に開催された「全国花火競技大会・大曲の花火」とコラボした「秀よし 花火缶」を「詰太郎」で製造しました。

花火大会で売り出された花火缶

大曲の花火は、毎年80万人の見物客が訪れる大きなイベント。しかし、「多くの人が大仙市に足を運ぶ機会にもかかわらず、花火以外の観光資源や魅力が伝わっていないという課題があった」と、大仙市企画部総合政策課・加賀貢規さんは話します。

「自然豊かで米どころでもある大仙市は、酒造りも盛んな地域であり、花火に並んで地酒も大事な観光資源です。地域創生策である『大仙市花火産業構想』に取り組むなど、『花火』と『日本酒』というふたつの魅力を活用しようと画策していました。そんなとき、『大曲の花火とコラボした日本酒缶を作ってはどうか』と、企画制作会社からご提案をいただいたんです。『詰太郎』を知ったのもそのときでした。

通常の行政では、企画の実施に対して十分な内部検討を必要としますが、当市の老松市長はとても判断が素早い。今回の企画も『ぜひ進めるように』と早い段階で許可をいただき、速やかに企画をスタートさせることができました」(加賀さん)

その後、すぐさま鈴木酒造店を含む市内の酒蔵に企画を説明したそう。「この判断の素早さが成功要因のひとつだったと思います」と、加賀さんは当時を振り返ります。

一方、鈴木酒造店は今年で創業330年の老舗蔵。節目を迎えるにあたり、酒蔵観光やレストランの経営など積極的にさまざまな取り組みを行い、地域の活性化に注力してきました。その活動の一環として、大曲の花火とコラボした「秀よし 花火缶」の開発に踏み出し、「詰太郎」の導入を決めたといいます。

鈴木酒造店の代表取締役・鈴木直樹さんにお話を伺いました。

鈴木酒造店の代表取締役、鈴木直樹さん

鈴木酒造店 代表取締役・鈴木直樹さん

「さまざまな飲料にアルミ缶の商品はありますが、日本酒業界ではまだ少ない。それでも、紫外線に強く保存の面でも優れているので、一度使ってみたいと思っていたんです。また、花火大会を見に来る方も、軽量なアルミ缶のお酒なら気軽に持ち込んでもらえるのではないかと考えました」

鈴木酒造店では「詰太郎」を3日間レンタルして、22,000本の「秀よし 花火缶」を製造。操作上の問題もなく、スムーズに導入できたとのこと。

「操作が簡単なこともあり、2名という少ない人数で作業にあたることができました。ボックスの中も透けて見えるので、非常に衛生的です。事前に丁寧な説明があったので、導入に不安はなかったですね。企画が立ち上がってから花火大会当日まで1ヶ月半という短い期間でしたが、大きな問題もなく進められました」

日本酒缶が、地域を活性化させる

デザインの自由度も日本酒缶の大きな魅力です。すべての面に印刷可能で、思わず手に取りたくなるようなデザインを自由に表現することができます。

「今回は時間の関係もあり、デザインの製作も東洋製罐さんに依頼しました。光り輝くアルミ缶の特徴を利用して、花火が輝いて見えるようなデザインをお願いしたんです」(鈴木さん)

使える色は6色と限られていますが、きらめきのある透明感や、マットで上品な雰囲気を出したりと、缶ならではの表現ができるのもポイント。そのデザイン性の高さから、普段は日本酒を飲まない人でも目を奪われてしまいそうです。

実際に「秀よし 花火缶」を販売した鈴木さんは、イベントとの相性が良かったと話します。

「イベントに際して、冷えやすいところは利点です。『氷水に入れるとすぐにお酒が冷えて使いやすかった』と販売員の方からもコメントをいただきました。また、軽量のため持ち運びやすく、処分しやすいところもイベント向きですね。花火会場で飲む人も多かったのですが、コンパクトで安いこともあり、お土産に買って帰る人も多かったです」(鈴木さん)

そのサイズや値段の手頃さから、ひとりで100缶を注文するお客さんもいたのだとか。夏の花火が終わった後も、大仙市では春・秋・冬の花火大会を加えた「四季の花火」を開催しているため、今後の需要もありそうです。

パケうぉっちの使用画面

また、東洋製罐がリリースしているARアプリ「パケうぉっち」も大活躍。スマホを缶の印刷面にかざすと、「酒のあてMOVIE」と題した、大曲の花火の予告ムービーや酒蔵のWEBサイトが表示され、お酒といっしょに楽しむことができます。

「今後はイベントだけでなく、季節商品や定番商品でも日本酒缶を作ってみたいですね。たとえば、新酒の生酒や、春の花見、秋の行楽にも最適です。また、田沢湖や乳頭温泉など、秋田の観光地とあわせて商品を展開するのもいいかもしれません」(鈴木さん)

「パケうぉっち」や冷えやすくてコンパクトな形、デザインの自由度など、イベントに適したさまざまな特徴を持っている日本酒缶。大仙市の加賀さんが「地域の活性化につながった」と話す通り、イベントの知名度向上や親近感の創出により、リピーターの増加も期待されます。日本酒缶、そして「詰太郎」はただの充填サービスにとどまらず、地域創生にも役立っているのです。

「秀よし 花火缶」を花火と楽しんでいる様子

今回、大曲の花火とコラボした「秀よし 花火缶」を発売したことで、大仙市は想像以上の手応えを感じているそう。

「今後は、国指定重要無形文化財『刈和野の大綱引き』といった伝統行事や、国指定名勝『旧池田氏庭園』などの史跡や文化財を巡るツアーと日本酒缶を組み合わせて、新規顧客層にもアピールしていきたいですね」(加賀さん)

日本酒の飲用シーンをさらに広げている日本酒缶と「詰太郎」。それは、日本酒が地域創生の手段にもなり得る、さらに魅力あるものへと引き上げているサービスでした。地域と連携した新しい取り組みの形として、今後も期待が高まります。

(取材・文/橋村望)

sponsored by 東洋製罐株式会社

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